第四話 神龍の威光

 俺たちと宝玉神龍レインボードラゴンの戦いは、宝玉神龍の咆哮によって幕を開けた。


「クレハ、いつものを頼む!」


「分かったわ!」


 俺の言葉を合図に、クレハは魔法を詠唱する。


「『付与魔法エンチャント:サンダー』」


 すると、俺の体を中心にバチバチと白い雷が辺りを舞う。


 俺はクレハにお礼を言うと、真っ直ぐに宝玉神龍レインボードラゴンへと突っ込んでいく。高さがかなりあるが、そんな相手にも対策はしている。俺はこれでもJFO最強のプレイヤーなのだから。


「『スキル:空壁』」


 俺がスキルを発動すると、空中に透明の壁が出現する。それを俺は蹴ってどんどん上に進んでいく。壁を蹴るたびにパリンッと音を立てて割れていく。蹴っては割って、そしてスキルで壁を生む。俺はそれを繰り返して宝玉神龍に確実に近づいていく。


「ほんと、相変わらず無茶な使い方するんだから」


 クレハは遥か下でため息を吐きながら呆れていた。


 そう、この空壁は一見使い勝手が良さそうに見える。だが、これは序盤に覚えられるスキルの一つで、あまり番人受けはしていない。むしろ俺以外に使っている人を今まで見たことがなかった。そもそも、今俺がやっているような使い方は異例中の異例と呼べる。

本来この空壁は、攻撃を防ぐための防御スキルなのだ。だが、このスキルには欠点しかない。それは、下位の魔物の攻撃を一度だけ防ぐというものだ。レベル1のスライムの体当たりでこの空壁は弾け飛んでしまうし、なんなら低レベルの魔物の吐息ブレスなんて食らって仕舞えば、最初の一瞬は防ぎはするものの、その後は全く防いでくれない。つまり、多段の攻撃に対してはどんなに弱くても最初の一撃しか防いでくれないのである。もちろん高レベルの魔物にこのスキルを使っても、まるで紙切れを手で薙ぎ払うかのようにされてしまう。そう、防御が防御にならないのだ。


 他のプレイヤーはこのスキルを欠陥スキルと言って全く使うことがないが、俺は違う。防御ができないなら他で使えばいいんじゃないかとそこで考えた。色々考えて捻り出した答えが今のこれだ。


「さて、そろそろ宝玉神龍レインボードラゴンのところに着くな」


 俺は軽快な足取りで空壁を蹴って登っていく。


 そして、両者の攻撃の間合いに入るまで後数秒というところで、相手に変化があった。


「やべっ、あれは吐息ブレスの初動だな」


 俺は宝玉神龍レインボードラゴンの射程から外れるため、空壁を横に強く蹴る。


それから数秒後、俺がさっきまでいた位置に虹色の吐息ブレスが通過した。


「あれ当たったらひとたまりもないな」


 俺はまた空壁を蹴って高速で宝玉神龍レインボードラゴンへと肉薄する。


「『スキル:斬鉄剣』」


 俺はスキルを発動し、宝玉神龍へと斬りかかる。


カァンッ!


「なっ!?硬すぎんだろ!」


 俺の攻撃は難なく相手に弾かれる。


「全く攻撃が通る気配がないんだが?」


 俺は一旦体制を立て直すために、地上へと降り立つ。すると、クレハがこちらに駆け寄ってきた。


「どうだった?」


「あぁ、ありゃダメだ。硬すぎる。それになんだかわからないが、いつもよりも動けている気がしないんだ。なんていえばいいんだろう。まるで身体中におもりを纏っているみたいだ」


「それは思ったわ。私も体を動かすのがいつもよりも少しだけ遅い気がするのよ」


「これは、何かあるな」


「えぇ、あるわね」


 俺たちは二人して頷く。


 俺はもう一度やつを見てみる。


「なるほど、そういうことか」


「どういうことよ?」


 俺はクレハにやつの名前の欄の隣を見るように指示をする。


「なっ!?なによこれ!『固有スキル:神龍の威光』って」


 クレハは敵のスキルを見て驚愕の表情を浮かべていた。


「どうやらこれが原因らしいな。これが発動している限り、俺たちのステータスはHP以外が全て半分にされてしまうらしい」


「それってつまりほぼレベル半分と同義じゃない!」


「あぁ、現時点で最難関のダンジョンなんだから何かあるとは思ったが、まさかステータスを半分にしてくるとはな。これは少し、いや、相当きついな」


 俺たちはお互いに唸る。これでは普段の力が出せない。それに、レベル差が実質500差くらいついてしまっている。流石にこれで勝てとは無理な話だ。おそらくこの状況を突破する何かがあるはずだ。


「クレハ、一旦宝玉神龍のことは忘れよう。おそらくだが、これでは何度立ち向ったとしても、俺たちでは傷一つつけることはできない。そうなると、何かこれを覆すようなギミックがこの空間内にあるはずだ。それを探す方が勝てる確率が上がると思う」


「本当にあるんでしょうね?」


 クレハは目を細めて疑いの籠った視線を向けてくる。


「あぁ、ある。ゲーマーの感ってやつだ」


 俺たちは二人して笑う。


「それじゃあ神龍攻略作戦開始だ!」





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