Act.08:目的を達成するために
「魔法を使うのに魔力を集めるのは分かった。それで移動した後はどうするの?」
魔力を集めて、移動するための魔法の補助として使うのは分かったが、移動した後はどするのかという話だ。仮に成功して妖精世界に行けたとしても、何もなしじゃいけないよね。
それに、わたしたちが行っても大丈夫なのかっていう所も……。
「ええ。妖精世界に行けたら後は、地道に魔力を送り込むだけよ。時間がかかるのは承知の上でやっているのだしね」
「それって行き来してやる感じなの?」
「その通りよ。行ければ後はこっちの物だからね」
なるほど……と思うが、そこで疑問が思い浮かぶ。
妖精世界に行き来するとしても、それってその度に移動の魔法を使う必要があるのではないだろうか? 発動にかなりの魔力を消費する魔法らしいから、毎回集めるの?
それって妖精世界に魔力を戻す以前に中々厳しくないだろうか。移動するために魔力を毎回集めるしかないという事になる。一回使うと魔力消費が減るとか?
いや、流石にそれは……でも妖精世界の魔法だもんなあ。
「その疑問は、当然ね。安心して良いわ。今回ララが使おうとしている魔法は、一度使えば魔法を解除しない限り残り続けるわ。そうよね、ララ」
「ああ。今回使う魔法はゲートと呼ばれるもので、現在位置と行き先を繋げることが出来るんだ。だから一度繋いでしまえば、解除しない限りは繋がってる」
「なるほど……」
「一々、移動するのに魔法を毎回発動しないといけないなんて効率が悪いだろう? だからこそ、この魔法が生まれたんだ。向こうとこっちを行き来できるように。これなら、一度設置しておけば消すまでは残るからね」
確かに。
世界を複製するにあたって、複製された世界の方は魔法の実験とか、技術の開発とかで使うだけであって研究員? たちの家とかは元の世界の方にある訳だもんね。
有事の時に、一々発動させるのは面倒なのは納得出来る。だけど、設置型であれば、自由に行き来できるから何があっても対応ができるというのが強い。
設置型か……それもあって消費する魔力も多いのかな?
取り敢えず、わたしの魔力の五割を入れればこの
「何かララは色々詳しいけれど、もしかして研究者だったりするの?」
「……」
ラビよりもなんか詳しいような気がする。まあ、ラビの場合は妖精書庫という物があるから、純粋に比較するのはできないか……何というか、魔法について何か何処か詳しいような気がする。
そう思ったのはわたしだけではないみたいで、ブラックリリーがララに問いかけている。しかし、ララの方は沈黙してしまっている。
「それは……うん。まあ、何れはバレるだろうから、もう話してしまって良いかな」
「ララ?」
「ブラックリリーの質問の答えだけど……答えはイエスだ」
「!」
つまり、ララは研究者だったという事か?
でも確かに、何か経験しているかのように話していたから、不思議とその答えには納得できる。それなら、ゲートという魔法を知っていても可笑しくないもんね。
研究者という事は、恐らく魔法実験の際も立ち合っていたはずだろう。まあ、研究者と言ってもどの分野かにもよって細かく分かれているから、そうとは断言できないけど。地球の研究者だって種類があるし。
「ボクはあの実験の時に、その場に居合わせていた。だから移動する魔法の事は知っていたんだ。一々移動するのは大変だし、何より結構な魔力を使う。そんな頻繁にやれないから、設置型の魔法が生まれたんだ」
発動者が解除するまでは、常に目的地と繋がっているという魔法は事前に用意されていたという。
ただし、その魔力量が膨大だというのもあり、その前にもちまちまと世界中から魔力を集めていたとのこと。なるほど、妖精でもきついくらいの魔力量なのか。
まあそもそも、妖精の魔力量の平均とかは分からないんだけど。
「と言っても、ボクはただの研究員。指示された仕事をやっていただけだけどね」
「道理で色々と詳しい訳ね……」
「隠すつもりはなかったんだけど……言うの遅くなってごめん」
「別に良いわよ。私だって無理に聞くつもりなんてなかったし。何か隠していることは何となく分かっていたけど」
やっぱりわたしとラビみたいな関係だなって改めて思う。
うーん、ラビも隠していることが結構あるような気はするんだけど……無理に聞くつもりはない。気にならないと言えば、嘘になるが……話してくれる日は来るだろうか。
「話を戻すけど……とにかく、このゲートという魔法があれば一々発動させる必要がなくなる。ただ、問題は設置場所なんだ」
