Act.16:ブラックリリー③
「なるほど」
「まあ、そういう訳で一応大丈夫のはずよ」
待ち合わせをしていた14時頃。わたしとブラックリリーは、いつもの場所で合流する。これまたいつものように時間も10分くらい早いと言うね。
「最初に行くのはララだからね」
「ああ。多分、この中ではボクが一番そういうのには詳しいだろうしね」
「確かにそうね……私の場合は妖精(アルシーヴ・)書庫(フェリーク)を見ないと分からないのが多いし」
まあ、ラビは妖精(アルシーヴ・)書庫(フェリーク)の全権管理者(アドミニストレータ)で、記録者(スクレテール)ではあるけど、書庫内にある物全てを書いた訳ではないので、仕方がないだろう。全部書いてたのなら覚えているだろうし……。
あ、でもあの量を覚えるのは流石にラビでもきついか? いやそうでもなさそう……だって速読してたしね。書庫内全ての三分の一を読んだって言ってたし……。
それはちょっと前の話なので、今はもっと読んでいる可能性があるけど。
「地球に来てから魔力についての研究や、この世界にある元素とかも調べていたからね。魔力は、正直妖精世界でも謎が多いんだ。こっちで言えば空気のような存在ではあるけど、空気については既に分かってるだろう?」
「ん。まあね」
「魔力は長い間研究されていたけど、解明しきれてないんだ。様々な物に変化したり、エネルギーとなったりと色々あるけど」
魔力。
地球にはなかった物ではあるが、妖精世界から流れ込んだ事により、今では空気と一体化している物だ。魔力は魔法という事象を起こす源であり、魔法少女の力の源とされている。
それはあくまで地球での事だ。妖精世界では地球と比べて遥かに長い年月を魔力と共存しており、地球よりも解析は進んでいたんだけど、それでも謎が多いままのようだった。
魔力は時に不思議な現象を引き起こす。誰かの強い願いに反応して、そういう事象を起こす事があったりなかったり。願いの力とも言われるのはその所以らしい。
良く考えれば願いの木の魔力も、わたしをこういう風にしたという実績がある。願いの木が反応したのは確かではあるが、事象を引き起こしたのは木ではなく魔力だ。
「ブラックリリーに協力してもらって魔力装甲についても調べてたんだ。結果を言えば、魔力装甲は有害な物から守るだけではない事が判明した」
「そうなの?」
「ええ。少し前に試しに魔力装甲を纏った状態で水の中に潜った事があるのよね」
「何故水の中……」
「水中でも戦えるのか試してたのよ。気にならない?」
「ん……確かに」
それはちょっと盲点だった。
そうか……魔物によっては水中を動ける魔物も居るんだった。わたしは遭遇した事ないから考えた事なかったし、主な戦闘は陸上だったしね……時々空中戦と言った感じだ。
水中を移動できる魔物は、主に水辺の近い所で出現するらしいのだが、今まで見た事がない。わたしの活動範囲がほとんど陸上だっていうのが原因かもしれないが。
もしかすると、魔法省の魔法少女たちなら水中の魔物と戦った事あるかもしれないな。分からないけど……。
「常に魔力装甲は削れてたけど、息は出来てたのよね」
「ふむ。じゃあ、魔力装甲は空気も生み出せる?」
「それは分からないわ。でも、息ができてたからそうなのかも?」
「装甲がじりじり削れてたのは恐らく水圧から魔法少女を守っているからだろうね」
「あ、なるほど」
「他にも水に入ったのに濡れなかっただろう?」
「そう言えばそうね……」
「試してないから確実ではないけど、恐らく火の中に入っても大丈夫だ。あらゆる物から守っているからね」
「魔力装甲凄い……」
素直にそう思った。
魔法少女の受ける攻撃を肩代わりしてくれているのは分かっているが、そこまで行くと防護服だな。いや、魔法少女の衣装も魔力で出来ているのだから防護服と言っても可笑しくないか。
防護服と言っても、そんなレベルよりも遥かに上な気はするけど。
魔法少女に害がある物全てに対して、機能しているという事か……でも流石に全てを試せる訳ではないので、ただの仮説に過ぎないらしいけど。
それはそうだ。人体実験のような物だしね。もし失敗したら、その魔法少女は命の危険に晒されてしまうだろうし。
「それでもやっぱり、確証がないから念の為酸素ボンベとか持っておく方が良いかな。もし行くのなら」
「なんか宇宙旅行みたいな感じね……」
「確かに」
言い得て妙である。
世界と惑星、という規模は違うものの地球という世界から火星という世界に行くようなもんである。宇宙的に言えば妖精星とか? 単純な名称だけど、まさにそんな感じだ。
そもそも、世界という言葉も割と曖昧だよね。
「リスクは確かにある。だから、行くのはボクだけでも良い。魔力はこっちで貯めてボクが運べば問題ないし」
ララの話は確かにその通りだろう。
わたしたちが行くのは少しリスクがあるけど、妖精であるララなら問題はない。魔力にしても、言う通りでわざわざわたしたちが行く必要はない。
でもなあ、妖精世界……気になってはいる。好奇心に身を任せて突っ込むのは良くないので、やっぱり念入りに準備をしておく必要があるな。
「とりあえず、最初にララが行くのだからその後考えても良いわよね」
「そうだね。それに今はまだ魔力がないし」
昨日、魔力を魔法の瓶(マギア・フラスコ)にわたしが注いだ感じでは、三割程度増加したのが分かっている。なので、現在は五割くらいになっているので、少なくと今日入れてあと二日で終わる感じかな。
まあ、最後の方でメモリの上昇が変わらないければ、だが。
フルで入れてしまえば一番、手っ取り早いのだがそれだといざという時に戦えない場合があるから、それはやめている。
九割程度なら入れても大丈夫かな? 流石に全部注ぐと変身状態が解ける恐れがあるし、急激な魔力減少によってその場に倒れる可能性も十分あるし。
時間はあるから別に急ぐ必要はないか。
ブラックリリーたちは時間がかかるというのは覚悟の上でやっていたのだし、急いでいるようにも見えない。それに仮にこの場で終わらせても、次の段階があるしね。
まあ、気長にやろう。
それに、ホワイトリリーとブルーサファイアとの事もある。何をするのか分からないが、何故か二人は燃えているように見えた。
ブラックリリーに対して闘争心を燃やすような何かがあったのだろうか? でも、二人は会った事ないはずだし、うーん謎だ。
一応行かなくても大丈夫とも伝えてあるけど、ブラックリリーは行くつもりらしい。リスクが少しある気はするが、彼女が決めた事なら肯定しよう。
で、話は戻るが今日もまた魔法の瓶(マギア・フラスコ)にわたしが魔力を五割程度入れると、同じように三割前後ゲージが上昇する。
「本当に凄いわね……」
「ん」
それを見ていたブラックリリーはそんな言葉を漏らす。
ゲージは八割前後まで上昇し、瓶の中もかなり量が増えてきているのが確認できる。どれくらいこれは魔力を入れられるのだろうか?
