Act.46:禁断の塔
「来ましたね」
「ん。ティターニア、再生した所はどんな感じ?」
色々あった昨日から一日が経過し、わたしたちは再び妖精世界へやって来ていた。今回はブラックリリーもラビも居る。
以前、一部分をお試しに再生してもらった場所にやって来ると、見事に自然が復活しているのが見える。わたしは既に見ているから驚く事はしないが、ブラックリリーとララはちょっと驚いている様子。
「言われた通り、結界を張らずに置いておきました。あの時から魔物は一体くらいしか来ませんでしたね」
「そうなの?」
「はい。少し私がやり過ぎたのかもしれませんね……この近くには今の所、魔物は再出現してませんので」
あれが少し……? よし、気にするのはやめておこう。
「どうだった?」
「そうですね、やはり結界がない方が外へ魔力が広がるのでやはりこちらの方が再生は早いかもしれません。ほら見てください」
「?」
そう言ってティターニアが指さした場所に見えるのは、再生した場所の外にある一つの花。荒廃している土地に、一本の花が咲いていたのだ。
「花……」
「私が特に手を加えた訳ではないのですが、いつの間にか咲いてましたね。この外に」
そっか。
この再生した場所の魔力がこの花を咲かせたのだろうか? 良く見たら周りにも、枯れている花や木が見えるが、何だか少しだけ元気になっているように見える。
「このまま結界を張らずに、再生を進めればもしかしたら思うより早く再生するかもしれませんね」
「だね。……でも」
「ええ、分かっています。魔物ですよね」
ティターニアの言葉に頷く。
確かに結界なしの効果なのかもしれないが、このまま進めていくには一つの問題点がある。それがティターニアが言ったように魔物の存在。
結界がなければ当然魔物は、魔力の豊富な場所にやって来るだろう。そしてそれを蓄えて、大きくるなるかもしれない。
魔物が暴れだしたら、折角再生した森も台無しになる。だから、魔物の対策が必要なんだけど……この世界にはどれだけの魔物が居るのか想像がつかない。
魔物を倒す組織もなければ、倒す人も居ない。そんな世界で、魔物が出現し続ければ……もうあっちこっちに居るだろうね。
「取り合えず、まずはこの精霊の森の周辺を再生していきますか」
「そうだね。範囲を広げても、手が回らなくなるだろうし」
地道にコツコツと。これがやはり一番、確実だろう。
精霊の森を拠点にして、そこから徐々に広げていく……と言う訳ではなく、まずは精霊の森周辺の再生を行うつもりだ。
精霊の森が拠点なのは間違いないけどね。
何かあっても、精霊の森なら結界もあるので安全だしね……何かはあって欲しくはないけど。本当、どれだけかかるんだろうね。
でも、こうやって再生できる手段……力は整っている。主にティターニアのお陰ではあるけど、準備は整っているのだ。だから再生は可能……それがどれだけかかろうとも、再生ができると言うのは良い事ではないだろうか。
「あ、そうだ」
「どうかしましたか?」
「ん。ちょっと聞きたい事があって」
「聞きたい事ですか?」
ふと思い出す。
ブラックリリーと見た、南の方にあった謎の塔。天まで届く塔で、上部は煙のような雲に覆われていて見えない。何と言うか、禍々しい塔だなって思ってた。
もしかすると、ティターニアなら知っているかなと思ったのだが。
「ん。……精霊の森から南の方角にずっと行った先に何か禍々しい塔があったけど、ティターニアは知ってるかなって」
「南の方角……空まで伸びている塔ですか?」
「ん。上部の方は雲で見えないけど」
煙のような雲で上部は覆われてる。なので、当然てっぺんは見えない。ただ異様に存在感を放っていたから気になるんだよね。
「……なるほど、見えるのですね」
「え?」
「あ、すみません。恐らくその塔は
「
「良い物ではない……まあ確かにそうかもしれませんね。あの塔については、実は私もそこまで分かっていないのです。この名称も精霊の中で呼んでいるものですしね」
「そうなの?」
「はい。あの塔は地球で言うと南極の部分にあるのですが、塔周辺は著しく魔力が乱れ、天候も不安定な場所です」
南極の部分、か。
あれ、そうなるとラビの国は南極に近い位置にあったと言う事か? いや、それは今どうでも良いか……まあ、空から見てもかなり遠くにあるように見えてた。
ただ気になるのは、そんな塔にラビたちが気付いてないと言う事。いくら遠くても、空からは遠くに見えた訳だし、お城とかの高い建物からも見ようと思えば見える気はするが。
「魔力乱れが激しい上、天候も不安定。魔力嵐もこちらには出てきませんが、塔周辺では何度も繰り返し発生しています。はっきり言って、危険地域と言っても過言ではありません。魔力の薄い場所よりも危険かもしれませんね」
「怖」
「それで、妖精たちが気付かなかった、見覚えがないって言うのはあの塔、どういう訳か妖精には見えないようになっていたようです」
「妖精には見えない……」
「原理は不明です。そもそも、魔力乱れの激しい所に行くのは精霊では少々リスクが高いですからね。魔力の薄い場所よりも危ないかもです」
「そんなに……」
そもそも、魔力嵐とか魔力の乱れって言うのが良く分からないけど。
ただ何となく想像は出来る。魔力嵐についてはラビが話していたからね。地球で言う台風みたいなものって。ただ、地球の台風と違うのは海上で生まれるのではなく、突発的に生まれると言う点。
魔力がある場所なら何処でも発生する可能性はある。海上云々関係なく、地上でも発生するようだし、地球の台風よりも質が悪い。
「ですが、そんな塔が妖精にも見えるようになっていると言うのは少々気になりますね」
「ん」
妖精には見えないようになっていた(らしい)けど、ララとブラックリリーが空で見たのだから、間違いなく妖精も見えるようになっているのが分かる。どうして今になって見えるようになったのか。
「まあ、今の所は特に何もないのでそっとしておくしかありません。下手に塔に向かった所で、何が起きるか分かりませんからね」
「ん。わたしたちの目的はあくまで、妖精世界の再生」
手がかりが全くなかった時は、あの塔に行っていたかもしれないが、精霊王であるティターニアとの出会いによって手がかり所か、再生にかなり近付けた訳だ。
今更、行こうとは思わない。ただこちらに何か害を及ぼすようなものなのであれば、対応するしかないのだが……。
南極の位置にあると言う事だが、そうなると反対側の北極にも同じような塔とかあったりするのだろうか。ここからでは流石に確認はできないけど。
さっきの話で、エステリア王国があった場所、精霊の森のある場所は南極よりだって言うのは分かったし。
「塔については今これ以上考えても意味はありませんね。再生の方、進めて行きましょうか」
「うん」
ティターニアにすら不明な変な塔の事を、地球人であるわたしが考えた所で何が分かる訳でもないし、時間の無駄になる。この時間は、再生の方に充てるべきだろう。
結界なしの試運転……試運転って言うのは変かな?
ともかく、結界なしの再生については上手く行ったと言えば良いだろうか。再生した所から魔力が生み出されて、荒廃した大地の方へも流れて行ったからか、再生してない場所にも花が咲いたのだ。
ティターニアの言っていた事は正解なのかもしれない。結界で魔力を外に出さないようにするよりも、こうやって出した方が連鎖効果? で周りも徐々に元気を取り戻すかもしれない。
流石に再生ではないから、枯れ木すら残っていない木については効果がないかもしれない。でも、これによって活性化が進めば……。
先は長いけど、コツコツやっていくしかないね。
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