第32話

「メネシス!無事だったか!?良かった!本当に良かった!!」



 俺たちは王都に帰り、まっすぐバーナード商会に訪れた。そこに待っていたのは家族を心配する大勢の家族たちであった。



「ケビン!ケビンはどこなんだ?」

「うちのローザはどこなの?」



「すいません。俺たちが訪れた時には既にここにいる11名しか残ってませんでした。死んだ者たちは教会の人間が連れ出していたそうなのですが、これ以上のことは分かりません。」



「そんな…嘘だ!うちの子が死ぬ筈がない!!あの子はまだ14歳なんだぞ!あの子が一体何をしたって言うんだ…教会は治療の為に隔離してたんじゃなかったのか!?」



「教会は俺たちのことをあの場所に閉じ込めるだけで何の治療行為も行ってくれてませんでした。1日1回僅かな粗末な食べ物を与えられるだけ…ただ、全員が自殺するのを待つのみでした。自殺した仲間たちを外に運びながら彼らが吐きかけてきた言葉は「さっさとお前らも死ねよ!そうすりゃーこんな仕事から解放される!」という無慈悲なものでした。」



「それは本当か!?」



「ええ、俺はこの国の第3王子として生まれたカシム・ルイ・カルナックです。ここにいるオリオンさんとアリエスさんに救われるまで、俺たちに希望は何一つありませんでした。1人…また1人と目の前で絶望の叫びと共に自ら命を断つ仲間たちを眺めながら、近いうちに自分も発狂し、自ら死を選ぶのだろうと思うばかりの毎日でした。


その絶望から俺たちを救ってくれたのは教会ではない!オリオンさんとアリエスさんだ!教会は俺たちの呪いがオリオンたちによって解呪されたことを確認すると、こともあろうに教会では解呪できなかった呪いをただの冒険者に解呪されたと広まることは教会の威信に関わると全員皆殺しにするよう兵たちに命令したのだ!!俺たちはその様子を全員で目撃している。


教会は俺たちの命も、それを救ってくれたオリオンさんたちの功績も一切を認めず、ただ自分等の威信の為にあっさりと切り捨てたのだ!!


そもそも俺たちをあそこに閉じ込めたこと自体が自分等の無能っぷりを外部から隠す為の口実以外何物でもない!皆さんの家族は邪神の呪いと教会によって殺されたといっても過言ではないだろう!


今後俺は教会を一切信頼しない!!王家から切り離された俺に何ができるかは分からないが、俺はこの生き残った仲間たちの為にできる限りのことをすることを誓おう!」



「王子様!それは誠ですか?まさかあの教会がそんなことをするなんて…くそっ!信じてたからこそ、苦しんでいる大事な子供を連れていかれるのに抵抗しなかったのに…俺ももう教会は信じられね~!」



「私もよ!教会はルディーの仇よ!許せないわ!!」




 そんな怒りの声がそこら中から響き渡る中、俺は1人「あちゃー、これは不味いことになったな!」と考えていた。俺は本当の意味であそこに閉じ込められていた者の絶望や怒りを理解できていなかったのだ。


カシムは年上の19歳で王家の人間でもあり、出会ってからも常に冷静で大人なイメージを持っていた。だから亡くなった転生者たちの家族を教会と敵対するような煽り方をするとは予想していなかったのだ。


これでは転生者とその家族たちは、反教会勢力として国や教会から目を付けられてしまい、下手をしなくとも命を狙われることとなってしまう。それは避けねばならない。今の俺たちにはそれを守りきれるだけの力などないからだ!




「カシム、それにここに集まっている皆さんに話があります。俺は今カシムが話していた解呪を行った冒険者のオリオンです。


皆さんの教会への怒りの気持ちはよく分かります。俺も同じ思いです。しかし、一旦その怒りはその胸の中に納めておいてもらえませんか?今の俺たちには力も金も圧倒的に足りません。今教会相手に下手に騒げば、皆殺しにされるのはここにいる俺たちの方でしょう!!


