冬の日のありがとう③




―――だ、誰だ・・・ッ!

―――って、誰かは決まっているか。


慌てる心を押さえ付け、笑梨と共に廊下へ注目した。


「きっとママとパパだ!」

「まぁ、そうだろうな・・・」


この家には他に誰もいないため当然だ。 もし違ったならば、本当に不審者ということになる。


―――無事プレゼントがもらえたのか確認しに来たのか?

―――ど、どうしようッ!


玲也のためにサンタとして来ているのだからサンタ姿を見られたとしてもそれ程問題ではない。 だが先程の話を聞いた後では、どんな顔をして会えばいいのか分からなかった。 

手紙はまだ書き終えていないため渡すこともできない。


「さ、サンタさん! こっち!」

「わッ!?」


笑梨は鉛筆と手紙を持って押し入れの方へ走っていった。 玲也も携帯を握り締め、笑梨が入るよう促した押し入れの中へと入り込む。


―――狭ッ・・・。


玲也が中に入ったことを確認すると笑梨も一緒に入ってきた。


―――・・・え?

―――笑梨ちゃんまで隠れちゃって大丈夫?


促されるまま隠れたのは笑梨だけが部屋に残り両親に何かを話すと思っていたのだ。


―――一応、笑梨ちゃんの前にしかサンタは現れないっていう設定だったよな。


これまでで玲也がサンタをやる間に両親が笑梨の部屋にやってきたことはなかったはずだ。 やはり何かがおかしい気がする。 

やがて足音は部屋の前で止まり、それを合図にしたかのように二人は息を殺した。


「サンタさん、喋らないようにね」

「う、うん・・・」


そしてドアが開いた。 やはり入ってきたのは不審者ではなかった。


「笑梨ちゃーん? サンタさんからプレゼントはもらえたー?」


母の異様に陽気な声が聞こえてきた。 同時に部屋が明るくなり、緊急事態に気付いたようだ。


「笑梨がいないじゃないか! どこへ行った!?」

「玲也くんもどこ!?」


―――マズいッ!


まさか両親の口から玲也の名が出るとは思ってもみなかった。 笑梨が小さく首を傾げる。


「玲也、お兄ちゃん・・・? どうして玲也お兄ちゃんの名前が出てくるの?」


―――ほら、だから言わんこっちゃないって!

―――これはこれで、こっちもマズいんだけど・・・。


「とにかく玲也くんに連絡を」

「あぁ、そうだな」


窓の鍵は開いたままのため、玲也が笑梨と一緒にいると考えるのが普通だろう。


―――マズい、携帯が鳴る!


「サンタさん・・・?」


ガサゴソと態勢を整えていると笑梨が不思議そうに見てきた。 それに構わず今は携帯の電源を切るのが先だと考えた。 だが間に合わず笑梨の父からメッセージが届き通知音が鳴ってしまったのだ。 

辺りは静まり返った。


「笑梨ちゃん、これはその・・・」


困惑している笑梨に何を言えばいいのか分からなかった。


「押し入れから何か聞こえたぞ!」

「もしかしてそこにいるの・・・?」


だが今は弁明している場合ではなさそうだ。 両親が押し入れに近付いてくる。


―――うわ、終わりだ・・・。


もうサンタクロースの役は任せてもらえないのだろうか。 今後のこの家族との関係もどうなるのか気になるところだった。 やましいことはしていないが、今の状況が既にやましい気がする。 

ただ二人が来たから隠れたわけで、来ていなかったら隠れていないのだ。


―――部屋に来るって話が違うだろ!

―――って、笑梨ちゃん!?


両親は笑梨の姿と押し入れの奥にいる玲也の姿を見て固まった。


「駄目! サンタさんは何も悪くないの! だから責めないで!」


両手を広げ玲也を守るようにして笑梨はそう言ったのだ。



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