第49話 待望の……!☆

「グルルルルッ。中々広いな」

「だろ? これなら充分魚が住めるぞ」


 俺とデュパは養殖施設として作った溜め池にいる。まだ水は入れてないけどな。

 基礎は石壁を利用して作ってある。これなら敷地の土が水に溶け込むことはないだろう。

 話によると湖にいる魚、エビは綺麗な水じゃないと生きていけないらしい。

 デュパ達は貴重な資源を守るため、とにかく水を汚さないように長年努めてきた。

 むしろ曾祖父の代ではゴミや排泄物を湖に流してしまい、食糧危機に陥ったそうで。

 自分達が犯した失敗から学んだそうだ。


「それじゃ水を流すか。消えろ!」


 ――スッ


 仕切り用の壁を消去すると水路の水は勢いよく溜め池に流れ始めた。

 これで湖から魚を掴まえてきて、溜め池に放せばいい。


「グルルルルッ。すぐには魚は食えんか」

「仕方ないだろ。増えるまで少し時間はかかるさ。デュパ、養殖場の管理は任せてもいいか?」


 長年湖の洞窟で生きてきたんだ。

 少なくとも俺よりは魚の知識があるだろ。

 俺は食べるのが専門だしな。


「任せてくれ。それと一つ気になることがある。聞いてもいいか?」

「あぁ。何だ?」


 デュパはとある一角を指差す。


「あそこにも溜め池があるようだが小さいな。それも二つあるのだが」

「あれね。あれは溜め池じゃなくて風呂だよ」


 むふふ、ようやく風呂も完成したのだ。

 だが今回は人も増えてきたので男女別で二つ作ってある。

 一緒に入れないとアーニャ達がガッカリしちゃうから一応考えていることはあるのだ!


「グルルルルッ。しかしあの量の水を湯に変えるのか?」

「んー、それにも考えがあってね」


 今回の風呂はかなり大きい。10人同時に入っても足が伸ばせるくらいの広さだ。

 従来通り焼けた石を水に入れて湯を湧かす方法は使えないだろう。

 そうだ、せっかくだし風呂を試してみるか。

 ちょうど話の通じるおっさん蜥蜴もいることだしな。


「なぁ、良かったら一緒にどうだ?」

「グルルルルッ。遠慮しておこう。我らは熱いのは苦手でな」


 まじか。ちょっとデュパの肌を触らせてもらったが、確かにひんやりしている。

 何でもリザードマンには風呂に入る文化は無いそうだ。

 皮膚が汚れても定期的に脱皮しているらしい。

 すげえなリザードマン。


「グルルルルッ。我らは水で体を洗えれば充分だ。風呂はライト達で楽しんでくれ」

「そうか、残念だが仕方ない」


 せっかく言葉の通じるおっさん友達が手に入ったというのに。

 ん? ということは……。

 一つ気になったことがある。


「なぁ、リザードマンがお湯が苦手ならさ、ラミアはどうなんだ?」

「蛇人か。詳しくは知らん。むしろお前の方が知っているのではないか? 全く酔狂な男だな。蛇人と番になるとは。ではまだ日が高い。私は湖に行ってくる」


 デュパはちょっと嬉しそうに村を出ていった。

 何でも魚を捕獲しに行くんだと。

 早く養殖を始めたいんだろうな。


 まぁ、彼らにあてがった仕事だ。

 頑張ってもらうとしよう。


 風呂に水を流してから俺も一度自宅に戻る。リディア達に風呂が出来たことを報告しなければならないからだ。

 ついでにアーニャに熱いお湯は大丈夫か聞いてみよう。  


「お帰りなさいませ!」


 自宅に戻るとアーニャが蛇の下半身をシュルシュル這わせ出迎えてくれる。

 尻尾も使ってクルクルと巻き付いてくる。

 これがラミアの愛情表現なのだろうか?


 アーニャの顔はとても嬉しそうだ。

 風呂は今日完成すると伝えていたからな。


「ただいまアーニャ。その顔は俺が言うことを分かってるよね?」

「はい! 出来たんですね!」


 本当に嬉しそうだ。アーニャとはまだ一緒に風呂に入ったことはないからね。

 それにしてもアーニャしかいないのかな?

