第19話 初日の戦果は上々です

 2度の戦闘でそれぞれの戦い方を知ったレイドメンバーは、陣形や連携について簡単に話し合った。


 まず移動時の隊列だが、先頭のマリーはそのままに、2番目にバート、次に賢人とアイリの後衛組が並び、勘の鋭いルーシーが最後尾を務めることになった。

 この隊列で移動し、戦闘は基本的に5人全員で参加することとなる。


「よし、悪くないな」


 人数が増えたことに少し戸惑った賢人だったが、数回の戦闘を経て、自身を含むそれぞれの役割を理解した。


 まず先頭を歩くマリーが回避タンクとして敵愾心ヘイトを集め、前衛アタッカーのバートとルーシーが敵を倒していく。

 賢人は後衛からの牽制に専念し、高火力のアイリがここぞというときに決定打を与える、というのが基本戦術となった。


「はぁっ!!」


 ルーシーがブロンズシミターを振り抜き、コボルトの首が飛ぶ。

 最初のほうこそ戦闘を終えるたびに首を傾げていたルーシーだったが、数回の戦いを経て新しい武器の扱いに慣れたようだ。

 いまは鋼鉄製のロングソードを使っていたときよりも動きがよくなっている。


 だがそんな彼女を見て、賢人の心にひとつの疑問が浮かぶ。


(貧乏くさい戦い方ってなんだ?)


 貧乏くさい云々はともかく、同じ剣士であるバートとルーシーの戦い方に、どれほどの差があるのだろうか。

 大きな違いといえば、剣のみを装備するルーシーに対して、バートは少し大きめの円盾を身に着けていた。

 たが賢人は、いまのところそれ以上の差を見いだせずにいる。


「間合いの取り方をよくご覧になるのがよろしいかと」

「うわぁ!?」


 探索開始から2時間ほどが経ったころ、戦闘終了後にマリーから耳元で囁かれた賢人は、思わず驚きの声を上げた。


「間合いの取り方……?」


 賢人は気を取り直してそう問いかけたが、そのときマリーはすでに隊列の先頭に戻り、歩き始めていた。


「間合いの取り方、か」


 それからさらに数回の戦闘を経て、賢人はふたりの戦い方に大きな違いがあることに気づく。


「喰らえー!」


 大上段から振り下ろされたバートのブロードソードが、オークの脳天を直撃する。


「グブフォァッ……!」


 革の兜ごと頭を叩き割られたオークは、絶命した。


「はっ!」

「グボァッ!」


 腰から肩にかけて逆袈裟に切り裂かれたオークが、身を仰け反らせて倒れる。

 その巨体は、ほぼ両断されていた。


(なるほど、よく見ると間合いの取り方、それに敵の斬りかたが全然違うな)


 バートはブロードソードの間合いを上手く利用し、剣の中央から先端あたりを敵に叩きつけるように斬っている。

 それに対してルーシーは、ほぼゼロ距離にまで接近し、鍔元から切っ先にかけて刃を滑らせるように敵を斬り裂いていた。


 バートの戦い方とルーシーの戦い方、どちらが武器にかかる負担が大きいのかは、一目瞭然である。

 そして、どちらが危険をともなうのかも。


(なるほど、貧乏くさい、命を粗末にってのはそういうことか)


 あのときバートの言わんとしたところを、賢人はようやく理解した。

 そしてルーシーの戦い方だと、両刃の直剣より片刃の曲刀のほうが適していると、彼は考えたのだろう。

 賢人は剣術にかんしてあまりくわしくはないが、ロングソードからシミターに替え、その変化に慣れて以降のルーシーの動きを見ると、バートの目に狂いはなかったといえる。


「さて、そろそろ切り上げるとしようか」


 途中、適宜休憩や軽めの食事をしつつ、さらに3時間が経過し、都合半日で27番回廊の中ほどまで進んだ一行は、探索を終えて引き返すことにした。


 帰りは来た道をそのまま戻ったので、敵との遭遇はあまり多くなかった。

 ダンジョン内の魔物は何度倒されても復活するが、それにも少し時間がかかる。

 別の回廊につながる横穴から現れた魔物との戦闘は数回あったものの、一行は無事ダンジョンを出られたのだった。


○●○●


 ダンジョン街に戻った一行は、ギルドの出張所へ行ってドロップアイテムや魔石を納品した。

 戦果は最初に支払った宿代を差し引いても10万シクルを超えるものだった。


「ひとり2万、悪くないね」


 今回はお試し要素も大きく、安全策をとったこともあるためその程度の収入だったが、それぞれの実力を理解し、連携がうまくとれるようになったので、次回からはもう少し難易度の高い回廊へ挑戦できるだろう。

 そうすれば、収入はさらに大きなものとなる。


「ケント、どう?」


 手続きを終えたタイミングで、ルーシーが話しかけてきた。


「あー、ちょっと待って」


 賢人は加護板を取り出し、確認する。


「きたね、レベル10」


 人数が増えたぶん、もう少し時間がかかるかなとは思っていたが、さすがダンジョンだけあって、経験値の効率はいいらしい。

 賢人はダンジョン探索初日にして、目標であるレベル10に到達したのだった。


「そっか。よかったね」


 ルーシーは笑顔でそう言ったが、心なしか寂しげだった。



「みんな、話があるんだけど」


 宿に戻った賢人は、故郷に帰るためにしばらく留守にすること、その間ルーシーと行動してほしいことを伝えた。


「ん、ルーシーのことはアイリにまかせて」

「ご主人さまに異存がなければ、わたくしはかまいません」


 アイリとマリーがそう答え、自然とバートに視線が集まる。


「ふふっ……ガンナーとの共闘は刺激的だっただけに少し残念だけど、すぐに帰ってくるのだろう?」

「できれば数日……もしかするともう少し長くなるかもしれないけど、おそくとも半月以内には」

「わかった。なら、ルーシーのことは僕たちに任せておいてくれたまえ」


 バートはそう言うと立ち上がり、右手を差し出した。


「ああ、頼む」


 そして賢人は彼の手を握り返し、そう答えた。


「バート、アイリ、マリー、しばらくのあいだ、よろしくね」

「しばらくなんていわないで、ずっとでも問題ない」


 ルーシーの言葉にアイリは胸を張って答え、メンバーたちはクスクスと笑い合った。


「さて、そういうことなら今夜はケントの送別会といこうか。出発は、どうせ明日なのだろう?」


 バートの提案により、一行は宿屋1階の酒場で、夜遅くまで酒盛りを楽しむのだった。

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