冬の日のありがとう

ゆーり。

冬の日のありがとう①




「玲也くん、こんばんは。 今年もありがとうね」


クリスマスイブもまもなく終わり、25日へと差しかかろうという時間。 玲也(レイヤ)のアパートには毎年恒例となった行事のため、ある家族の男性が訪れていた。 


「じゃあこれ、任せてもいいかな?」

「はい」


赤い服に赤い帽子、そしておまけに白い髭。 誰が見ても分かるサンタクロースセットを受け取ると、次に大きなプレゼント箱も渡される。 


「今年は何を頼まれたんですか?」

「熊のぬいぐるみだよ。 笑梨は今ぬいぐるみにハマっていてね」

「そうなんですね。 今はそういうお年頃かな」


笑梨(エリ)というのはお世話になっている近所の家の娘さんだ。 昔から仲よくさせてもらっていて、玲也からしてみればもう一つの家族のようなもの。 

笑梨にも慕われていて、一人娘の彼女からしてみればお兄さんのような扱いである。 


「じゃあ僕は家に戻っているから。 あとは頼んだよ」

「はい。 ではまた」


笑梨の父親は穏やかに笑うと帰っていった。 もうあまり時間もないため急いでサンタクロースの服装に着替える。


―――今年で五年目か・・・。

―――笑梨ちゃんはいつまでサンタクロースを信じるのかな?


今から玲也は近所で仲よくしている笑梨の部屋へ入り、気付かれないようにクリスマスプレゼントを枕元に置くというサンタクロースの仕事をすることになっている。 


―――いつもよくしてもらっているし、サンタクロースの役目をするのは面白いから続けてはいるけど・・・。

―――もし俺が近所のただの玲也だと知ったら、笑梨ちゃんはどんな反応をするのか。


笑梨は今年で十歳を迎えている。 もちろん、その誕生日は一緒に祝ったしサンタクロースの存在を疑ってはいない。 

だが自分がサンタクロースがいないことを気付いたのは丁度この歳くらいからで、年々不安は増していっている。 いつかはバレる日が来るのだろう。 

ただ自分のミスでそれがバレてしまうかと思うと、やはり少々怖いのだ。


―――笑梨ちゃんの両親がこっそりプレゼントを枕元に置こうとした途端、笑梨ちゃんがタイミング悪く目覚めちゃったんだよな。

―――だけど寝ぼけているのか両親の姿はハッキリと見えなくて、翌日に『サンタさんに会ったんだ!』って嬉しそうに俺に報告してきて・・・。

―――サンタさんを信じてしまってあんな笑顔を向けられたら、断れるわけがないだろ。


それ以来サンタが現れるまで寝ずに起きているようになってしまったらしい。 両親と笑梨の我慢比べ。 

昔なら小さいということもあり疲れて寝てしまっていたのだが、成長するにつれ起きている時間が遅くなっていった。 

それを心配した笑梨の両親が玲也にサンタクロースの代理をしてくれないかと頼んできたのだ。 特に断る理由はなかったため快く協力した。


―――高校生だった俺は既に大学生だ。

―――少しは大人に見えるようになったかな・・・?


プレゼント箱を白い大きな袋に詰め早速笑梨の家へ出発する。 足音を立てないようこっそりと敷地内へ入り、笑梨の部屋を見上げた。


―――正直、この脚立を上るのが一番緊張する。

―――縄だと上るのに大変だし、まぁこれしかないと思うけどさ。


脚立は笑梨の父親が予め用意してくれている。 煙突はないためそこから入るということはできないが、窓は笑梨自身で開けてくれているのだ。 

窓から侵入する姿を誰かに見られたら、そうは思うが、このクリスマスの日であれば問題ないかとも思った。 

だが普段ならなんてことない脚立登りもプレゼントを持ちサンタの格好をしていれば非常に大変な仕事だ。


―――キツッ・・・。


脚立はかなり音が軋み、サンタクロースが近付いてきていると容易にバレてしまう。 笑梨もそれが分かっているのか窓の外を覗きこもうとはせず、今か今かと待っているのを知っている。 

しかし、順調に上り一安心したところで問題が発生した。


―――よし、これで窓を開け・・・。

―――って、鍵がかかっている!?


窓を開けようとしたが鍵がかかっていた。 いつもは笑梨がサンタが入りやすいようにと鍵を開けてくれているが、今年は忘れてしまっているのだろう。 

それとも、サンタなら鍵がかかっていても入れるのではないかと試しているのかもしれない。


―――うわマジか、どうしよう・・・。


ここで引き返す選択肢はないが、玲也に鍵を外から開ける技術があるわけもない。 途方に暮れていたが、この状態でいるのは流石に見られるとマズい。 

下手をすると警察に通報されてしまうのかもしれない。 そう思い意を決して窓をノックした。 するとすぐにカーテンが開く。


「サンタさん!」


笑梨は笑顔で顔を出し窓を開けてくれた。 靴は脚立を上る時に脱いでいるためそのまま部屋に入る。


「やぁ。 笑梨ちゃん、窓を開けてくれてありがとうね」

「ううん! サンタさんをずっと待っていたんだもん! 今年も来てくれて嬉しい!」

「そうかそうか。 今年もいい子にしていたかな?」

「・・・」


そう尋ねると笑梨は少し不安気な表情を見せた。 クリスマスにそんな表情はさせまいと早速袋からプレゼントを取り出した。 

笑梨の両親から預かっていた袋には、本命のクマのぬいぐるみとは別にお菓子も入っている。


「はい、どうぞ。 プレゼントを持ってきたよ」


笑梨はプレゼントを受け取った。 だがどこか浮かない顔をしている。


「・・・笑梨ちゃん? どうかした?」


そう言うと笑梨は突然玲也に抱き着いてきた。


「お願い。 私だけのサンタさんになってください!」



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