 せっかくだしリディアとも久しぶりに風呂に入りたいのだが。


「リディアさんならエルフ達と弓を作ってるはずですよ」


 そうかー。仕事の邪魔をしちゃ悪いかな?

 でもさ、風呂の入り心地をみんなに伝えるのと仕事の一つだよな。


「すまんがリディアに声をかけてきてくれないか?」

「はい! リディアさんも楽しみにしてましたからね!」


 アーニャはいい子だなぁ。俺一人に二人の恋人という関係なのに、リディアを嫉妬することなく良好な友人関係を保っている。

 

 あ、そうだ。これは最初に聞いておかねば。


「あのさ、アーニャって熱いの苦手?」

「お風呂のことですよね? 大丈夫ですよ。確かに蛇の部分は長い時間お湯には浸かれませんけどね。お湯から尻尾は出しておけば問題ありません」


 なるほど。それに彼女が言うには尻尾を外に出しておけば体全体に熱が回るのを防げるそうだ。

 ラジエーターみたいなもんだな。

 ついでにリザードマンみたいに脱皮するかも聞いてみた。

 数年に一回下半身の皮が剥けるらしい。

 よし、脱皮した時は皮をもらってお財布に入れるとしよう。


「それでは行ってきます」

「あぁ、風呂で待ってるよ」


 アーニャはリディアを呼びにエルフ達の作業場に向かう。

 それじゃ俺も行こうかね。


 再び風呂場に行くと、湯船には並々と水が張られている。

 だがまだ水だ。お湯ではない。

 これから石を焼いてお湯を沸かすのでは時間がかかりすぎる。

 なので俺はこんな方法を考えた。


 湯船の中に向かって発動する!


【壁!】


 ――ズゴゴッ


 現れた壁のすぐ横に新しい壁を建てる!


【壁!】


 ――ギギギッ


 次の石壁は湯船の中で擦れながら現れた。

 

【消えろ! 壁!】


 水の中で壁の出現と消失を繰り返す。

 要は水の中で強い摩擦を発生させて水の温度を上げるのだ。

 壁が出現する際の速度は相当なものだ。

 しかも壁の素材は石に変わっている。

 壁同士が擦れあう際に発する熱量も相当のものだろう。

 数分これを繰り返し、ちょっと温度を確かめる。

 

 ――チャプッ


 おぉ、考えた通りだ。まだぬるいが明らかに水の温度ではない。

 さらに繰り返すこと数分、次第と水面から湯気が上がり始めた。


「ライトさーん! 完成したんですね!」

「リディア? お仕事ご苦労様。そうなんだよ。お湯も今ちょうど沸いたんだ。せっかくだしさ、みんなで入ってみようか!」

「うぅ、念願のお風呂……」


 アーニャは何故か感動したようで目をうるうるさせていた。

 脱衣所も作ってあるのでパパッと服を脱ぐ。

 二人も一糸まとわぬ姿で脱衣所から出てきた。

 うーん、いつ見ても美味しそうな体だ。


「あ、明るいところだと恥ずかしいですぅ」

「ふふ、アーニャは照れ屋さんだね」


 むしろリディアは堂々としすぎていると思うぞ。

 エルフの中では大きすぎる胸を隠すことなく見せつけてくる。

 彼女の胸はFはあるだろう。それ以上かもしれない。

 

 いかん、これ以上美しい恋人達の裸を見ていては。今日の目的はアーニャ達とお風呂を楽しむためなのだ。

 まぁ、今日は入り心地を確かめるだけなのでイチャイチャするつもりはないが……。

 いやね、俺はイチャイチャするつもりはないんだよ? 

 だがアーニャはそうは思っていないようだ。

 

 なんか俺の腰の前に彼女の顔があるんだが。


「アーニャさん?」

「ふぁい。いふぁきへいにしゅますね」


 何を言っているか分からない。

 だって彼女の口には……。

 

「まだ洗ってませんが?」

「きにひましぇん」

「あー、アーニャずるーい。次は私もー」


 なんかリディアも参加してきた。

 いやね、この村は割りとオープンなわけよ。

 助けた村民達が小屋のかげでイチャイチャしてるのもよく見るし、夜になればセクシーな声はあちこちから聞こえてくる。

 そんなオープンな村でもいざ自分が露天風呂であんなことやこんなことをされている姿を見られたら恥ずかしいぞ。


「ね、ねぇ二人ともさ。続きは夜にしない?」

「「ひやれす」」


 風呂を楽しむ前にしっかりと搾り取られてしまった。

 何を絞り取られたのかは秘密だ。

 

