謎の能力【壁】で始まる異世界スローライフ~40才独身男のちょっとエッチな異世界開拓記! ついでに世界も救っとけ!~

骨折さん

プロローグ

第1話 っていうかどこなんだよ、ここ。

 ――ビュォォォッ


 吹きすさぶ風の音。今にも一雨来そうな空。

 俺は一人草原に立っている。


 あれー? ここはどこ? 

 確か会社に向かうため池袋にいたはずなんだけど。

 

 混乱しつつも考える。ここは明らかに池袋ではない。

 っていうか日本かどうかも怪しい。

 だって空を見上げると六つの翼を持つ鳥だかなんだか分からない生き物が飛んでいるし、西の空にはお月様が二つ。


 ――パサッ


「うわぷっ!?」


 突然視界が奪われた!? な、なんだ? 敵襲か!?

 いやいや、落ち着け俺。敵ってなんだよ。


 焦りつつ顔にへばりついた何かを引き剥がす!

 ん? なんだよ、ただの紙切れか……?

 いや違う。手に取って紙切れを見ると文字が書いてあった。しかも日本語だ。

 俺は草原に座り、紙に書いてある文字を読んでみることにした。


 どれどれ?


【拝啓。前川 来人様。この度は我が世界アロスティヌスにお越し頂き誠にありがとうございますー】


「何これ……?」


 思わず突っ込んでしまう。我が世界?

 お越し頂き? 

 招かれた覚えはないぞ。

 理解出来ぬまま続きを読んでみる。


【申し遅れましたー。私はこの世界を司る神アメンドウズ。気軽にサシャとお呼び下さいー。これは貴方に向けてのお手紙なんですー】


 ここまで理解不能である。

 神様からの手紙? そんな馬鹿なことがあるか。

 しかもサシャって。本名と被ってすらいないぞ。


【そんなこと言わないでー。だってアメンドウズなんて名前可愛くないじゃないですかー?】


 と手紙には書いてある。

 っていうか会話が成立してる?

 まるで俺の思考を読んで書いてあるかの如くだ。


【そういうことですー。見直しましたかー?】


 なんなんだ、この神様は。会話の内容からして全然神々しくないんだけど。


【酷いこと言わないで下さいー。せっかく転移特典のチートの説明をしてあげようと思ったのにー】


 転移特典? 転移って……。

 も、もしかして俺は異世界に転移したっていうのか!?

 

【そうなんですー。貴方は日本で不慮の事故で死んでしまったんですー。でもですね、貴方は選らばれし者なんですー。だからこの世界にお呼びしたんですー】


 おぉっ! 異世界転移!

 思わずテンションが上がってしまう!

 俺だって男だ。子供の時から魔物を倒すようなRPGは死ぬ程やってきた。

 大人になり忙しい毎日を過ごす中でいつの間にかweb小説にはまり、「異世界転移してーなー」なんて思ってみたりみなかったり。


 それにしても選らばれし者か。まるで勇者召喚物だな。

 でもここにいるのは俺一人。もしかしてスローライフの流れかな?


【んーと。ちょっと違いますねー。この世界を助けて欲しいっていうのが目的なんですー。実は今貴方がいるのは魔族領であり、かつては色んな種族が仲良く暮らしていた土地なんですー】


 魔族領って!? それってめっちゃ危険なモンスターとかがいるんじゃないの!?

 辺りを見渡すと霊感の全く無い俺でも禍々しい気配を感じる。

 これってかなりヤバイ状況なのでは?


【大丈夫ですー。貴方も例に漏れず日本人が大好きなチート能力を持ってますからー。魔物が出たとしても一発KOですよー】


 と謎の手紙にはそう書いてある。

 よ、良かった。こんな何も無い草原で俺一人。

 何かしらの能力でも無い限り生き残ることなんて出来ないからな。


【そうそう。貴方は選らばれし者ー。魔物を簡単に倒すような能力はあるはずなんですー】


 んん? 今多分って言った?

