ブリーダー
全身黒い電気工事屋の作業服を着た男が、エアコンのリモコンが沢山入った段ボール箱を抱えて走り去った。
妻が私の袖を引っ張り、小声で言った。
「あれきっと闇ブリーダーよ」
「闇?ブリーダー?」
「そうよ。今見たでしょ、山の様なリモコン。育てて増やすのよ」
「育てるも増やすも、あれリモコンだろ」
「何言ってるのよ、あのリモコンが大きくなってエアコンになるんじゃない。リモコンが子どもで、エアコンが大人でしょ」
「…え?」
「え?じゃないわよ。闇ブリーダーは違法なのよ。ダイキンとかパナソニックとか三菱とか、ああいうちゃんとしたブリーダーが育てないと、ちゃんとしたエアコンにはならないのよ」
「闇ブリーダーだと何が違うんだい?」
「あなた何も知らないのね。ハァーだと温かい息だけど、フゥーだと冷たい息が出るとか、そういう躾を闇ブリーダーは疎かにするのよ」
「つまり闇ブリーダーに育てられたリモコンは、温度調整の効かない不良品のエアコンになるという事だな」
「それだけじゃないわ。そういうエアコンを繁殖させるのも問題なの。エアコンディショナー権の著しい侵害なのよ!」
力説する妻の横を、黒いスポーツ用品店の男がピンポン玉の段ボール箱を抱えて走り去った。
妻がまた私の袖を引っ張り、小声で言った。
「あれきっと闇ブリーダーよ…」
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