絵葉書
「あなた、絵葉書が届いてるわよ」
「あぁ、そういえば部下が別府の温泉に行くと言ってたな。絵葉書をよこすとは、まったく律儀な奴だ」
「でも、これ本当に別府なのかしら」
妻が首を傾げながら、私に絵葉書を手渡した。
それは畳とテーブルの脚だけが大写しになった、しかも少しブレた写真の絵葉書だった。
絵葉書の端には、小さく部下の手書きの字が添えられていた。
『お元気ですか。私は別府に来ています。そして丁度今地震が起こり、旅館のテーブルの下に隠れたところです。しかしテーブルの下には地震の思い出にと絵葉書を売る老夫婦が潜んでおり、私は二人から執拗なセールスを受けたのです。…止む無くペンをとった次第です』
私は妻と顔を見合わせて笑った。
「ハハハ、可哀想に。しかし最近の観光業には目を見張るものがあるな」
私はそう言いながら、旅館のテーブルの下でいつ来るとも知れない客を待つ、地震の絵葉書売りについて思いを馳せていた。
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