 うぅ、疲れを取るために風呂を作ったのに。

 余計に疲れてしまったぜ。


「うふふ、すごく気持ちいいです」

「ははは、気に入ってくれたみたいだね」


 アーニャは俺の胸にしなだれかかる。

 彼女を抱きしめつつ、いつものように髪を撫でてあげた。

 そうだ、さっき何故あのようなことをしたのか聞いてみよう。


「だ、だってライト様はリディアさんとお風呂で……。あの、その……」


 なるほどね。話を聞いてて羨ましくなってしまったのか。

 悪い子だなぁ。でも可愛いから許してあげよう。


「ふぅー。やっぱりお風呂は気持ちいいですね。ふふ、これからまた一緒にお風呂に入れますね」


 今度はリディアが俺の膝に乗ってくる。

 こっちも可愛かったので後ろから小玉スイカをポワンポワンしておいた。


「きゃん、ライトさんのエッチ」

「いや、むしろエッチなのは君達なのでは? ははは、まぁいいか。あのさ、風呂なんだがみんなが気軽に使えるよう男女別にしておいたんだ」


 じゃないと風呂でイチャイチャする輩も出てくるだろうし。

 いやね、今日は入り心地を確かめるための実地検査なのだ。

 だからノーカンということで!


 だがやはり恋人と風呂を楽しみたい者はいるだろう。

 なので深夜の入浴は予約制にした。

 

「うーん、ライト様と気軽に楽しめないのは残念ですが……」

「仕方ないよね……」


 と二人も分かってくれた模様。

 そうそう、まずは村民達が楽しんでくれることを優先的に考えないとね。


「ねぇライト様?」

「何?」


「村長権限として自宅にお風呂を作るのはいかがでしょうか?」

「アーニャ! それよ!」


 それよ!じゃねえよ。

 分かってない二人だった。

 まったくこいつらときたら……。

 

 まぁ、可愛い彼女だしな。

 願いを叶えてあげることも彼氏としての務めなのかもしれん。


「そうだな。もう少し村が大きくなって土地に余裕が出来たら、家風呂でも作ってみるか!」

「ライトさん! 大好き!」

「愛してます!」


 リディア達は興奮したようにキスをしてくる。

 ははは、分かったよ。その内俺達専用の風呂を作ろうな。


 ――ピコーンッ


【配偶者満足度が上限に達しました。成長ボーナスとしてモース硬度選択がアンロックされます】


 一気に満足しちゃったみたいだ。

 モース硬度って?

 ちょっとステータスを見てみるか。



名前:前川 来人

年齢:40

種族:ヒューマン

力:100(+20) 魔力:0 

能力:壁レベル3(石)

派生効果①:敷地成長促進

派生効果②:遭難者誘導

派生効果③:感度調整

派生効果④:A/P切り替え

派生効果⑤:モース硬度選択(村民数に応じて硬度選択範囲が決定。村民1人に対して1㎝)

配偶者:リディア、アーニャ



 範囲狭っ!?

 んー。村民数に依存する力か。

 かなり使い辛そうだな。

 今は様子見だな。



◇◆◇



☆現在の総配偶者満足度:0/50000

・リディア:配偶者満足度:0/50000

・アーニャ:配偶者満足度:0/50000


☆総村民数33人

・エルフ:8人

・ラミア:5人

・リザードマン:20人


☆総村民満足:1854/10000


☆現在のラベレ村

・石壁

・敷地面積:5000㎡


☆設備

・家屋:10棟

・倉庫:2棟

・櫓:4基

・畑:1000㎡

・露天風呂:2つ

・水路

・養殖場:運用開始


☆生産品

・ナババ:パンの原料。

・ミンゴ:果物。

・ヤマイモ:生食可。ねっとりしてる。

・茶葉:薬の原料。嗜好品としても優秀。

・カエデ:樹液が貴重な甘味となる。

・豆:保存がきく。大豆に近い。

・キャ采:葉野菜。鍋にいれたい味。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



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