最終章『妖精世界』

Act.01:魔法省茨城地域支部①


「それじゃあ、私は行くね」

「ん」

「ふふ、司、そんな不安な顔しないで」


 その日、わたしは玄関で真白の見送りをしていた。冬休みももう終わりが目の前にやってきているこの時期。真白もまた例外ではなく、大学が再開するので、余裕を持って東京に戻るようだった。


 真白には本当に色々と助けられた気がする。服もそうだし、わたしがこの選択を選んだことも引かずに、肯定をしてくれた。それはラビにも言えることだけどね。


 だからこそ、真白が居なくなるのにちょっと不安が残る。

 自分で選んだとは言え、真白なしでやっていけるだろうか? 他にも真白にはトイレの仕方だとか、お月さまの事だとか教えてもらったけど……あれ聞く方も恥ずかしすぎる。


 というか、そういうのを普通に平然な顔で説明できる真白も大概だと思う。


 拭き方まできっちり教えられたよ。聞いて思ったのは、女の子って大変なんだなあ、という素直な感想。これからわたしも、そうしていく必要がある訳なので他人事ではないんだけど。


「次はいつ戻ってくる?」

「うーん、春休みかな? ほら、大学の春休みって凄く長いから」


 大学の春休みは非常に長い。2月の初句から3月末までの、約ニヶ月間が休みになる所がほとんどだ。真白の通ってる大学も同じで、2月の初めの頃から休みになるっぽい。


 2月初句から休みってことは、割とすぐ来るな……。


「短い間ではあるけど……司も頑張ってね。何か困った事とか、分からない事とかあったらCONNECTとか電話で連絡してね」

「ん。分かった……真白姉、ありがとう」

「ふふ、気にしないで」


 頼れる妹……いや、頼れる姉か。真白には感謝しきれないな……いつか恩返しできたら良いけど……わたしに出来ることってなんだろうか? 少し考えておこうかな。

 もう気付いていると思うが、呼び方を変えている。恥ずかしいのはあるけど、真白と呼び捨てにするのはこの姿ではちょっとおかしいだろうし、慣れるしか無い。


 まあ、人目の付かない所なら問題ないと思うが、何時、何処で、誰に、見られるかわからないので普段より使用して、慣らしておく必要がある。

 既に願いの木によって俺という存在はわたしという存在に、置き換えられている。だから、それに合わせるのは大事だろう……どうせならこの自分自身も変えてくれたら良かったけど。


 あ、でもそうなるとあれか。


 取り敢えず、慣らす必要あり。

 でだ。ビデオデータとかでわたしと真白の記録を探して見てみたのだが、司は真白の事を真白姉と呼んでいたことが判明した。そんな訳で真白の事はこれからは真白姉と呼ぶようにしている。


 少し違和感があるけど、そのうち慣れるだろうと思ってる。


「髪の手入れとか、肌の洗い方とか気を付けてね」

「わ、分かってる……」

「まあ、最初よりは大分マシになってるから大丈夫だと思うけどね。ラビも、しっかり見張ってね」

「ええ、任せて」

「……」


 逃げ道は何処ですか?

 それはさておき、知っての通り身体の洗い方や髪の手入れの仕方とか、こっちについてもみっちりと真白に叩き込まれた。最初は以前の感覚で洗っていたけど、どうもそれは駄目みたいで。


 しかも、今のわたしは背中の真ん中まで伸びているロングストレートである。洗うのも結構時間がかかる……切ろうかなと思ったけど、そこはラビと真白に反対されてしまった。解せぬ。


「またね、司」

「ん。行ってらっしゃい、真白姉」

「っ! 私死んでも良いかも」

「はいはい」

「司が何か冷たい」

「同じこと繰り返すから」

「えー?」


 わたしが真白姉と呼ぶ度に、こんな反応されてはたまったものではない。そんな訳で、同じ反応をする時は基本スルーするようにした。まあ、時々反応しても良いかもね。


「それじゃね」

「ん」


 そう言って真白は、玄関から外へ出る。

 冷気が家の中に入り込み、その冬の寒さにわたしは身体を少し震わせる。一応、長袖ワンピースにコートを羽織って、更に首には真白に前買ってもらったマフラーを巻いてるんだけども。