「ブラックリリーの家じゃないの?」
「それも考えたんだけど、ゲートは目で見える訳で……一般人でも見れちゃうんだよ。だから、ブラックリリーの家に置いたら家族に見つかる可能性が高い。部屋に設置してもそうだ」
「そうねえ……私の部屋も見つからない保証はないわね」
ふむ。
ゲートという魔法は、普通の一般人でも見ることが出来る……確かにそうなると、見つかってしまうのはあまりよろしくないか。誤って一般人が妖精世界に入っちゃう可能性も考えられなくないし。
それに、仮にブラックリリーの家に設置したら、わたしに彼女の家の場所がバレてしまう。それは多分望んでないと思う。それはわたしにも言えることだけど……。
一応、ブラックリリーの事は信用しているんだけど、リアルで会うのが流石に無理かなあ……。
「だから、何処か良い場所とかないだろうか?」
「ん……」
設置型は設置型で、別の問題があるなあ。
ララに良い場所はないかと聞かれるけど、正直思い浮かばない。何処に設置しても人目につく可能性は高い。一般人には目に入らず、大丈夫そうな所……。
うーん、難しいか。
わたしの家を使うか? わたしの家なら誰も居ないし、裏庭にでも置けばまず、見られることはない。何なら家の中においても大丈夫だろう。
真白が多分、2月頃にまた帰ってくると思うけど、その時はまた説明しておけば良いだろうし。
ただ、そうなるブラックリリーにわたしの家の場所を教えてしまう事になるが……。
「ん。わたしの家はどう?」
「え?」
「わたしの家ならわたしとラビしか居ないし、見られることもないと思う」
良い場所が思い浮かばないから仕方なし。
家がバレるのはあれだけど……でも、それしかないような気がする。反転世界に置くとか言う事も考えたけど、反転世界は発動者が居なくなれば消滅してしまうので、無理。
そのへんに設置したら設置したで撤去される恐れもあるし、その撤去しようとした人が妖精世界に行ってしまう可能性もある。人が住めるような環境ではないはずなので、命の危険に晒されるだろうし。
「あ」
「? どうかしたの?」
「ん。今更だけど、妖精世界ってわたしたちが行っても大丈夫な場所?」
凄い今更である。
でもこれは忘れてはいけない……妖精世界は草木も生えない世界となっているし、生き物が生きていけるような環境ではないのは確かだ。そんな場所に、わたしたちが行っても大丈夫なのだろうか?
実際どうなってるかはわからないけど、まず普通ではないのは確かだし。
「大丈夫のはずだよ。魔法少女なら。魔力装甲があるだろう?」
その疑問に答えたのはララだった。
魔力装甲は、魔法少女が受けるはずの攻撃等の自分を害するものから守ってくれるものである。毒だって、自身が飲みでもしない限り、魔力装甲が弾く。
「そうなの?」
「ええ。魔力装甲は別に攻撃だけを防いでいる訳じゃないのよ」
念の為、ラビにも聞いてみる。ララを信用していない訳ではないが、複数の意見が欲しいから。それにぶっちゃけ、ララのほうが研究員だったらしいので、詳しいと思う。
「分かった。ありがとう」
そこまで言うなら信じようと思う。いや、最初から信じていなかった訳ではないが……。
「ん。話を戻す。わたしの家なら大丈夫」
「でも、それだとリュネール・エトワールは自分の家の場所を教えてしまうことになるわよ?」
「ん。大丈夫……信じてる」
「……私が言うことではないけど、信じ過ぎるのは良くないと思うわよ」
「それは分かってる。それとも、ブラックリリーはわたしの家を知ったらそれをバラしたりする?」
「……しないわよ。するつもりもない。というか誰にバラすのよ」
「第三者」
「はあ。……大丈夫よ、私はそんな事をするつもりはない。協力してくれる貴女に害を与えるとか、恩を仇で返すようなものじゃないの」
それなら良かった。
なら、場所はわたしの家で決まりかな。
「場所も決まったみたいだし、後は魔力だね」
「ん」
肝心の魔力集めが終わってないから、場所が決まったとしても今すぐ使える訳じゃない。まあ、毎日わたしが五割くらいずつ入れれば良いかな。
「じゃあ今日はこれで終わりね。また明日もこの時間で良いかしら」
「ん。問題ない。あ、そうだブラックリリー」
「どうかしたの?」
「ん。実は……」
解散という雰囲気になったが、わたしにはまだ聞かないとけない事があったので、それを話すのだった。
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