第6話 襲撃

「あぅあ?」


 と言葉にならない声でエルフっぽい女の子は俺を見つめる。

 森の中で彼女を見つけ、平原まで連れてきたのだ。

 壁で簡易的な住居を作り、森で見つけた貴重な水で彼女の汚れを落としたのだが。

 最初に彼女を見つけた時はかなり汚れており、泥だらけだった。


 だが汚れを落とした彼女は絶世の美女と呼ぶにふさわしい。

 40年生きてきて、ここまで綺麗な人に出会ったことはないぞ。

 長い睫毛、金色の髪、整った顔に長い耳。どこのディード◯ットさんですか?と聞きたくなる程だ。

 さすがはエルフ。さすエル。


 なんて馬鹿なことを考える。

 いかんいかん。スケベ心で彼女を助けたのではなかった。

 彼女は俺が見つけた第一村人ならぬ第一異世界人だ。

 何とかコミュニケーションを取り、この世界の情報を聞き出さねば。


 ちょっと話してみるか。


「こ、こんにちは」

「あうぁー」


「君の名前は?」

「うあぁー」


 埒があかん……。

 言葉が通じないのか、それとも彼女に何か問題があるのか。

 とにかく一度知り合ってしまったんだ。

 言葉が通じないとはいえ、彼女を見捨てることなんか出来ないし。

 何とかコミュニケーションを取る方法を考えていたが、いつの間にか陽が落ちていた。少し休憩するか。


 俺はミンゴの実を彼女に渡す。俺も喉が乾いたしな。


「食べな。喉乾いただろ?」

「あう?」


 彼女はミンゴの実を食べ物だと理解したようだ。

 小さな口に運ぼうとした瞬間……。


 ――ドンッ! ドンッ!


「あうぅっ!?」

「な、なんだぁっ!?」


 柵として建てた壁に衝撃が走る!? 

 な、何が起こった!?

 まさか獣とかが出たとか!?


「き、君! 中に入ってるんだ!」

「あうぅっ!」


 女の子は家の中に入り、膝を抱えてガタガタと震えだす。

 俺だってチビりそうなくらい怖いけどな。

 

 ――ガリッ ガリッ


 衝撃音の次に聞こえてくるのは壁に爪を立てる音。

 壁を破ろうとしてるんだ。

 まさか肉食獣の類いか!?

 

『ウルルルォォィ……』

『ウバァァァッ……』


 聞こえてきた声を聞いて全身に鳥肌が立った。

 ち、違う。獣の声じゃない。

 人に近い声帯から発せられた声だ。

 外にいるのは獣ではないだろう。

 この世界に巣食う魔物なんだろうか?


 ――バリッ!


 か、壁の一部が破られた。

 そして小さな穴からこちらを見つめる者がいる。

 光の無い真っ黒い瞳。俺と目があった。


「か、壁っ!」


 ――ズシャアッ!


 完全に壁を破られる前に再び壁を生み出す!

 こうして壁を補強し続ければ持ちこたえられるだろう。

 次第とガリガリと壁を引っ掻く音は止んだが、今度は反対側の柵が破られる音がした。

 その都度俺は壁を作り、何とか囲いを破られまいと能力を発動する。

 頼む! もう諦めてくれ!


『ウルルルォォィ……』


 その一言を最後に衝撃は止まる。

 ようやく危機は去ったようだ。

 は、ははは……。

 腰が抜けちゃったよ。

 

 自分でも気付かない内に地面にへたりこんでいた。

 

「あぁぁ……」


 家の中から声がする?

 そ、そうだ! すっかり忘れてた!

 エルフっぽい女の子がいたんだった!


 震える膝を叩き、気合いを入れつつ彼女のもとに向かう。

 彼女は家の隅で膝を抱えて震えていた。

 安心させてあげなくちゃ。


「き、君。もう大丈夫だ……」

「あうぅ……」


 ――バタッ


 安心したのか分からんが、彼女はそのま横になってしまった。

 意識を失ったのか?