それだけの力も権力も教会にはあります!そして俺たちを殺した後に罪人を片付けたと処理することも簡単なのです。


俺は彼らの未来を救いたかったのです。教会と戦って死んで欲しくて救った訳ではありません!どうか俺の気持ちを分かって下さい!!改めてもう一度お願いします。その怒りを今は納めて下さい!!」



しばらくの沈黙の後、最初に返事をしたのはカシムだった。



「オリオンさん、流石です!確かに俺たちには教会と戦う為の力が圧倒的に足りません!オリオンさんは俺たちに今はその怒りを力に変える原動力に変えろっと言いたいのですね!!


時が来たときにその怒りを爆発できるように力を溜め込んでいけばいいのなら、俺はGPを貯めて剣神のスキルを取り、その力でこの国の王になります!!そうすれば教会とも対等に渡り合える権力を得ることができます!」



「剣神!伝説のスキルじゃないか!!」

「それが本当ならば不可能ではないのかもしれない!」




いやいやいや!もっと物騒な話になってしまった!!これじゃー俺は国家転覆を企む第3王子を煽っている黒幕的な存在じゃないか!?



「カシム、一度落ち着くんだ!そんなこと軽々しく口にしてはいけない!誰かに聞かれれば言い訳すらできずに打ち首だ!!何度もいうが、そんなことで死んで欲しくて救った訳じゃないからね!!」



「分かりました。今後はその時が来るまでは一切口に出すことはしません!」




いやいや、これ絶対分かってない…カシムは本気で王になるつもりだ!どうやら自分に酔うタイプの転生者だったようだな。話が微妙に通じないタイプだから、説得しにくそうだ…


まあしばらくして、落ち着いたときにゆっくり話をして説得することにしよう。




 俺はそれでもこれで何とかしばらくは誤魔化せるかとまだ気楽に考えていたのだが、俺たちの置かれていた状況は既にそんなに悠長な状況ではなかった。


神の神託を受けたロモス・デミーラ大司教が放った間者が、既にこの場に潜んでいたのだ。そしてその報告を受けたロモス大司教はやはり神託は間違いではなかったと俺とカシム王子への怒りに体を震わせていた。



「大司教様、いかがなさいますか?この事を王家の方々にも報告をするべきでしょうか?」



「報告はしない!呪われ、王家を追い出された王子が国家転覆を企んでるなど確かな証拠もないのに信じる者はいないだろう。ましてその王子が剣神のスキルを覚えることができるなど誰が信じる?儂とて神託がなければ信じなかったであろう。」



「確かに!では如何いたしましょう?」



「できれば被害は少なく済ませたい。教会が彼らの呪いを解呪できなかったことは事実。そして彼らの話を信じるのならば、あの場を任せていた者たちの態度も対応も彼らに恨まれてもおかしくないものばかりだ。あそこにいた者たちとその家族たちには何か行動を起こさぬ限り手を出すことは禁ずる!


だがカシム王子とそのオリオンという冒険者は別だ!この2人さえいなくなれば、今度のことは鎮静化できるであろう。近々カシム王子はGPを稼ぐ為にも街を離れ、魔物を狩ることだろう。おそらくは護衛にそのオリオンという冒険者が就く筈だ!そこに刺客を放て!!」



「ハッ!!」




 奇しくもロモス大司教の予測は当たってしまった。カシムは剣神のスキルを取得する為にも、俺とアリエスの冒険者の活動に同行したいと言ってきたのだ。


俺とアリエスはBランクにランクを上げてエリーゼダンジョンに入れるようになる為にも、普通に冒険者として依頼をこなす必要があった。これは大恩のある旋風の牙の2人との約束なのである。2人がカルモアダンジョンとラムーダダンジョンを制覇するまでには最低でもBランク以上に上がっておけ!残りのダンジョンも全て一緒に制覇してやろうと!


俺たちもあの2人となら今後も命を預け合える関係を築けると思い、それを快諾した!



 だからこそ、これまでのようにGPをただ稼ぐことに固執する必要はなくとも、冒険者として普通に活動を行う必要はあるのだ。それほど危険な依頼を受ける気もなかったことと、ゆっくりカシムの考えを改める為にここらできちんと話し合う時間を持つことにした俺はカシムの提案に乗った。


この何気ない選択が俺たちの未来に大きく関わってくるとはその時の俺たちは誰1人気づいていなかった…


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