第84話 改築 其の二

「ライトさん、行ってきますね!」

「新しい家、楽しみにしています!」

「定時には戻ります。では」


 三者三様の挨拶をして恋人達は仕事に向かっていく。

 今日から俺とリリが自宅の改装を始めるのだ。

 自宅っていっても箱だけなら俺の力で一日で終わらせることが出来る。

 内装に関して気に入らないところがあれば後日直せばいいさ。


 家具の類いは一旦外に運び出す。あまり荷物は持っていないとは思ったが、結構な量になったな。

 そりゃリリも含めると五人で暮らしているからな。 

 荷物も増えて当然か。

 

 まずは三階からだ。リリのベッドを肩に担ぐ。

 空いている手で私物を詰めたカバンを持って階段を下りていると。


「うわぁ。ライトって力持ちなんだね」

「ん? そうでもないよ。リリのベッドが軽いだけさ」


 なんてことを言うが今の俺って転移して頃より強くなってるんだよな。

 ステータスでは王都最強と呼ばれたシャニより上だ。

 俺の力は経験値によるレベルアップはないが、リディア達、村民を満足させることで上がる。

 壁しか作れない俺だが、そう思うと割りとチート性能だったんだな。


 続いて二階、一階の荷物を運び終える。

 ふー、中々大変だった。

 今も日本で頑張ってる引っ越し屋さんに感謝しないとな。

 

 それじゃ改築を始めようか。

 我が家よ、今までありがとな。家に指を指してから……。


【消えろ】


 ――ゴゴゴッ


 家は沈むように地面に消えていった。

 元々は壁を利用して作った家だ。建てるのも消すのも自由自在ってね。

 

「いつ見てもすごいなー。これって魔法じゃないよね? やっぱりライトって異邦人なんだね」


 とリリが言う。

 異邦人というのは転移者のこの世界での呼び方らしい。

 どうやら俺の他にも転移者はいたようだが、異形を前にその命を散らしたらしい。

 俺をこの世界に呼んだ女神がそんなことを言ってたな。

 もし俺の力が壁以外だったら、他の転移者同様異形に食われてしまったかもしれん。


「まぁな。それじゃ建てようか。昨日話した通りでいいな?」

「うん!」


 今回の家は石壁と木壁の両方で作る。

 ちなみに鉄壁だと夏は暑さでやばいことになりそうだったので使わないことにした。

 まずは基礎になる部分と床面予定地に向かって壁を発動する!


 ――ズズゥンッ 

 

 基礎が出来上がり、さらにその上に石壁を設置していく。

 今回は風呂を作る予定なので前の家の二倍程度の広さにしておいた。

 一階はリビングと台所、そして風呂だ。トイレもあるぞ。

 そしてさらに俺の部屋を設置しておく。造りは前とほとんど変わらないな。

 そしてそのまま二階、三階と続くわけだが。


「あのね、私のお部屋も二階に作って欲しいんだけど……」


 とリリが言う。

 うーん、二階かー。出来たら三階に住んで欲しいんだけどなー。

 別にリリを避けているわけではない。

 彼女のことを思ってこそ、今まで三階に住んでもらっていた。

 エッチなことは基本的に俺の部屋でする。

 二階だと声が聞こえちゃうのだ。

 それにたまにだがリディア達に誘われて彼女達の自室でしちゃう時もある。

 幼いリリが近くにいるのにアンアン言っている声を聞かせるのも……。


 まぁリリの部屋に超防音シートを貼っておけばいいかな。

 

「いいよ。それじゃシャニの隣に……」

「えっ!? シャニねえの隣!?」

 

 と驚いた顔をする。

 二人って仲が悪いわけではないが、リディア達に比べると少し上手くいってないようだ。

 シャニは基本的に無表情だから怖いのかもしれんな。

 

「いやー。リディア姉かアーニャ姉の隣がいいー」

「わがまま言わないの」


 ちょっと強引ではあるがシャニの自室の隣にリリの部屋を作ることにした。

 作ると言っても壁を建て空間を隔てるだけなので簡単に終わった。

 ちょっと面白くなさそうなリリだったが、自分の部屋が広くなり、二階に住めるようになったのですぐにご機嫌になる。

 三階は変わらず物置として使うことに。

 まぁこれ以上同居人は増えないだろうからな。


「ふふ、そんなことないかもよ? ライトってもてるもんね。また女の人を引っ張りこむつもりじゃないの?」

「こら、からかうんじゃないよ」


 引っ張りこむって。確かに複数人とお付き合いはしているが、全員きちんと好きになった相手なのだ。

 その後は屋上に物干し台と落下防止の柵を作って大まかな建設を終える。

 デザインと素材にこだわったが、それでも一時間程度で済んだな。


 さぁ、これから一番の目玉である風呂を作るとするか。

 ちなみに一階の面積の1/3は風呂として使う予定だ。

 みんなの意見を取り入れた結果、かなり大きな風呂場を作ることになってな。

 

 まずは湯船から。

 家風呂なので地面に埋めるタイプのものではなく、石壁を加工して凹型の湯船を作る。

 形は普通だが大きさが普通ではない。

 リリを含めた五人で浸かっても余裕で足が伸ばせるほど広いものを作る。

 そして床面も石壁を横に伸ばしたものだ。

 壁の一部に排水用の小さめな穴を開ければあっさりと完成する。


「うわー、おっきいね! ねぇライトー。せっかくだし先に入ってみようよー」

「無理だって。まだ水路に引いてないだろ?」


 風呂に入るためには湖から自宅に向けて水路を引く必要があり、さらには排水路も作らなければならない。


 ここでお腹も空いたので一休みにすることにした。

 午後は水路を作るからな。しっかり休んでおこう。

 昼食を作るのも面倒なのでリリと二人で食堂に向かう。

 料理が出来ない村民もいるのでラベレ村では朝昼晩と三食食べられるよう食堂を建設してあるのだ。

 基本的に朝と晩は自分達で作ることが多いが昼は食堂を利用することが多いな。

 リリと手を繋いで食堂に向かう。


「お腹空いたねー」

「だな。今日は何を食べたい?」


「ラーメン! あれってライトの世界の食べ物なんだよね? すごく美味しいよね!」

「リリはラーメンが好きだな。それじゃ俺もラーメンにするかな」


 味噌、醤油を製造してから調味料が充実した。

 そこで俺はパンの原料であるナババの粉で麺を打ってみたんだ。

 素人が作る麺なのでお金を取れるような味ではなかったが、村民はかなり気に入ってくれたようで。

 今では麺もスープも改良されて日本でも行列が出来るのではないかと思うほどの美味いラーメンが食べられるようになった。


 食堂に到着し俺は調理担当の村民に味噌ラーメンを作ってもらうよう頼んだ。

 って言っても言葉が通じないので笑顔でメニューを指差すだけなんだけど。


「私は醤油ー」

「щibay!」


 リリは慣れたように注文する。

 やっぱり言葉は通じているらしい。

 何故俺だけ村民達と言葉が通じないのか。

 まぁ特に困ってるわけではないし、通訳としてリディア達がいるからな。


 テーブルに二つのラーメンが運ばれてくる。

 さぁ、しっかり食べて午後の仕事も頑張るとするか。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



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