Act.13:日本に来た理由


 原初の魔法少女。

 16年前に起きた魔物の出現の際に、魔物を倒したと言われている地球最初の魔法少女たちである。その人数は七人と、今のLクラスの魔法少女と同じ人数である。

 その事から、Lクラスの魔法少女はその原初の魔法少女たちではないのか? と考えられているが、世界魔法機関は何も言わないので謎のままである。


 世界魔法機関。

 簡単に言ってしまえば、魔法省の世界的組織と言えば良いかな? 魔法省という名前は、日本でのものであり他の国では同じような組織はあるけど、名前は国によって違う。

 それらをまとめて管轄するのが世界魔法機関。と言っても、ただあるだけのような組織である。世界の情報共有とかそういうのを目的として、作られた組織である。


 魔物の対応は、それぞれに任されているからね。


 ラビの話に出てきたアリス・ワンダーというのは、そんな原初の魔法少女のうちの一人で、更に言うと地球初の魔法少女だ。原初の魔法少女の中でも最初に生まれた魔法少女である。

 そして今の魔法少女という呼び名を広めたのはこのアリス・ワンダーっていうのがラビとの話で分かった。魔力や魔石については、それ自体を広めたのは原初の魔法少女だが、その大元はラビが教えたからだ。


 一人目の魔法少女アリス・ワンダーは、不思議の国のアリスのような水色のワンピースに白いエプロンドレスを身に纏い、武器としては片手剣を使用し、懐中時計を使う事によって時間を止められたらしい。

 時間を止めると言っても、無制限っていうのは無理だったようだが……それでも十分強い。攻撃を食らいそうになった時とかに時間を止めて移動して回避したり出来るし、止めて近付くなんて事も可能だろう。 


 データでは、片手剣と時間停止を組み合わせて戦っていたという。剣という武器と時間停止は、割と相性が良さそうだ。


「ラビはアリス・ワンダーに会いたい?」

「そうですね……会いたくないと言えば嘘になりますが……今何処で何をしてるか分かりませんね」

「ん……」


 原初の魔法少女については、現在消息不明となってる。これは世界魔法機関が隠蔽しているのか、それとも本当にわからないのか。もしくは、原初の魔法少女たちに言わないで欲しいと言われてるのか……。

 どっちにしろ、原初の魔法少女については謎である。もしかすると、死んでいるかもしれないし。


「と言っても、確かに会えないのはあれですが、今は司が居ますし」

「う、うん」


 そんなキラキラした笑顔を見せないでくれ。一瞬ドキッとしたわ。


「そう言えば、司のように隕石を降らせる原初の魔法少女が居ましたね」

「え?」

「司ほど曖昧ではありませんが、似たような魔法を使う子が居ました」

「ん。それって、ノア・アストラル?」

「確かそうですね。星の魔法を使う子で、隕石降らしは勿論、司みたいに謎のビームとかも放ってました。かなり強力でしたね」

「ほへぇ……」


 ノア・アストラル。

 原初の魔法少女の一人で、星を操る魔法少女だ。確かにわたしに似ているかもしれない……同じように隕石を降らせたり、爆発を起こしたり、何なら星を召喚して自在に操ったりもしていたそうで。

 要は星に関する魔法を使えていたと言われてる。と言ってもわたしのように回復魔法が使える訳ではなく、完全に攻撃特化の後衛魔法職みたいな感じだ。

 詳しく載っている訳ではないので、データとして載ってるもの以外にも使える魔法はあったと思われる。代表的な魔法を記載しているだけだからね。


「そう言えば……話を変えるけど、妖精世界って酸素とかあるの?」


 今更ながらあの時、聞いてなかった事を思い出す。魔力装甲があるから有害な物質とかからは守ってくれるのは分かったが、それ以前に人間は居られる環境なのか? という点になる。


「そう言えばそれについては、何も言ってませんでしたね。私たちなら問題ないと思いますが、人間は酸素というものがないと駄目でしたね」

「ん。人間と言うか、呼吸する動植物全てに言えるかな」


 人間含む動物や、植物は酸素がかなり重要というか必須レベルである。それは魔法少女になっていても変わらないと思うが……曖昧なのは、そんな事誰も試したりしていないからだ。


 酸素のない所に魔法少女を連れて行った場合どうなるのか? そんな人体実験のような事が出来るはずがないので、謎のままである。考え自体は、幾つかあるけども。

 例えば魔力装甲は、魔法少女を守るための物だ。それなら酸素がない所に行った場合、その魔力が酸素を生み出すかもしれないとかね。魔法少女を守ってくれているなら、それも考えられるという事。