 どういうことだ? 神様であるアメンドウズは俺にチート能力があるって……。


【サシャって呼んで下さいー。あのですね、チート能力っていうのは人それぞれが持つ固有の能力なので、実際に転移してみないと分からないんですー。でも私がかつて召喚した人もすごい能力を持ってましたよー】


 へー。サシャは他にも日本人を召喚してたんだ。

 その人達に会えたりするのかな?


【無理ですー。全員死んじゃいましたー。みんな魔物のお腹の中にいるはずですー】


 ってこらっ!? やっぱりめっちゃ危険な世界なんじゃねえか!?

 帰せ! 今すぐ俺を日本に帰せ!


【無理なんですー。だって貴方はもう日本では死んだことになってますしー】


 と言われても納得出来るわけないだろ。

 っていうか、俺ってどうして死んだんだ?


【むふふー。それこそが貴方をここに呼んだ理由なんですー。貴方は超絶に運が良い人なのですー。それこそが貴方の力なんですー】


 運だって? 何かラッキーチートとか持ってるってこと?

 でもだな、どちらかというも俺は不運な人生だったような。

 子供の時からよく事故にあって怪我したし、付き合ってた女の子は尽く浮気したし。

 就職しても会社が潰れて泣く泣く再就職先を一年かけて見つけたあの時期は思い出したくもない。


【そういうことじゃないんですー。貴方は世界に選ばれた人間なんですよー。だからきっとこの世界を救ってくれるはずなんですー】


 世界が俺を……。な、なんだか照れるな。

 でも世界はなんで俺を選んだんだ? そもそもそ運がいい要素って何だろうか?


【それは貴方の死因にも関係してますー。貴方は電車に轢かれて死んでしまいましたー。その理由なんですが、まずロシアに隕石が落下しましたー。その衝撃波でツンドラにある杉の木の花粉が大量に飛散しましてー。

 その花粉が偏西風に乗って遠くアメリカまで到着しましたー】


 なんか手紙には俺の死因について書かれているようなのだが、ロシアで隕石って。

 それがどう俺の死に繋がると?

 

【花粉はバンアメリカン航空の飛行機の中に入り込みましたー。その中にですね、世界一と言われている凄腕の殺し屋デューク・トウジョウの肩に付着したんですー】

「えぇ……?」


【デューク・トウジョウはとある要人の暗殺依頼を遂行するため日本に到着しましたー。池袋にある高層ビルの屋上からターゲットを狙っていたんですがー】


 ま、まさかデュークは間違えて俺を誤射したとか?


【違いますー。デュークが貴方みたいな何の取り柄も無い平凡の代表のような貴方を狙う訳ないじゃないですかー】


 だよなぁ。っていうか今すごい失礼なこと言わなかったか?

 それに俺の死因は電車に轢かれたって。


【それでですね。デュークはスナイパーライフルで標的である日本の麻薬組織の元締めを狙っていたんですが、その時運良くデュークに付着した花粉が鼻に入ってくしゃみをしたんですー。

 デュークは引き金を引いてしまい、弾丸はあらぬ方向に進みますー。線路に置いてある石を弾いて貴方の頭に当たりましたー。貴方はその衝撃で気絶してしまい、線路に落ちちゃったんですー】


 それで俺は轢死したと。それってめっちゃ運悪くない?


【そうでもないですー。こんな神でも計りきれない死に方をしたのは貴方が初めてなんですー。こういった死に方をする人は絶対的に強い力を持ってますー】


 な、なるほど。良く分からんが、天文学的に低い確率を引き当てたことが俺が選ばれた原因なのか。


【理解してくれたようですねー。ではそろそろ貴方に与えられた能力の説明にはいりますー。貴方の力はー……。あれ? 何これー?】


 何これって何よ? まさか神であるサシャでも見たことが無い能力とか? 

 めっちゃすごい魔法が放てたり、成長チートがあったりとか?


【壁なんですー。貴方の力は壁でしたー】

 

 壁? 壁ってどういうこと?

 

【壁を自由に作れるみたいですー】


 サシャの言葉を読んだ俺。

 絶望しかなかった。

 この無人の広野を壁でどうしろと……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る