霧の中に悪魔がいる

full moon

虚無の独奏

 ギターを弾いている。


ひとつひとつ手元を見ながらコードを押さえる。


おぼつかない手先は時々、淀んだ音を響かせる。


この音を聴いた霧の中の悪魔は、集まるだろう。


そして、私は悪魔に殺される。


それでいい。


もう終わりにしよう。


疲れたんだ。


 私は、荒れ果てたレストランの中にいる。


フローリングの床は割れ、足の折れた椅子はいくつも倒れている。


床に散乱した食器、割れた破片は鋭利にきらきらと瞬いている。


窓から白い朝日がおぼろげに、薄暗い店内を照らす。


窓枠はガムテープで密閉され、窓には無数の血しぶきが付いている。


窓の外は、深い深い濃霧が広がり、白い光景以外に何が起きているのかわからない。


店内には壁に寄りかかり目を開けない者。


床に倒れている息をしていない者。


血を吐いている死んだ者。


妻も娘もいたが、私だけが残ってしまった。


私は、店内の中央にある欠けた噴水のモニュメントに腰をかけて、ギターを弾いている。


噴水の水は途絶えている。


受け皿は割れ、溜まっていた水が床を濡らしている。

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