第11話 初めての火起こし

 ――ゴシッ ゴシッ


 木を擦り続けて数時間経つが、火を起こせるどころか煙すら立ち上がってこない。

 やっぱり素人が一朝一夕で火起こしなんか出来るわけないよなぁ。

 動画で見たプロのサバイバーですら火起こしには数時間を要するみたいだし。


「ライトさん、無理しないで下さいね。少し休んではどうでしょうか」


 とリディアはカップに入れた水を持ってきてくれた。

 ちなみにカップは俺の能力で作ったものだ。

 小さな壁を利用したので、基本的には四角い形となる。

 多少使い辛いが、水を飲むのにいちいち手ですくうよりはいいからね。


「ありがと。ちょうど喉が乾いていたんだ」


 カップに入った水に口をつける。

 ん? ただの水じゃないぞ。

 少し甘く果実の風味がする。

 それとは別の清涼感もあるな。

 中々美味い。


「これは?」

「ふふ、お水の中に茶葉を細かくちぎったものとミンゴの実を潰したものを入れたんです。王都ではポピュラーな飲み物だったんですよ」


 へー、異世界のジュースみたいなもんか。

 どうやら茶葉は薬草としても知られており、解毒の効果もあるそうだ。

 生水に含まれる菌や微生物を減らす効果もあるらしい。これなら煮沸しなくても大丈夫そうだ。

 ジュースを飲み干すと元気が出てくる。

 やはり喉を潤すいうことは大切なんだな。


「火は起こせそうですか?」

「んー、何とも言えないね。もう少し頑張ってみるよ。そういえばリディアは何をしていたんだ?」


 俺が火起こしをしている間、彼女は別の作業をしていた。

 時々彼女の様子を見ていたのだが、何かを作っていたようだった。


「うふふ、実はこれを作ってたんです」


 とリディアは花が咲いたような笑顔で弓を見せてきた。

 おぉ、いつの間に。どうやら弦は植物性のもののようだ。

 だがナイフもないのに、綺麗に木を削ってあるように見える。


「すごいね、どうやって作ったんだ?」


 俺の問いにリディアは尖った石を懐から取り出す。

 分かったぞ。これは川岸で拾った黒曜石だな。


 リディアは黒曜石を割ってナイフを作ったんだ。 

 

「これがあれば最低限、自分の身を守れます。私は聖職者ではありますが、子供の時から弓は得意だったんですよ」


 そういえば彼女の能力に弓術があったな。

 エルフのイメージ通りリディアも弓が得意であったか。


「ふふ、この弓でライトさんを守ってあげますね」

「ははは、心強いね。なら俺は火起こしを頑張るかな」


 彼女のおかげで元気が出た。

 さぁ、気合いを入れ直して火起こしをしますかね。

 

 俺はまた木を擦り始める。

 しかし相変わらず成功しない。

 うーん、何が悪いんだろう?


 もうすぐ日が暮れる時間だ。

 今日はもう諦めるか……。


 豆だらけになった手のひらを見る。

 いてて、やっぱり素人が摩擦式の火起こしなんて出来るわけないんだよぉ。


 なんて情けないことを考える。

 ん? 摩擦式……。摩擦熱を上げるには木を強く、素早く擦り合わせる必要がある。

 そこに熱が発生し、火種が生まれるわけだ。

 俺が失敗したのは力も速さも足りないということ。

 だったらこんなのはどうだ?


「壁!」


 ――ズシャッ


 能力を発動し壁を作り出す。

 壁は地面から生えるように産み出される。

 そして消す時はその逆で地面に吸い込まれるように沈んでいく。


 これを利用すればいいんじゃないか?

 

 俺は両手で木材を持ち壁の端に押し付ける。

 

「消えろ!」


 ――ズシャッ


「壁!」


 ――ズシャッ


 一度木材を離し、接地面を触ってみる……。

 って、熱っ!?

 火傷しそうな程の熱を木材は持っていた。


 これなら上手くいきそうだ!


「壁!」「消えろ!」

「壁!」「消えろ!」


 ――ズシャシャシャッ


 木材をつけたまま、壁の生成を繰り返す。

 次第と木材から煙が出てくる。

 も、もうすぐだ。接地面は黒く変色したのち、まだ火は出ていないが、赤く焦げ始めた。

 火種だ! 俺は用意した乾いた草の上に火種を落とす。

 草の塊に向かって優しく息を吹きかける。

 

 ――フー フー

 ――ボッ


「やった! 火だ!」


 火を消すわけにはいかん。

 次は細い枝、そして太い枝。さらに壁から作り出した木材に火を移していく。


「リディアー! 来てくれ!」

「どうしたんです……? ラ、ライトさん! すごい! すごいです! おめでとうございます!」


 ――ギュッ


 と、そこでお互いの異変に気付いた。

 俺達はテンションが上がり過ぎたせいか、いつの間にか抱き合っていた。


「あ、あの……。ごめん」

「い、いえ、謝らないで下さい。ふふ、ライトさんって本当に真面目な人なんですね」

 

 リディアは笑ってくれた。

 どうやら許してくれたみたいだな。

 ハラスメントがうるさい時代だ。後で訴えられたら困るのは俺だし、注意しないと。


 とにかく火は起こせた。これで暖を取れるし、料理だって出来る。

 そうだ、せっかくだし夕食は暖かいものを作ろう。

 リディアに提案してみた。


「賛成です! でも、料理といっても鍋はありませんし……。どうやって作るんですか?」


 むふふ、鍋を火にかけるだけが料理ではないぞ。

 今日は俺が作るとしよう。

 火の中に薪をくべる。

 薪は壁を発動すればいくらでも作りだせるからな。

 火の勢いが強くなったところで、手頃な石を火の中に投げ込んだ。


 その間にサワガニを半分に割って、リディアから黒曜石のナイフを受けとる。

 ナババの実を一口大に切って木の器の中に入れた。

 材料は森の近くで採れたハーブ、サワガニとナババの実。

 塩気がないのが辛いところだが、暖かい汁物が食べられるだけでもありがたいよ。


 しっかり焼けた石を取り出し、器の中に入れる。

 

 ――ジュオーッ ブクブク……


 水は一瞬で沸騰した。これは焼き石料理という。

 鍋が無くても、焼けた石を使って食材に熱を伝えることが出来る。

 

 同じように水の入った器に茶葉を入れる。

 こうすることで暖かいお茶を作ることが出来るわけだ。


「わぁー、こんな料理があったんですね。覚えました! 今度は私が作りますね!」

「ははは、楽しみにしておくよ。それじゃ食べようか。不味くても文句言わないでくれよ?」


 火を囲いながら夕食を食べることに。

 献立は穀物に近い味のナババが入ったカニ汁とお茶だ。

 やはり塩気はないものの……。暖かいというだけで文明の味がした。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



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