Act.18:黒百合香菜①
「っと……来たのは良いけど」
翌日、わたしはブラックリリーに指定された場所にやって来ていたが、周りを見た感じでは彼女の気配を感じない。家の中に、人が居る感じはするけど……。
今の所、第三者というか一般人は居ないけど……どう見ても住宅街だし、そのうち人が歩いたりしそうだ。なのであまり長居したくないのだが……。
「リュネール・エトワール、こっちだ」
「え、ララ?」
上から声が聞こえたので、そっちを見ると二階の窓からわたしたちを見下ろす形で、覗いているララを発見する。家の中に上がってこいという事だろうか?
この家はやっぱり、ブラックリリーに関係している場所なのかもしれない。じゃなければ、ララが家の中に居るのは可笑しいし……不法侵入って可能性もあるけど、あの様子ではそういう訳でもなさそうだ。
いやまあ、ララがそんな事するとは思ってないけどね。
「ハイド」
とりあえず、今のわたしは魔法少女リュネール・エトワールなので、この姿で家の中に入る所を見られると、面倒になりそうなのでハイドを使って姿を一度消す。
あまりよろしくない行為だけど、一階からではなく、ララが居た二階の窓から直接中へと入る。土足ではあるが、魔法少女の状態の衣装や靴は魔力で出来ているので汚れることはない。
だからいつも自分の部屋で変身してから外に出たりしている訳だし。
「すまない。ちょっとこっちでもアクシデントがあって」
「アクシデント?」
「うん。まず、これから見た事は他の人には内緒にして欲しい」
「それってつまり……」
「君の予想通りだと思うよ」
この先に居るのはブラックリリーなのは間違いない。だけど、それは魔法少女としてではなく恐らく、リアルの方の姿だ。
まあ、既にホワイトリリーとブルーサファイアについてはリアルの姿見てるし、それをばらすような事はしないし、するつもりもない。神様に誓っても良い。
「ん。大丈夫、神様にも誓う」
「ふふ、神様か。分かった……それならこっちへ」
「ん」
そう言われた案内されたのは、さっき入った部屋の向かい側にある部屋。そこのドアには”香菜”の部屋と書かれたプレートが、ぶら下がっていた。
香菜? 何処で聞いた事あるような……。
「入るよ」
「うん、いいよ」
ララが軽くノックをすると、部屋の中から少女の声が聞こえる。うん、この声……ブラックリリーに似ているし、やっぱりここはブラックリリーの家なのか。
「体調は大丈夫かい?」
「うん……さっきよりはマシになったかな。あ、リュネール・エトワール……こんな姿でごめんね」
部屋に入ると、ベッドに寝かされている一人の少女がこちらを見ていた。頭には冷えピタが貼られており、見ただけでも体調が悪いのは分かる。
いや、それよりも……この子、前にショッピングモールで会った子じゃないか? あの時と、服装こそ違うものの、そっくりだ。
「香菜?」
「え?」
ショッピングモールで会った子の名前は確か、黒百合香菜だ。この子の名前も香菜……苗字はまだ分からないが……。
「黒百合香菜、であってる?」
「う、うん。合ってるけど……何で私の名前を? あ! もしかしてあの時の!?」
向こうも何かを思い出したみたいだ。
「司さん?」
「……
「! やっぱり……」
「ん」
わたしが変身を解除すると、それを見た香菜は、はっきりと思い出したみたいだ。何故ばらしたのかと言えばまあ、別に良いかなと思ったからだ。向こうもリアルの姿を見せたのだからお互い様という事だ。
「やっぱり、司さんがリュネール・エトワールだったの?」
「見ての通り」
「そっか……あれでも、あの時は金眼だったような?」
「ん。ちょっとそれには事情があった」
「そうなの? 念の為確認。あの時私は、何をした?」
「ん。『突然ごめんなさい。えっと、相席しても良いでしょうか』と声をかけてきた」
「!」
「他にも『すみません。席が空いていなかったので……』と言ってたし、わたしを見て『いえ、ごめんなさい。えっと、何処かでお会いしたことありませんか?』とも聞いてきた。後は……」
「す、ストップ! うんうん、間違いなく、司さんです!」
「信じてもらえた?」
そう言うと香菜はこくりと頷く。
「良かった。それで……香菜、どうしたの? 調子が悪いならまた今度に……」
「ううん。リュネール・エトワール……司さんにはもう少し私の事知って欲しかったので」
「香菜の事?」
「はい。その、と、友達になったんですから……」
