Act.44:蒼き宝石の■□
「……」
時間、かな?
時計の針は、13時を指している。約束の時間は14時……待ち合わせの場所はまた魔法省。うーん、あそこを待ち合わせ場所にするのが最近は流行っているのだろうか?
巫山戯たこと考えるのはやめて、向かうとするか。とは言え、今から行くとまた早く着いちゃうだろうが、まあ、良いかな? 何時も通りだし。
蒼が呼んだ理由は分からないが……行ってみればそれは分かる事。わたしは近くにあったデバイスを手に取り、ササッと変身を済ませる。
魔法少女リュネール・エトワール……大分この名前も至る所に広まっているなとは思う。魔法省の魔法少女25人を助けたというのもあるからだろうけど。
ただその助けた事については、あまり大っぴらにしないで欲しい言っておいたので、そこまでではないが。
「魔法少女、ね」
改めて色々とあったなと思う。
男ながらも魔法少女になった事は、恐らくわたしが史上初なのではないだろうか? いやまあ……他の男性が魔法少女になっている可能性もあるからそうとは言い切れないが、何となくだけど隠しているとは思うんだ。
だって、男だとバレたらあれだし……。
そもそも、居るかどうかも分からないけどね。わたしのように演技をして、隠しきっていればその人を追跡でもしない限り、本当の姿までは分からないから。
もし、わたしと同じで魔法少女になった男性が居るのであれば、頑張れとしか言えないけどね。わたし自身は色々と特殊なので、何とも言えない。
「この世界は……謎が多い」
魔力や魔物と言うものが地球に現れてから、世界の謎は深まるばかり。
このわたしたちの居る世界の隣には、魔物の世界や妖精世界があるという事。その二つの世界の存在を認識ているのは、わたしたちくらいだろうけどね。
別世界なんて一般人が聞いても、疑問に思うだけでしょ?
この世界しか知らないのだから、他に世界があるなんて考える人なんて、科学者とかそういう人くらいではないだろうか。後はお年頃の少年少女たちとか。
並行世界という定義自体は、仮説として存在しているけどそれを証明する術はない。証明するには実際に、その世界に行かなくては駄目だろう。それを言うと、わたしたちは妖精世界という世界に行く事に成功しているが。
果たして、その世界の事を言ってどれだけの人が信じるだろうか? 実際その目で見せれば、信じるだろうけど言葉だけでは信じない人の方が多いだろうね。
しかし、このご時世……魔法や魔力、魔物という存在が既に常識一つに入っている。別世界の事も浸透すれば、常識となる事もあるだろうが、まあ今はあり得ないかな。
よし。変なことを考えるのはやめにして、向かうとするか。
「ハイド」
家から出る時は、必ず使うこの姿を消す魔法。
魔法少女が家に居るって思われると、面倒な事に絶対になるのでそれを防ぐためにもここは徹底する。この魔法、便利で強いんだけど問題点は常に展開中は魔力は減るという事。
わたしの魔力は尋常ではないので、そこまで重大な欠点ではないが普通の魔法少女とかが使ったら逆に、苦しめてしまう結果になるかもしれない。
念の為、毎回裏庭側の部屋に行ってその窓から出ている。その後は、自分の家の屋根に登り後は他の家の屋根を伝って、目的地へと向かう訳だ。
何時もと変わらない光景。まあ、前と違うのは、ここから裏庭にあるゲートが見える事くらいかな。
家を後にして、一定の距離まで離れた所で何時ものようにハイドの魔法を解除する。そうすれば当然、わたしの姿は見えるようになるがまあ、屋根の上を移動しているから、屋根を凝視している人位じゃないと見えないかな。
と言うか、身体能力も高くなっているのでまず目で追えるのかって所。そのまま、屋根の上などを使って、わたしは目的の場所へと向かうのだった。
□□□□□□□□□□
「……やっぱり、早いですね」
「え」
魔法省の屋上。最近は何度か訪れているのでだいぶ見慣れた場所となっている。そして今回もやって来たのだが、時間は恐らく20分くらい早いかもしれない……と思ったのだが、先客が居た。思わず、驚いてしまう。
「どうしたんですか、そんな驚いた顔をして。あなたでもそんな表情するんですね、ふふ」
何処か楽しそうに、わたしを見てくるのはここにわたしを呼んだ本人……ブルーサファイアなのだが、その姿は変身前の姿だった。てっきり変身してくるかと思ったけど……良く考えればブルーサファイアとかホワイトリリーは変身する必要はないか。
だって、魔法省ではどっちの姿も分かっているはずだし。
「遅れた?」
「いえ、そんな事ないですよ。予定時刻より25分くらい早いですね」
……あ、うん。
思ったより、早く着いていたようだ。これ記録更新してないか? 25分は流石にないわ……25分も早く来る? いやまあ、会社とかで交通機関の都合上仕方がない場合はありだけど、普通だったら早すぎるよね。
「ん」
でもまあ、遅刻するよりは良いという事で考えておこう。今日の天気は特に崩れもなく、全国的に晴れが多いとの事。それでもまあ、冬の太陽は弱いので、いくら昼間とは言え寒い時は寒いのだが。
「早いですけど、このまま本題に行きますか。まずは、今日来てくれてがあとうございます」
そう言ってペコリと頭を下げる蒼。別に忙しくもなく、予定もないし感謝されるような事ではないが、まあ、その御礼を受け取っておこうかな。むしろ受け取っておかないと、失礼に当たるだろう。
「それで……ここに呼んだのは?」
「そうですね。宣戦布告を受けてしまったからですかね」
「んぇ?」
「ふふ! 冗談ですよ。いえ、宣戦布告というのは当たってるんですけど、そんな戦闘とかバトルとかじゃないですよ」
またもや楽しそうに笑う蒼。
あれ、蒼ってこんな子だっけ? 何ていうか小悪魔的な……いや、これは失礼かな? いやでも、いたずらっぽい顔をもするし蒼には小悪魔属性があったのだろうか?