わたしの五割の魔力で三割程度となると、わたしの1.5人分くらいは入りそうかな? 1.5だと、九割で一割余るから、うーむ、中途半端である。1.6以上2.0未満って所かな。
そう考えると、この瓶かなりの量が入るな……わたしの異常な魔力量を少なくとも一回は全部入る訳だから。
「とりあえず今日はこれで終わり?」
「ボクは終わりだね。ただブラックリリーが君に言いたい事があるみたいだよ?」
「言いたい事?」
わたしは首を傾げながら、ブラックリリーの方を見る。ん? 心無しか、何処か顔が赤いように見えるが……大丈夫かな?
「えっと、その……」
さっきまでのきりっとした感じ? の性格のブラックリリーは見当たらず、顔を赤くして口をもごもごさせ、身体ももじもじしているブラックリリーがそこには居た。
「あの!」
「ん?」
「わ、私と……」
「私と?」
そこでブラックリリーの口が一度止まる。
こっちをチラチラ見ながら、何かを考えているようだ。いや、大丈夫? さっきまでと全然雰囲気が違うけど……ブラックリリーの言いたい事って何だ?
「私と……と」
「と……?」
私と共に? いや違うか。
「友達になってください!!」
「ふえ?」
予想外の言葉に間抜けな声が口から出てしまう。
ブラックリリーを見ると、涙目になりながらさっきよりも顔を真っ赤にした状態でわたしの方を見てくる。え? 何この破壊力。不覚にもドキッとしてしまった。
って、破壊力って何言ってんだ。
それはともかく、ブラックリリーはわたしと友達になりたいって事?
「ダメ、ですか」
「ん。そう言う訳ではないけど……」
「?」
わたしの言葉に首を傾げるブラックリリー。
「友達も何も、もう友人と思ってたからちょっと」
何度か共闘もしたし、彼女には何度か助けられているし、わたしの中では既に仲間というか友達というか……とりあえず友好的な感じに見ていたのだが……。
まあ、一方的にわたしが思っていただけなのでブラックリリーはどう思っているか分からないけど。
「え? それじゃあ……」
「ん。これからもよろしく、ブラックリリー」
「っ!」
でもそっか。
わたしだけが思っていても向こうが違うのは当たり前。なら、今から始めようじゃないか……友達としての関係を。
わたしは精一杯の笑顔を作り、ブラックリリーにそう言ったらまた顔を赤くする。上手く笑えているかは分からないが……。
「うん、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げるブラックリリー。
今までとは全然違うような雰囲気にちょっと驚くけど、間違いなく彼女はブラックリリーなのは分かる。そう直感が告げてるし。
自分の直感が当てになるかは別として。
「ん。ブラックリリーの言いたかった事はそれ?」
「う、うん……いやええ、そうよ」
「無理しなくて良いよ?」
「ぅ……」
この感じからして、さっきのが素であるのは間違いなさそうだ。ブルーサファイアのように、変身前と変身後で口調を変えていたパターンの魔法少女だったか。
この場にはわたしとラビ、ララしか居ないし素で話しても大丈夫だろう。無理して取り繕う必要はないさ。ララは当然、一緒に居る訳だから知っているだろうし。
「うん。そうだね……もうバレてると思うけどこっちが私の素になるよ」
「ん」
「まあ、だから何だという話になるけど……友達になってくれてありがとう。私そういう存在に憧れてたんだ」
「そうなの?」
「うん。……ねえ、明日は空いてるかな?」
「明日? 空いてるけど……というかまた明日も会うんじゃないの?」
「そうだった……それで、明日大丈夫ならここじゃなくてこっちに来てほしい」
「え?」
そう言って見せてくるのは一枚の地図。
この場所は……この辺じゃないな。わたしとブラックリリーが待ち合わせに使ってる場所は、水戸なのだがこの地図は県南地域……土浦市内のある場所を示してる。
「リュネール・エトワールとしては遠いかもしれないけど……どうかな」
「ん。別に良いけど……どうして?」
「ちょっとね」
「? 分かった。明日はこの場所に行く」
「ありがとう」
「ん」
何故かは分からないけど……まあ、別に大した変化ではない。これでも、県内全域を実際移動したりしてたのでね。その時に言ってくれるだろうし、今は聞かない。
そんな訳で今日のわたしたちの話は終わるのだった。
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