「でも、リアルの姿をばらすのは宜しくないのでは?」
「それを言ったら司さんもじゃないですか。……それに言いふらさないと分かってるので」
「ん。する気もないしするつもりもない」
「私の事だって色々あったのに見逃してくれてるし、協力もしてくれるし……司さんには感謝しかないです」
そう言って体調が悪いながらも、笑って見せる香菜。
まあ、確かに普通は見逃さないだろうし、協力なんて以ての外か……彼女が以前にやっていた事を知らない人なら協力するかもしれないけど。
「ん。気にしないで。体調は大丈夫なの?」
わたしはそっと、香菜に近寄り目線を合わせる。香菜がベッドなので、わたしの方がしゃがむ形である。
「あまり近づくと病気移っちゃいますよ」
「ん」
それもそうか……でもまあ、大丈夫だろう。
「昨日、この子、君と友達になれた事が嬉しかったのか、結構はしゃいでてね。多分その反動が来たんじゃないかって思ってる」
「あ、ララ!」
ララの言葉を遮るように声を出す香菜。だけど、体調が悪いからか、そこまでの覇気は感じれない。
「嬉しかった?」
香菜の方を見て、わたしはそう問いかける。すると、香菜は少し赤かった顔を更に赤くしながらコクコクと静かに頷く。
そっか……嬉しかった、か。何だろう、ちょっと恥ずかしいぞ。
「ん。それではしゃいだ、と」
「ぅ……お恥ずかしながら」
友達という存在に憧れていた、と言ってた。それもあるんだろうか?
「あ……」
そう考えると、自然とわたしの手は香菜の頭に伸び、そして軽く撫でる。すると、目を細めて気持ち良さそうにする香菜。
何があったか分からないが……でも、友達に憧れていた、か。
「ごめん、嫌だった?」
「いえ……むしろもっとして欲しいというか」
「ふふ」
自然とそんな笑みが出てしまう。
香菜がそんな事言うので、もうしばらくだけ続ける事にしたのだった。
□□□
……。
頭を撫でてくれたのは、お母さん以外に誰か居たかな? ベッドで横になりながら、大人しく撫でられる私。そんな私を撫でているのはお母さんではなく、リュネール・エトワール……いや、司さんだ。
以前、ショッピングモールに行った時に出会った銀髪の子……司さんがやっぱりリュネール・エトワールだった事を今知る。
あの時は金色の瞳をしていた気がするけど、今の司さんは綺麗な碧眼だった。何か事情があったらしいけど……そこを聞くのはまだ私には早いかな。
それに、あの時の事をしっかり覚えているみたいでその時の言葉も覚えている。間違いなくあの時の子だ。雰囲気も何処かそっくりだし。
あの時はまだリュネール・エトワールという確証がなかったけど、今回は確証を得れた。というか目の前で変身解除するものだから、驚いた。
私の初めての友達。
昨日は嬉しかったのか、自分でも驚くくらいはしゃいでしまっていたのを思い出すと、顔が赤くなる。初めての友達っていうのあったからかな?
そのせいで、今こんな状態になってるんだけど。
身体全体が少し怠い。熱も測ったら高熱ではないけど、微熱はあった。私は身体が弱いので微熱でも、そこそこきつい時がある。今回はそこまできついという訳ではないけど、調子が出ない。
私の事をもう少し知って欲しいし、お話もしたい。でも、身体が弱いというのはこういう時に困る……生まれつきだからもうどうしようもないんだけどね。
でも、私はお母さんを憎んだことはない。例えこんな身体でも産んでくれたお母さんには、感謝しかないし、仕事で忙しいけど、時間がある日はいつも一緒に居てくれるんだ。
それに、昔と比べれば大分良くなってきてるんだしね。
それは置いとくとして、司さんに撫でられるのは嫌な感じはしない。むしろ、ずっとそのままで居て欲しいとまで思う始末。
他人に撫でられるとこんな感じなのかな。お母さんに撫でられる時とは、ちょっと違った感じだけど……相手が司さんだから? 分からないけど。
……このまま時間が止まれば良いのになあ。
って、私は何を考えてるんだろう。司さんとは友達になれた……でも何だろう、何だかこうすっきりしないような、何というか。
何だろう、この気持ち。
まだ、分からない。
私はそのままウトウトとしながら考えるけど、この状態ではまともに頭は働かない。司さんの撫でる感じが結構心地よく、眠気を誘ってくる。
そのまま、何だか分からない気持ちを持ちながら、私はついに意識を手放したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます