Act.27:ゲート①
「ここが司さんの家ですか」
「ん。何もないけど、上がって」
「お邪魔します……」
雪菜の告白から数日経過した今日。
あれから未だに答えが出ていない……でも、絶対返事はするつもりだ。だけど、あまり待たせるのも良くないとも思ってる。だから、自分自身と向き合ってどうしたいのか考えないとね。
今日はゲートを繋ぐ魔法を使用する日。
というのも、一昨日にブラックリリーとララと再び会い、そこで今週の何処でやるのか? という話し合いをしたのである。その結果が今日という訳だ。
ブラックリリーは、目立つのも駄目かと思って、わざわざ変身せずに身体が弱いはずのリアルの姿で、交通機関を使って来てくれたようだ。前もって、家の場所については教えていたから。
ララ曰く、今日の香菜の体調とかはかなり良い方みたいだった。
え? 家がバレるのは嫌だったのではないかって? 確かに、嫌ではあるがそれはあくまで魔法省に知られるのが嫌という訳だ。出来るなら雪菜や蒼だって家に来てもらいたいとは思ってるけど……。
香菜については、野良なので問題ないと思ってる。
「お邪魔するよ」
「ん。ララもいらっしゃい」
二人には家に入ってもらい、そのままリビングの方へと通す。何時までも玄関に居てもあれだろうし、取り合えず上がってもらう。
「ひ、広いね……」
「そう? ……でも普通の家よりは少し広いかも?」
家を買ったのは両親なので詳しい事は分からないが、広いかな?
わたしとしては昔からこの家に居る訳だから、この家の感じが当たり前だと思ってるし、特に何とも思ってない。ただ、香菜がそう言うなら広いのかもしれない。
「まあ、座って」
「うん」
何処か緊張しながら座る香菜を横目に、冷蔵庫のあるキッチンに向かう。
冷蔵庫の中にあるのは、料理とかに使う食品類に飲み物、調味料とか色々だ。冷凍庫には冷凍食品とか、氷とか……まあ、普通に一般家庭にある冷蔵庫だ。
出せる飲み物としては、麦茶かコーヒーだけど……無難に麦茶にしておくか。
「えっと、お客用のグラスは……あった」
コップ等がしまってある棚から、お客用のガラスのグラスを取り出し、シンクで軽く洗い流す。後は氷を幾つか入れてから、冷蔵庫から2Lペットボトルの麦茶を取り出して注ぐ。
「どうぞ」
「あ、ありがとう……」
「ん」
ララにも飲むか分からないが、同じように麦茶を出す。
「ボクもお客扱いなんだね」
「ん。飲まない?」
「いや、頂くよ」
そう言って静かにグラスを取り、飲み始めるララ。香菜もそれを見てか、同じようにして飲み始める。沈黙というか静かな時間が過ぎていく。
「今日はラビは居ないの?」
「居るよ。ラビ」
「え?」
わたしがそう返すと、向こうのドアが開かれ、少女……本来の姿のラビがリビングに入って来る。
「ラ、ラビリア様?」
「ララ、そうですよ。何時までも隠すのは良くないと思いまして、司にはもう話しました」
「そ、そうなんですね」
「えっと?」
いきなり見知らぬ少女がやってきて、それをララがラビリア様と呼ぶものだから、香菜が困惑している。わたしも最初は驚いたというか……。
「えっと、香菜さん。この姿では初めましてですね。私はラビ……ラビリア・ド・アルシーヴ・フェリークです。以後お見知りおきを」
「ラビリア……」
香菜は驚いた顔でラビを見る。
「まあ、話すと長くなるのですが……」
そう前置きをした後、ラビはわたしに語った時のように説明を始めるのだった。
□□□□□□□□□□
「アリス・ワンダー……原初の魔法少女……」
「ふふ、ちょっと話過ぎてしまったかもしれませんね。少し休みましょうか」
一通りラビが説明をした所、香菜の頭はオーバーヒート寸前のようだった。元より身体が弱いので、無理させる訳にもいかないので、一旦休憩に入る。情報量が多いのは、同感だ。
「大丈夫?」
「何とか……ラビは妖精世界にあったエステリア王国の第一王女で、
「肩書多いよね。わたしも最初はそうなった」
「うん……と言ってもそれ以外の情報にも驚いてるけど」
「ん。無理しなくて良いよ」
そう言って未だに情報の渦に呑まれている香菜の頭を撫でる。
この話で、ララにも本来の姿があるという事は香菜も分かったはず。というか、ララがもう認めてるしね……ララは中性的な話し方するから真面目に、どっちの性別か分からないんだよね。
ララについては別にこちらから本来の姿を見せろとかは言わない。ララはわたしではなく、香菜のパートナーというか妖精なのだから。
気になるのは確かだけどね。
「ありがとうございます、司さん。少し落ち着きました」
「それは良かった」
さて、香菜も落ち着いたところでラビの説明の続き……と行きたい所だが先に本題に入らないと。わたしの家でゲートを使うと言うのは決まっているが、問題は何処に設置するかだ。
家の中……は何かあった時が怖いので、やっぱり外になる。ただ外って言っていっても、中庭と裏庭、正面の三か所がある訳で。
ただ中庭は、ほぼ屋内のような位置にあるので保留かな。
中庭を除くと正面か裏庭になるが……正面は、お客さんとかが来る時があるので設置するのはまずいな。そうなると、消去法で裏庭かな。
庭を含む、家全体を囲うように塀が作られているからまず見られる心配はない。いやまあ、塀を登ってくるような侵入者が居たら見られるが……。
流石にそれは勘弁。
「ゲートの場所なんだけど、ここは司の家だから、何処が良いとかあるかい?」
「ん。屋内は少し怖い。中庭も屋内のような場所だから保留」
「中庭があるって言うのも結構凄いけど……」
「そうかな?」
「普通の家に中庭なんてないでしょ!」
「でも、そこまで広くないよ?」
「広さじゃなくて……ある事自体がおかしいの!」
香菜が何か元気だ。まあ、元気なのは良い事かな? 彼女は身体が弱いのだから、元気な姿が見れると何というか安心出来るよね。
「こほん。そうなると普通に庭になるかな?」
「ん。ただ庭も正面と裏庭がある。正面の方が少し広い感じかな。でも……正面だと訪問者とかが来た時に見られるかもしれない」
「なるほど。それなら消去法で裏庭って感じかな」
「ん。裏庭が一番安全……だと思う」
あの高い塀を登ってこなければ、だが。
取り合えず、現状裏庭が一番見られるリスクも低いので、そこが一番かな。
「了解。それじゃ、行ってみるか」
「ん」
「私も行きますね」
「あ、ちょっと! 私も行くから」
少し残っていた麦茶を飲み干した所で、グラスを水につけてからわたしとラビ、香菜とララで四人揃って裏庭へと向かう。場所はわたしかラビしか知らないだろうから、わたしたちが先導する。
「ねえ、司さんってもしかしてお金持ちなの?」
「他にもこの前、言ってたけど司しか居ないって言ってたが……」
向かっている途中、ララと香菜にそんな質問を投げかけられる。
お金持ち……はどうだろうか? 1億円当ててるから、それだけ見るならお金持ちだけど、その宝くじを除くとどうかな?
両親はそれなりの良い所に勤めていたと思う。わたし? わたしは普通の会社だよ。と言っても、それは前の話だけど……。
今は16歳にしてニートである。
「お金持ちかは分からない。両親については……もういない」
「え?」
まあ、隠したとしてもそのうち、居ない事に疑問を覚えるだろうし、素直に言ってしまおう。
「両親は既に居ないから、基本わたし一人」
「! ご、ごめんなさい」
「ん。気にしないで」
「でも……」
「大丈夫だから」
悲痛な顔をする香菜を安心させるように、撫でる。大丈夫である。確かに男の時も両親が、死んでしまった時は泣いたが、もうそれは過去の話。
今はもう立ち直れているから、大丈夫。立ち直れてなかったらそもそも、言わないしね。
「そうだったのか……すまない、これはボクの責任だ」
「ララも気にしないで」
「君がそう言うなら良いが……」
それに今は一人ではなく、ラビが居るしね。他にも今のわたしには友達がいるし……ね。雪菜には告白されてしまったが。
「この話は終わり。ララ、ゲートの準備しよ」
「司さんがそう言うなら……分かりました。ララ、何処に設置するの?」
半ば無理やりではあるが、暗くなっている雰囲気を消すために話をぶった切る。何処か納得いかなそうな表情をするが、切り替えてくれたようだ。
そんな訳で、わたしたちがゲートの魔法の発動準備を行うのだった。
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