第4話 夜営と考察

 ヤバい、ヤバいぞ!

 俺は広野から森に移動し、そこでようやく水分を多く含むミンゴという果物をゲットすることが出来た。

 今後のことも考え、なるべく多くのミンゴを持っておこうと思ったのだが、予想以上に時間が経っていたようだ。


 辺りはすっかりと暗くなっており、間もなく夜がくる。

 月明かりも森の木々で遮られ、完全な暗闇に包まれるだろう。

 素人の俺でも分かる。夜の森歩きは危険だ。

 夜行性の肉食獣だっているかもしれん。


 今は身の安全の確保を考えないと!

 

「か、壁ぇっ!」


 ――ズシャアッ!


 掛け声と共に地面から壁が出現!

 その後も三方を壁で囲いその中に入る。

 最後に前面に壁を作り、四方が壁に囲まれる形となった。


 と、とりあえずこの中にいれば安全……だよな?

 どうか大型の肉食獣とか魔物とか現れませんように……。


「ふぅー……」


 一息ついてからドカッと地面に座る。

 早く夜が明けることだけを祈るばかりだ。

 寝たらすぐに朝になるかな? なんて思い目を閉じるが、怖くて眠れるはずもない。


 少し喉も乾いたので、貴重なミンゴの実を食べることにした。

 ミンゴは水分が多く僅かに甘味がある。

 すごく美味しいというわけではないが、それなりに腹持ちも良い。


 お腹が少し満足し、ある程度安全も確保出来た。人にとって必要である食と住が満たされた。少しだけど。

 だが先ほどまで感じていた恐怖は少し薄れたみたいだな。

 かつて動画でも見たが、人は悪い状況にいると負の思考に囚われる。

 今の俺はミンゴを食べ、固有の能力である壁で安全は確保されている。

 少し考える余裕が出てきた。


 よし、せっかくだし夜が明ける時間を利用して壁で何が出来るか考えてみよう。


 どうやら俺が使える能力は壁らしい。

 文字通り、地面から壁を生み出す能力だ。

 四方を壁で覆うことで簡易的な住居を作ることが出来る。天井はないけど。

 雨が降ったらずぶ濡れになっちゃうなぁ。


 そういえばさ、壁って基本的に縦方向に建ってるから壁なのかな?

 横方向に壁を発生させれば天井が出来たりして。


 ちょっと試してみるかな。四方を覆う壁の上を指差して言葉を発してみる。


「壁!」


 ――ズシャアッ


「出来んのかい!」


 突っ込んでしまった。上部にあった穴は横方向に生えた壁により塞がれた。

 な、何気に便利な能力だな。

 でも天井を付けると内部が真っ暗になってしまうので、今は天井は消すことにした。


 そうだ。こんなのはどうだろう?

 壁の形を変えるとか?

 中は狭いので、小さな壁をイメージする。

 すると小さな壁や細長い壁などを生み出すことが出来る。だが基本的には四角形で限定されるようだ。

 丸い壁や三角の壁なんかは出来ないことが分かった。


 ならこんなことはどうかな?

 地面から生えた長い壁の根元のみをイメージしつつ……。


「消えろ」


 ――フッ パタンッ


 支えを失った壁はただの木の板へと変わる。

 へー。壁限定ではあるが、一部を消すことで工作なんかも出来るかもしれない。

 何かを作る時の素材として利用出来るかも。


 せっかくだ。小さい壁を利用して木製の入れ物なんか出来るかな?

 どうやら壁を消すのは自在のようで、四角い穴を開けることも可能らしい。

 簡素ではあるが、凹型の入れ物はあっという間に出来上がってしまった。


 なんか楽しいな。どうやら壁を発動するためにいわゆる魔力なんかは必要無いらしい。  

 壁オンリーではあるが、作り放題なのだ。


 ん? そうえいばだよ。こんなことにも利用出来るかもね。

 朝が来たら試してみようかなー。

 いつの間にか恐怖は消え去り、お気楽な気持ちで眠ることが出来た。



◇◆◇



 目が覚めると壁の内部に朝日が差し込んでいる。

 ふあぁ、昨日よりは安眠出来たかな?

 壁を解除して外に出る。

 今のところ獣の気配は感じられない。

 でもやっぱり怖いので、早々に森を出ることにした。


 昨日寝る前に思い付いたのは二つ。

 一つは広野と森の境目に拠点を作ることだ。

 森の中はミンゴだけではなく、他にも食べられる物や、まだ見つけてはいないが水源があるだろう。

 しかしサバイバル知識が無い挙げ句、使える能力が壁のみでは万が一獣、魔物に襲われてしまっては一溜りも無いだろう。

 俺は死にたくないのだ。


 そして二つ目だ。昨夜は狭い壁で囲んだ空間で実験を行った。

 割りと小さい壁であれば、自由に作り出すことが出来る。

 なら全力で壁を作ったとしたらどうだろうか?


 昨日俺が生み出した壁は高さ三メートル程であった。

 特に考えなしに生み出した壁がその高さなのだから、三メートルがデフォなのかもね。

 だが高くて大きな壁ならどうだろうか?


 それが昨日思い付いた二つ目だ。

 

 よし、試してみるか。


 俺はとある木の下に移動する。

 上にはたわわに実ったミンゴの実が生っている。

 イメージするのは十メートルはあろうかという高い壁。

 上手くいってくれよ?


 手をかざしつつ、全力で唱える!


「壁ぇっ!」


 ――ズゴォンッ! 


 現れたのは幅は一メートル程度の壁だが、それが一瞬で上空高くまで伸びる!

 そして俺の狙い通り……。


 ――パシッ ボタタッ


「よし!」


 思わずガッツポーズをしてしまう!

 産み出された壁は高い場所に実ったミンゴに当たり、地面に落ちてきたのだ。

 これで木に登ったり、石を投げたりせずに済む。

 食糧が果物だけというのも問題だが、少なくとも飢えはしのげるし、何より水分を摂ることが出来る。

 食糧が安定的に手に入るだけでも気持ちが軽くなるな。


 俺は昨日作った入れ物にミンゴを入れ、一度森を出ることにした。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



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