アイの花

エッフ

プロローグ

一日目・夜

修学旅行。小中高の12年間学校に通ったとしても、人生で3回しかないであろうイベント。

現代は80年くらい生きられる時代になっているが、80年生きても3回しかないイベントというのは、ほかにどんなものがあるのだろう。

いつも、小さくて狭い学校の中でひしめきあっている仲間同士が、全くの異世界に在る特異な時間。もっとも、仲間かどうかなんてのは人それぞれで、敵ばかりという人もいるんだけれど。


この学校の修学旅行は二年生の10月にある。3泊4日。初日、テレビ局を訪れたり公園を散策したり無難な1日を終える。2日目に、生徒たちの緊張感は高まる。

男子2人、女子2人の4人組を作って、「翌日、所定の場所に集合」という命令を守るだけの日。

それが2日目。この1日は、何をやってもいい。ただし、レポートを書かなければいけなくて、それが成績に直結していく。この高校はうまくいけば人生安泰コースを歩むことができるくらい未来が保証されるから、みんなここぞとばかりに博物館に行ったり、歴史の跡を追ったりする。


でも、ここの班長は違った。いや、僕が気乗りしないからといって、みんなからの誘いを断り続けてしまったことがいけなかったんだけど、僕は修学旅行が始まっても所属する班が決まっていなかった。多くの友達は彼氏彼女でダブルデートみたいな1日にするのが主流だったのだけど、僕には悲しいことにそんな彼女はいない。悲しむべきことでは本来ないのだけれど、悲しい感じを出しておいた方がみんなが哀れんでくれるからお得だったりする。


話が逸れたけど班長だ。もちろん、300人近い同級生の男女比は異なるし、カップルばかりではない。けど僕は結果的に当日まで余ってしまって、誰と回ればいいのかわからなかった。だけど、今更入れてというのも難しくて、班決めのある1日目の夜、どうしようと思っているところに、班長がやってきた。


「やあ。おひとりさん?」


うん。と言った。隣に可愛い女の子がいる。リア充だ。よく見たら、どこかですれ違ったような気もする。そりゃそうか。同級生だし。


「何組?ああ、まあ何組でもいいや。班決まってる?決まってないならうちにこない?」


質問をしておいて、自分で納得して、もう一度質問をして、答えてないのに提案をしてくる。頭の中を整理しながら言葉を発するタイプの人だ。こういう人は何度か会ったことがあるけど、結構賢い人が多かった。「いいの?」と聞いたら「よくなかったらこんなこと言わない」って。可愛げがない返事だなぁと思うけれど、贅沢は言っていられない。班が決まらなかったら、本当に余った人達だけで班が組まれて、無計画で地獄のような1日が始まってしまうのだから。


「じゃあ、入れて」

「よし、これで4人揃った。班長の砂月さつきといいます。よろしく。はじめましてだよね。どこかで見たことはあるけど。いやないか。まあいいか。とにかく計画はちゃんと立ってるから。明日の朝またここで会おう。栞里しおり、登録しに行って。名前は?」


自分で言った台詞に自分で質問を投げかけて、勝手に自分で納得してる。とりあえずこういうコミュニケーションは僕はとれない。尊敬に値する人だという事にしておこう。


漆畑天馬うるしばたてんまといいます。2年1組」

「栞里、漆って漢字で書けるか?」

「ええと、調べて書く」

「学のない彼女ですみませんねどうも」


彼女をディスっているようで、これはお惚気だ。まあこれだけ可愛いと、そうもなる。それよりも、この人はちゃんと班員を集めているのかどうかの確認が先だった。


「あの、3人しかいませんけど・・・もう1人はいるんですか?」

「いるぞ。とびきりぶっ飛んだやつが。そいつ、もう部屋に戻った。大丈夫だ、天地が裂けてもこの学校で彼氏ができそうにもないやつだから」


何が大丈夫なのかさっぱりわからない。修学旅行は合コンではないし、デートを楽しむものでもない。まあ、そういう過ごし方もできるとは思うけど。それにしても、天地が裂けても彼氏ができないってどんな女の子なのだろう。と思う。ただ、そう聞いて心当たりがないかと言われたら、嘘だ。クラスメイトにもこの子は・・・と思う人はいる。でもそれは僕の感想だ。


「ようし、これで明日は安泰だ。ゆっくり休んでね。それじゃ」


班長とその彼女はさっさと消えていった。明日の班どうしようという不安は消えたが、この班は大丈夫なのだろうかという不安が新しく自分の中に根付いた。どうもこっちの不安のほうが強い気がする。とはいえ、じらされるわけではない。一睡もできなかったとしても、明日だ。どうにかなる。

僕は部屋に戻って、ルームメイトと適当に談笑して、スマホでニュースを適当にチェックしたあと、布団に入った。明日はどんな日になるだろう。

不安を楽しみに変える薬を開発すればノーベル賞がもらえる。つまらないことを考えていたら、眠りに落ちていた。

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