「ちゃ、ちょっと、君。大丈夫か?」

「…………」

 

 返事がない。心配になったので彼女を起こそうと頬に触れてみる。


 ――ヒヤッ


 つ、冷たい……。 

 そして息も弱々しい。

 これってヤバいんじゃないか?

 

 何か病気にかかったとかかもしれん。

 でも俺は医者じゃないし、ここには薬も無い。

 だが黙って彼女を見てても良くなるとは思えない。

 そ、そうだ! 鑑定だ! 

 彼女が倒れた原因が分かるかもしれん!

 彼女に触れつつステータスを確認する!



名前:???

年齢:???

種族:エルフ

力:2 魔力:12

能力:弓術 精霊魔法(封印)

状態:低体温症 呪い



 エルフだったー! しかも精霊魔法が使えるって! すげえっ!

 って違う! そこじゃない!

 低体温症だと!? しかも呪いって!?

 彼女の体温が異常に低いのはこれが原因だったか。

 でも何故低体温症なんだ? 特に寒いわけでもないのに。


 理由は分からんが栄養失調から併発したのか、もしくは違う理由からか。

 とにかく何かしら手を打たないと彼女は死んでしまうだろう。

 

 低体温症を治すのは、とにかく体を温めることが必要だ。多分だけど。

 しかし急激に温めると血管が萎縮してしまい、余計に状態が悪くなることもあるらしい。

 ゆっくり体を温める必要がある。


 しかしだな、俺に出来るのは壁を作り出すことだけだ。毛布なんかは作り出せない。

 むむむ……。仕方あるまい。


 横になる彼女を抱きしめる。

 たしか太い血管がある箇所を重点的に温めることが効果的だとエドは言っていたような気がする。

 多分だけど太い血管があるのは首だろ。そして脇。後は鼠径部だ。お股である。

 

「ご、ごめんよ」


 と意識の無い彼女に首と首を合わせ、腕を脇に差し込み軽く抱きしめる。

 彼女のお股に足を入れ、両足で軽く挟み込む。

 これは彼女の命を救うために必要なことだ。決してエロ目的ではないからな。


「んぅ……」


 ――ピョコッ


 首を合わせているので彼女の長い耳がピョコピョコと顔に当たる。

 間近で見るエルフ耳だ。やはり抱きしめている女の子は人間ではないんだなと改めて思う。

 でも彼女が身動きをする度に大きな胸がムニュムニュと俺の胸に当たってさ……。

 エロ目的ではないとはいえ、ちょっとムラムラしてきてしまった。


 煩悩を抑えつつ抱きしめること数時間。

 少しずつ彼女の体が温かくなってきた。

 良かった。これで一安心だな。

 ホッとしたせいか、眠くなってきた。


 誰かと一緒に寝るのって、こんなに温かいものだったんだな。

 俺はゆっくりと目を閉じる。

 

 眠りに落ちる前に変な音が聞こえてきた。


 ――ピコーン


【対象???が一定時間領域内に滞在しました】


 ん? 夢かな?

 なんか変なメッセージが頭に流れ込んできた。


【???を村民にしますか?】


 村民に? 何だか良く分からんが……。

 別にいいや。うん、村民にしてみるよ。


 ――ピコーン


【???が村民になりました。村民特典として呪いが解除されます】


 へー。呪いがねぇ……。

 そういえば彼女は呪われてたな……。

 でも今は眠いや……。



◇◆◇



 ――ピョコピョコッ


 んん……。くすぐったい。

 何かが顔に当たるぞ。


「あ、あの……。は、離してくれると嬉しいのですが」


 おや? 声が聞こえるぞ。

 でも家にいるのは言葉を話せないエルフの女の子がいただけだし。

 誰だ? 


 ゆっくりと目を開けると……。


「お、おはようございます。わ、私はもう大丈夫ですから。そ、その……。足がお股に当たっていて……。くすぐったいんです」

「ごめん……」


 エルフの女の子は俺に抱かれながら顔を真っ赤にしていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



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