第26話 拠点探し

 ――ザーザー……


 雨音を聞いて目が覚める。

 リディアを起こさないよう布団から出て外の様子を確認する。

 くそ、昨日より降ってるな。これでは今日の襲撃も耐えることが出来ないだろう。

 そして4日後は満月だ。恐らくだが異形の大群がやってくるはず。


 戦略が上がったことで防衛はしやすくなったが、このままでは四方の壁は破られ、俺達は囲まれて嬲り殺しにされるだろう。


 雨のせいで気温が低い。

 異形への恐怖のせいか、軽く雨に濡れたのか鳥肌が立った。

 リディアがいる布団に潜り、彼女を抱いて暖を取る。


「ひゃん……。ライトさん、冷たいですよ……」

「すまん。ちょっと冷えちゃったね」


「ふふ……。暖めてあげます。こっち来て……」


 リディアは眠そうにしながらも俺を抱きしめてくれた。

 体の関係から始まった付き合いではあるが、今は純粋に彼女を愛している。

 失うわけにはいかない。

 そのためにやらなければならないことは……。


 体が暖まった後は朝食の準備に取りかかる。

 俺とラルクは違う仕事があるのだが、雨のせいでやることが無くなってしまった。

 なので女衆のお手伝いだ。


 皆で朝食を食べるが、俺以外は食欲が無い。


「今日も異形は来るんでしょうか?」

「あぁ、だろうな。だから今出来る精一杯のことをしよう」


 ナババの実で作ったパンを食べながら今日やることを話すことにした。


「あのさ、実はこの拠点を捨てようと思うんだ」

「こ、ここをですか!?」


 とリディアは驚く。彼女の言葉は理解しているラルク達も不安そうにしていた。

 もちろん俺だって住み慣れたこの拠点から離れたくはないさ。

 しかしこの土地は雨だと地盤が弱くなる。

 

 俺の力である壁を活かしきれないんだ。

 今住んでいる土地は川が近く窪地になっている。

 今回のような強い雨が降れば壁の強度が格段に弱くなるんだ。


「だからさ、何とか大群が襲ってくる4日後までに新しい拠点を建てられる拠点を見つける必要がある。それを手伝って欲しいんだ。リディアは二人にも伝えてくれ」


 リディアも不安そうな顔をしながら言葉の通じぬラルク達に説明を始める。

 するといつもの聞き慣れた音が聞こえてきた。


 ――ピコーンッ


【拠点を破棄する場合、村民満足度が0に戻ります。他村民のストレスがたまることでも満足度は下がります】


 いつもの機械的な声が響く。

 なるほど、御大層に説明してくれてありがとな。

 恐らく事実なのだろう。今まで貯めた村民満足度が下がるのか。

 新しい力を得る機会を逃すことになるが、命あっての物種だ。


「夜は異形の襲撃がある。出来れば今日中、遅くても明日にはここを出たい。皆で手分けして新しい拠点の候補地を探そう」


 皆が頷いてくれた。

 ラルクがナババの葉を編んだ簡単な雨具を用意してくれる。

 防水性は良いものではなく、びしょ濡れになるのが遅れる程度のものだが、無いよりはマシだ。

 拠点を出るといつもの平原が広がり、近くには森が見える。

 

 さぁ、どこら辺に新しい拠点を構えるか。

 探すべき土地はなるべく川から近いが、少なくとも川よりは高い位置にあること。

 さらにいえば平坦な場所ではなく、ある程度の傾斜があり水が溜まらないことが条件となる。


「でもここってどこを見ても平らですよね」

「ある程度って言っただろ? 簡単に考えてくれればいいさ。地面に水溜まりが出来てないってことは低い位置に水が流れてるってことなんだ。それとあんまり森から離れると今後捜索する時に不便になる。なるべく森の近くを探そう」


 異形は森からやってくるが、近かろうが遠かろうが毎夜襲われることには変わりないからな。

 

「分かりました。ライトさん、皆さん、お気をつけて」

「あぁ。リディアもな」


 拠点を出ると、それぞれ違う場所を探し始める。

 効率的に候補地を見つけるためだ。


 だが雨足は更に強くなり、視界も悪くなる。

 昼前だってのに、夜が来たように暗い。

 くそ、雨が嫌いになりそうだ。


 サラリーマンをしてた時は割りと雨は好きだった。

 雨音を聞きながら読書をするのが好きでね。

 晴耕雨読とはよく言ったものだ。

 だが今の状況では雨は厄介でしかない。

 新拠点候補地は中々見つからなかった。


 ちらっと腕時計を見てみると、いつの間に昼の12時を指している。

 9時には拠点を出たから、もう3時間が経ったのか。

 

 リディア達に成果はあっただろうか?

 俺は一度拠点に戻ることにした。

 

 拠点に近づくと敷地内から煙が上がっていることに気付く。

 誰か帰ってきたのか?

 

 リディアは戻っていなかったが、ミァンが焚き火の前で震えていた。

 

「帰ってたんだな」

「Vuneeh……」


 相変わらず何を言っているか分からんが、その顔からは成果は得られなかったことが分かる。

 俺も濡れた服を脱いで、毛皮で作ったタオルで体を拭いた。

 

「ミァン、二人が帰ってくるまでにごはんでも作ろうか。手伝ってくれ」

「Otaμb」


 俺の言っていることを何となく理解してくれたのか、ミァンと昼ごはんを作る。

 さすがは本職の料理人だ。手際がいい。

 俺が一品作る前に、三品の料理を作りあげた。


 昼の献立はこんな感じだ。


・パン:ナババの実から作った。酵母が無いのでチャパティといったほうがいいか。

・干し猪肉の焼き肉:独特の風味があるが、香草を塗って癖を抑えてある。

・スープ:俺が作った。ウサギの骨からとった出汁がベース。豚骨よりあっさりしている。森で採れたヤマイモ、山菜などを入れて岩塩で味をつけている。

・コンポート:ミンゴの実をカエデの樹液で煮たもの。

・ミンゴの果汁を混ぜたお茶:王都ではよく飲まれていたらしい。寒い日にうってつけだ。


「おぉ、美味そうだな。ラルクは幸せ者だな。こんな料理上手な彼女がいるなんて」

「ξccve towaht annenp」


 どうやら先に食べててくれと言っているようだ。

 でもリディアは置いて先に食べるのはなぁ。

 お茶だけもらい、二人が戻るのを待つことにした。


 そして待つこと1時間。二人がようやく戻ってくる。

 俺が想像すらしていなかった手土産を携えてだったが。

 リディアとラルクは何者かを背負って帰ってきたのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ここまで読んで頂き誠にありがとうございます!

 お気に召しましたらご評価頂けると喜びます!

 更新速度が上がるかも!? ☆☆☆

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る