ゆきずり

「今日は“ゆきずりの素麺”だぞ」

休日の午後、私達家族は夏らしく庭でゆきずりの素麺をする事にした。

半分に割った竹の上から、私が水と素麺をゆきずらせるのだ。

妻と子ども達は、キャッキャと騒ぎながら素麺を箸で掬って食べた。

「あなた、これ“ゆきずりの揖保乃糸”じゃない。嗚呼、何てかりそめでしょう。美味しいわ」

妻が涙を流した。

「パパ、ゆく素麺の流れは絶えずして、 しかももとの揖保乃糸にあらずだね」

子ども達も涙を流した。

「おいおい、そうしてる間に素麺がゆき過ぎてしまうぞ。さぁ、どんどんゆきずるからな。みんな上手く食べろよ」

私は涙を堪え笑った。

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