 庭から道路に繋がる所まで一緒に歩く。真白が居なくなるのはちょっと寂しいけど、真白だって夢に向かって頑張っているのだからわたしがどうって言える訳でもない。

 天気は一応晴れてはいるけど、それでもやっぱり寒い。まあ、わたしは夏より冬の方が好きなんだけどね……夏か冬の二択ではなく春夏秋冬の四択ね。


「気を付けてね」

「司もね」


 門まで来た所で、今度こそお別れとなる。

 駅に向かって歩きだす、真白に手を振ると真白も振り返してくれる。そのまま振りながら真白が見えなくなるまで、わたしはその場で見送ったのだった。





□□□□□□□□□□





「よし、行こう」


 魔法少女リュネール・エトワールとして変身を終えて、呟く。

 何処へ行くのか? それはもう分かってると思うが、わたしの目的地は水戸市にある魔法省茨城地域支部の建物だ。茜と、約束してしまったしそれを反故にする訳には行かない。


 これでもわたしは約束は守る方なのだ。


 リアルの姿も変わってるとは言え、その姿で行くのはやっぱり抵抗があるので取り敢えず、リュネール・エトワールになって行く事に決めた。支部長直々にお礼を言うらしいんだけど……。


 相手は茜とは言え、少し緊張してきたかも。


 大丈夫。わたしはリュネール・エトワール……自信を持てば良いんだ。今までだってリュネール・エトワールとしてなら、色んな人と交流していたはずだ。

 と言っても魔法少女関係がほとんどだけど。


 とにかく、魔法少女とは話すようになったし大丈夫のはず……。


「よし」


 もう一度自分の体に気合いを入れる。


「行くのね」

「ん」


 ラビはいつものように肩の上に乗る。

 今から向かうのは魔法省の茨城支部だ。実際、あそこに行くのはこれが初めてになる。まあ、普通に考えて一般人は行かない場所だろうしね……。


 何度か通りかかったことはあるけど、そこそこ大きめだったかな? 中までは流石に見えないけどね。


 茜の話によると、受付で自分の名前を出せば良いんだったかな? もし、入れなかったらどうすれば良いんだろうか……流石にないとは思いたいけど。


 取り敢えず、準備も出来たことだし魔法省に行くとするか。


 「ハイド」


 もう既にお決まりの姿を消す魔法で、自分の姿を見えないようにする。これは絶対に怠ってはいけない。この家に魔法少女が居るとか思われたくないし、そうなると面倒になりかねない。

 特に野良であるわたしにとってはね。


 魔法省茨城地域支部の場所というのが、水戸駅から徒歩で10分くらい行ったところにある。あの辺に住んでる人ならすぐに行けるだろうけど、わたしの場合は県央ではなく県北に位置する日立市だからなあ。

 それはあくまで、普通に移動する場合だけどね。今回は魔法少女に変身した状態なので、この距離でもすぐに向かえる。改めて思うけど、魔法少女状態の時の身体能力は馬鹿げてるよね。


「しょっと」


 そんな事を考えながら、ハイドの状態で窓から外へと飛び出す。後は屋根とかを伝って進んでいくに限る。家からそこそこ離れた場所まで移動した所でハイドを切る。

 前にも言った通りハイドは発動中、常に魔力が消費するので、ずっとは使えない。なので、家からそれなりに離れた所で解除するのが基本である。


 自分の魔力量だとどのくらい発動させてられるか気になるけど、タイミング悪く魔物とか出たらどうしようもないのでやめてる。ただラビの推測では丸々一日展開していても有り余るくらいだそうだ。


 ……うん、やっぱり異常だわ。


「あれね」

「ん」


 そうこうしている内に、魔法省の建物が見えてくる。

 それなりに広い駐車場に、そこそこ大きな建物。そして屋上には何か凄そうなアンテナのようなものが幾つも設置されている。実際中に入らないと分からないが、外見からして三階建てくらいだろうか?


 ビルとか建物が結構密集しているような場所に広い面積を持つ建物があるっていうのもシュールだな。まあ、一応国の機関なのでこれくらいは普通か。むしろ、これでも小さい方なのかも知れない。


 少しだけ緊張してきた。


「よし……」


 今更緊張してどうする。自分に気合を入れ直し、入り口へと足を進めるのだった。


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