馬鹿なこと考えるのはやめておこう。小悪魔的と言うなら、雪菜もそんな感じだなと思う。なんだろう? 最初会った時よりも変わってるよね、二人共。
「そうですね。冗談はこのくらいにしておきます」
それだけ言って、蒼は一旦わたしから離れ、屋上から落ちないように設置されているフェンスの近くまで移動する。わたしもそれに続き、フェンスの方へ向かう。出入り口がある方ではなく、反対側のようだ。
「……リュネール・エトワールいえ、司。司が嫌ではなければ変身を解いてくれないかな」
意を決し、わたしにそう言ってくる蒼。
なんかデジャヴを感じる……雪菜の時もそんな事言われたような気がする。別に変身解除する分には問題ないのだが……どうせ、蒼と雪菜にはハーフモードを見せてるし。それに、雪菜に関しては今の姿を知ってるし。
「ん。
蒼が雪菜から聞いているかは分からないが、取り敢えず今の姿を見せる事にする。自分の周りを包んでいた魔力装甲が消え、変身が解除される。
「あれ……司、ですよね?」
「ん。やっぱりそういう反応する」
「雰囲気も喋り方も同じですし、司なのは間違いなさそうですね……以前会った時は黒髪だった気がしますが」
「ん。それについては、あの時はこの容姿が目立つから染めてただけ。目にはカラコンをつけてた」
ブラックリリーこと香菜相手だと、カラコンという嘘の理由は使えないが、蒼や雪菜に対してはカラコンと染めているというので通るはずだ。
香菜の場合、会ったのが銀髪金眼の時だったからね。その後、何故か青くなってしまった。なので、目立つのが嫌だからと言って金色のカラコンなんて付けたなんて言うのは通用しないだろう。……むしろ、金は目立つだろって話。
「そうなんですね……でもまあ、目の前で変身解除してたので本人なのは間違いないですね」
「ん」
「もしかして、白百合先輩相手にもその姿を見せました?」
「うん」
「……なるほど。同じ事を私はしたという事ですね」
「?」
「気にしないで下さい。話を戻しますね……えっと司」
「ん」
蒼はわたしの名前を言って、こちらを見てくる。
蒼との距離は手を伸ばすと普通に届くくらい近い。わたしの方が一応身長は高いので、若干上目な形でわたしを見ている形になる。これは雪菜にも言えるけど、上目遣いは破壊力がある。
……また何言ってんだ。
「率直に言います。私、色川蒼は前からあなた……如月司のことが好きです」
「っ!」
雪菜とは違い凛々しく堂々と言ってくる蒼。だけど、若干目が潤んでいるのが見える。
「友達とか、そういった意味ではなく……一人の女の子として、あなたの事が好きです。恋愛的な感情での好きです」
「蒼……」
……。
まさか、蒼まで告白してくるなんて。つい最近に雪菜にも告白されたのに……いや、告白される事なんてとうの前から予想していたじゃないか。そして答えも決まっていたはずだ。
だが。
「……」
これでは雪菜の時と同じではないか。
言葉で出ない。出そうと思っても、何故か出せないのだ。予め決めていた事が言えない……雪菜の時と全く同じだ。どうしてしまったのだろうか?
「恐らく白百合先輩もこう言ったと思いますが……返事は今直ぐではなくて良いです。ただ私が、司の事が好きなのは事実だっていうのを知ってほしい。本当に好きなんです。この鼓動、聞こえますか?」
「蒼!?」
突然、わたしの手を自分の胸の元へ引き寄せてそんな事を言う蒼に、わたしは驚く。いや、驚くと言うか……ほんのり柔らかな感触が伝わってくる。ちょ、何!?
「女の子同士なのですから気にする必要ないですよね? 聞こえますか、あなたの目の前にいる時のこのわたしの胸の鼓動を」
「……」
確かに。
手を伝って感じる蒼の胸の音……緊張している時のようにバクバクと脈を打っているのが分かる。
「本気です。私も負けてられないので」
「蒼……」
「今日はこれだけを伝えたかったです。私はあなたの事が好きです。同性なのに可笑しいですか? でも好きになってしまったのだから、司が責任とって下さい」
そう言って、胸から手を離してくれる蒼。いきなりの事でちょっと頭が回らなかったけど……それでも、本気で好きだっていうのは伝わったよ。でも何故か言葉が出せないんだ……ごめん。
「ふふ。冗談です。でも好きなのは事実なので、それだけは忘れないで下さい」
そう、蒼は小悪魔的な笑みをわたしに見せるのだった。
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