潜水癖
多分僕は、ちょうど一日分ほどの小さな人間としての欠陥の負債が掃き出せないほど降り積もってしまったことで、二年前心を放棄してしまったのだろう。それだけ。大きな絶望にやられたわけじゃあない。
だけどたったそれだけの塵と塵が、僕の心の中では大吹雪として吹き荒ぶ。そして、その処理すら覚束ない自分に対して湧いてくるまた別の劣等感。
僕の憧れの人や仲間のほとんどは、僕よりもうんと上手にこの塵を掃き出しているし、そもそも僕の抱えているうちの半分くらいは門前で払えているらしい。上手くいかず苦戦している場合も見かけるし、ちょっぴり不器用な人もいる。それでもみんな、何とかしなければとちゃんと腰を上げることができている。
僕にはできない。
目の前に吹き荒ぶ塵を、ただ眺めるだけしかできずにいる。
これでは、到底この負債の返済は追いつかないというのに。
また満杯になったら、そう易々と取り返しはつかないとわかっているというのに。
早く、返さねばならないのに。
……まあこの思考すら、気に病みすぎだと言われるのだろう。
そうやって正論で励まされる、いや僕の視点では、馬鹿にされるのが嫌だから、面と向かっては言わない。
知っている。あなたたちの方が正しいのは。あなたたちから見れば僕のこの深海への潜水癖は、誰もが時折陥いるうっかりや不安に過ぎないのだろう。きっと跳ね返してみれば、そのうち同じ位置に立てるのだろう。
けれども、信じられない。信じる気力すら削がれるほどに、ほんの擦りむきが僕には重い。
あなたたちとのこんな、本の紙面や液晶とよく似た薄いのに遠い隔たりが、僕の劣等感の正体なのだ。
僕は、飛び込みたいのだろうか。
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