第26話:やりましたよ、みなさん!。でも不安。私の気持ち、届いたの?。

8月上旬。

マーちゃんの東京行きが正式に決まった。

高知で2学期を迎えることなく東京の中学へ転校することになった。

そこからエスカレーター式で同じ高校へと通う。いわゆる芸能人のための私立高である。

ずいぶん急な話だけど、今の夏休みを利用して契約手続きやら入寮作業などの雑務を済ませてしまおうということらしい。

ついにきたな……。

ちょうど私のバイトも今日で終わりだ。

私は石川翔の家へ給料をもらいに行った。

家を出る朝、母に

「アンタ、ずいぶん日焼けしたねえ」

と疑われたが、

「そーお?」

とトボけてやりすごした。

そして、私は石川翔のお父さんから給料の2万円とポケットマネーの5千円をもらった。

ポケットマネー?。何のこと?。私は石川翔のお父さんに聞くと……

「直ちゃんの初恋に乾杯」

だって……。

顔中の顔から火という火が出尽くした。

石川翔のヤツ……何でもベラベラ喋りやがって。

でも、これは社会の優しさだね。

もう私は観念して

「頑張ります」

と頭を下げてその貴重な5千円をありがたく頂いた。


それからすぐ私はマーちゃんちに向かった。

いつものように勝手口から入ると、マーちゃんは澄ちゃんと料理の仕込みに追われていた。

東京行きが決まっても最後まで働いているマーちゃん……。

私はやっぱり旅費を稼いで良かったと思った。

「あら、直ちゃん」

澄ちゃんが意外な顔をして振り返った。

「直ちゃんッ」

いつものイケメンなマーちゃんの笑顔。

ホントに綺麗だ。

もうこれが見られないんだなあ……。

ついにお別れだね。

はたして私のお金なんか受け取ってくれるだろうか?。

私は、封筒から2万5千円を出してマーちゃんと澄ちゃんに事情を説明した。

私は落ち着いていた。

〝どうだーッ〟という自慢の気持ちより、

子供が餞別せんべつを渡すなんて出過ぎて生意気な行為だと思っていたので、

私は二人に恐る恐る申し訳ない気持ちで

〝どうですか?〟

という感じでお金をソロソロと差し出した。

「直ちゃんッ!」

号泣したのは澄ちゃんだった。

「ありがとねッ!。これ、ウチの家宝にする」

「お母さんに言わないでね」

「言わないよ!。絶対言わない!」

たぶん言うだろうなあ……。

マーちゃんのタバコを言うくらいだから。

まあいいや。

そして当のマーちゃんはというと

「直ちゃん、ありがとう……」

と実に呆気あっけない笑顔で終止符を打った。

そして

「引越しの準備があるから」

かわいた口調で別れを放ち、2階へそそくさと上がって行ってしまった。

澄ちゃんは相変わらず私の手を握りしめて号泣していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る