「先に行くのは私たちなので、大丈夫だと思いますよ。ただ確かに酸素とかそういうのがない場合は困りますね……」


 妖精世界は空気の代わりに魔力があった。そういうのもあり、妖精にとっては魔力が酸素のようなものになってるらしい。周囲に魔力がなくても、自身の魔力で大丈夫みたいだ。

 勿論、そんな自分自身の魔力がなくなれば危険になるが。


「ん」


 もし魔力装甲が魔法少女を守るために酸素を生み出したりしてくれるなら良いのだが、あくまでそれは一つの諸説に過ぎない。そのまま行くのはちょっとリスクがある。

 そこの所、ララとブラックリリーは考えているのだろうか。


「こういう時、あの子が居てくれると強いんですけどね」

「あの子?」


 こういう場合に対処できる魔法少女なんて居ただろうか。

 ブラックリリーは空間を操作できるけど、酸素とかそんなのに干渉出来るとは考えにくい。ホワイトリリーは白百合の花弁を自在に操っていたり、ビーム撃ったり出来るが、酸素とは全く関係ない。

 ブルーサファイアに至っても、身を守るために宝石のサファイアをモチーフとしたバリアを張ったり、それらを操って飛ばしたりも出来るし、おなじみのビームのようなものも撃ったり出来るけどやっぱり酸素とかとは全く関係がない。


 と言うか……魔法少女全体に言えるけど何で皆普通にビーム撃てるのか。いやそれ言ったらわたしも、人の事言えないんだけどね。


 ビームが基本攻撃手段という事だろうか。ただ、ビームの色とか威力は人によって異なるみたいだけど。


 でもラビがあの子と言ってるから、魔法省の魔法少女ではないだろう。そうなると考えられるのは……原初の魔法少女か。ラビと直接関わりのある魔法少女たちだしね。


「フィア・エレメンタル。聞いた事ありますよね」

「ん。原初の魔法少女……」

「はい、その通りです。彼女は元素というものを生み出したり操ったり出来ました。恐らく七人の中では最も汎用性の高い魔法少女だったかと思います」


 確かにその子が居れば、酸素を生み出したり出来たかもしれない。しかし、フィア・エレメンタルか……元素というものを操れた魔法少女。ラビの言う通り、一番汎用性や応用性の高い魔法少女だろう。


「と言ってもアリスと同じで、何処で何をしているか分かりませんけどね」

「ん。そう言えば、どうしてラビはアリスの所から離れたの?」


 そう一番の疑問はそれだ。

 話によれば、ラビは16年前は原初の魔法少女のアリス・ワンダーと一緒に過ごしていた。何故、わざわざ離れて日本にやってきたのだろうか。原初の魔法少女は日本には居なかったはずなので、原初の魔法少女は間違いなく海外の子だ。


「そうですね……アリスに言われたというのもありますが、地球という世界を見ておきたいという私的理由もありました。そして行き先で魔法少女を生み出そうという目的もありました」

「ふむ」

「私は知っての通り、魔法も使えますし空も飛べるので移動には困りません。妖精という存在が目立つのも良くないので、姿を消したりとかしてましたね。それで、資質のあった子たちに問いかけて、任意で魔法少女になってもらってました」

「そうなんだ……あれ、ラビが干渉した魔法少女って事は……」

「他の魔法少女より強力な子がほとんどですね。そうしていく内に、私が干渉すると強い魔法少女になるっていうのが分かってきました。理解してからは、ちょっと控えめにしてました」

「なるほど」

 

 ラビの色々と確認っていうのはそういう事だったか。

 実際に魔法少女を生み出した実体験の元で、出した結論。それがラビが干渉すると周りとは異なり、強力な魔法少女が生まれやすいという事が分かった。


「私があなたに干渉したのは、既にその時に言った事が理由です」

「ん。魔力が多いっていうあれ?」

「はい、その通りです。まあ、まさかこうなるとは予測できませんでしたが……」


 そう言ってわたしを見てくるラビ。

 うん。自分も、こうなるとは予測できなかったよ。


「でも司が決めた事ですから」

「ん。迷惑かけた」

「いえ、大丈夫ですよ。それで、日本来た理由は流れですね」

「回っている内にここに来た、と」

「そうなります」


 なるほどねえ。

 疑問が解けてすっきりした。


 ラビについてはもう大分理解できたと思うし、話を戻すが妖精世界の状況がわからないのが今だよね。滅んだっていうのは分かってるし、それを復活させようとしているのがブラックリリーとララっていうのも分かってる。


 先に行くのはラビたちみたいだけど……うーん。

 次会う時に、そこも含めて聞かないとね。後、ホワイトリリーとブルーサファイアと会う日の確認もしないと。


 今度の土曜日の15時頃……集合場所はどうするかっていうのも考えなくてはいけない。まだ、やる事は多いな。


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