ミッドライフクライ司寿

塩塩塩

ざる蕎麦 ●

昼休憩に常務と蕎麦屋に入った。

「ざる蕎麦、バッハで」

常務がそう注文したので、私も取り敢えず同じものを頼んだ。

間もなくして、我々の前にざる蕎麦と白い物体が届いた。

戸惑う私に蕎麦屋の大将が言った。

「その白いのは中世ヨーロッパの貴族や、そこにつかえる音楽家が正装として着けてたカツラだよ。ほら音楽の教科書でバッハが被ってただろ。だからこの界隈じゃあ、それをバッハと呼ぶのさ」

常務は既にバッハを被り、美味そうに蕎麦をすすっていた。

私も慌てて、後に続いた。

常務が言った。

「どうだ美味いだろ。バッハだと、まるで洋食みたいだろ」

「本当ですね、これは完全に洋食です!」

私は感心して蕎麦をすすっていたが、ふいに隣の客がターバンを被って辛そうに蕎麦をすする姿が目に入った。

『…しまった、あっちの方が美味そうじゃないか!』

私はメニューを見ずに注文した自分を恨んだ。

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