第28話 引っ越し 其の一

「ご、ご主人様。朝です。起きて下さい」


 目を開けると昨日新たに村民になった蛇人のアーニャが顔を赤くしていた。

 

「うーん、おはよ、アーニャ。早いんだね。でさ、ご主人様は止めて欲しいんだけど」

「申し訳ありません。ご主人様は私の命を救ってくれた恩人ですので。メイドとしての経験を活かしご主人様を支えていきたいのです。で、でも寝る時は寝間着を着たほうがいいと思いますが……」


 アーニャの顔が赤い理由が分かった。

 隣で裸のリディアが寝ているからだ。

 

「リディアさんはご主人様の奥様なのですか? ならばリディア様とお呼びしないと……」

「それは止めてあげてくれ。リディアは恋人ではあるが結婚はしていない。畏まる必要はないよ」


 新しい住人であるアーニャを見つけたその翌日。今日も雨が降っている。

 アーニャの他にラルクがエルフを一人見つけてきてくれた。

 現在の村民数は俺も含めて6人となる。

 

 いよいよ狭くなってきたな。

 拠点を拡張するのは簡単だが、やはり今後に向けて地盤の強い土地を見つけないと。

 

「二人にはまだ説明してなかったな。この土地は雨に弱く、異形の襲撃に耐えられない可能性がある。だから今日は全員で新しい拠点となる土地を見つけたい。あまり時間が無い。なるべく今日中に見つけ移動しようと思う」

 

 ――スッ


 ん? アーニャが手を上げたぞ。


「ご主人様、発言してもよろしいでしょうか?」

「ご主人様は止めて欲しいんだけど……。まぁいいか。何か心当たりがあるのか?」


「はい。ここが王都があった付近だとすると、近くにある川はレナ川だと思います。川から少し遠くなりますが、小高い丘があるはずです。岩が多くてここよりは少し不便かもしれません。ですが近くに泉もあるはずです」

「マジか!? アーニャ、そこに案内してくれ!」


 ここにきて候補地を知っている者に出会えるとは!?

 ならばここは作業の分担をするべきだな。

 

 捜索には俺とアーニャ。

 リディア達エルフはここに残って引っ越しの準備を進めてもらうことにした。


「あーん、私も行きたいですー」

「わがまま言わないの。あまり時間が無いって言っただろ」


 リディアには優先的に持っていくものを伝えておく。

 ナババなどの木の実は森で採種出来る。肉も狩りをすればまた貯蔵出来るしな。

 それよりも服の材料になる毛皮、それを加工した生活用品は優先的に持っていくことにした。

 もちろん弓など異形と戦う武器も最優先だ。


「俺達も一度戻る。6人で持っていけるだけの荷造りをしておいてくれ」

「はい……。早く帰ってきて下さいね」


 リディアは名残惜しそうに俺達を見送ってくれた。

 雨が降りしきる中、アーニャと二人で新たなる拠点を探しに向かう……のだが。


 ――バシャッ ズルッ


 くそ、かなりぬかるんでるな。

 思うように歩けない。

 やはりこの一帯は地盤が弱いんだろうな。


「ご主人様、大丈夫ですか?」

「あぁ。あのさ、やっぱりご主人様よりは名前を呼んでくれたほうが嬉しいかな?」


「そんな畏れ多いことは出来ません。で、でもご主人様が本当にお望みなら……。努力してみます。ラ、ライト様……」

「様はいらないんだけどな。まぁいいか」


 少し打ち解けてきたかな? 

 雨の中、何でもない会話を楽しみつつ先に進む。

 アーニャの身の上話になったが、彼女の家は貧しく、親を助けるために成人した後すぐに家を出たらしい。

 だが蛇人独特の美醜の価値観により、蛇人社会では仕事先が見つからず困り果てていた。

 そこに運良く魔貴族のアスモデウスって人に拾われてメイドとして働くことになったと。


「そうだったんだ。苦労したんだね」

「はい。ですが屋敷では生きる知恵を学べました。もしよろしければライト様のお世話の他にも仕事をやらせてもらえませんか?」


 彼女は裁縫が趣味で服なんかは自分で作っていたと。

 他にも染色にも興味があり、森で染料となる植物の勉強もしたんだそうだ。


 へー、何気に才女だな。

 

「美人なだけじゃなくて、何でも出来るんだね。アーニャはすごいな」

「そ、そんな。美人だなんて……。ラ、ライト様! 良かったら私に乗りませんか? 私は蛇人なので悪路には強いんです!」


 とアーニャは照れを隠すように言ってきた。

 乗るってアーニャに乗るの?

 だが確かにアーニャは蛇の下半身をしている。

 シュルシュルと地を這うように進むので俺が歩くより圧倒的に速い。

 ここは甘えちゃおうかな。


「お願いしてもいい?」

「はい! もちろんです!」


 アーニャが背を向けてくれた。

 俺は彼女の蛇の下半身に跨がるように乗ってみる。

 なんかおんぶされてるみたいだな。

 ん? 服の隙間から彼女の背中の肌が見えた。 

 赤く変色している。痣があるんだ。これが蛇人にとっての美醜の基準になるのか。

 異種族ってのはよく分からんな。


 ――ツンッ


「ひゃんっ!?」

「ど、どうした!?」


 アーニャが変な声を出した!?

 何かが背中に引っ掛かったとか?


「ごめん、痛かった?」

「い、いえ、大丈夫です。それでは行きますので掴まっててください」


 彼女はシュルシュルと蛇の下半身を這わせ地面を進む。

 おぉ、かなり速い。これは便利だ。


 どうやら蛇の下半身は強い筋肉で構成されているようで俺が乗っても何ともないみたいだ。

 ラミアってこんなことも出来たんだな。


「はぁはぁ……。あんっ……」


 ん? な、何故かアーニャからは色っぽい声を出し始めたんだが。

 

「ど、どうした? 一度止まろうか?」

「い、いえ、問題ありません……。ひぃんっ!?」


 ――ドサッ ピクピクッ


 ってアーニャが倒れた!? 明らかに大丈夫じゃないだろ!?


「アーニャ! 大丈夫か!?」


 と雨が降りしきる中アーニャを抱き起こす。

 彼女は惚けた顔をしていた。いっちゃった顔をしている。

 でもなんで? そんなこと一切してないぞ。


 少し休むとようやくアーニャは落ち着いてきた。


「一体何があったんだ?」

「も、申し訳ございません。実はライト様のあそこが私の大切なところに当たっておりまして……」


 ん? 大切なところって?

 も、もしかして……。

 いや間違いないだろう。ラミアの女性のあそこは前ではなく後ろにあるらしい。

 俺が乗っていた場所に大切なところが当たって気持ち良くなってしまったようだ。

 

「ごめんな、やっぱり歩こうか?」

「い、いえ! 大丈夫です! 当たらないように私も気をつけますから! さぁ、向かいましょう! 乗ってください!」


 と俺は再びアーニャに跨がることに。

 だが目的地に到着する前にアーニャは何度も達してしまい、その度に倒れることになる。

 なんか歩いた方が早かったんじゃね?なんて思ったがアーニャには伝えないでおいた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



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