Act.40:エピローグ②


 元旦の夜。

 昼間は物凄く恥ずかしい出来事があったものの、今はもう落ち着いている。そんなわたしは、いつものように夜の見回りという事であっちこっちを回っていた。


「何も元旦の日まで見回りなんてしなくても良いんじゃないの?」

「そうれはそうだけど……癖になってる」


 もう定位置となっているわたしの肩の上にラビが乗りながらそんな事を言ってくる。ご尤もであるが、魔物はいつ出現するかわからないし見回りしても問題はないはず。

 まあ、今までの出現時間を見ると夜はかなり少ないんだけどね。ただ今日は全く茨城地域内で魔物は観測されていない。一日中未観測っていうのはここ最近では初めてかも知れない。


 平和なのは良いんだけども。


 この反動で明日以降、魔物がまた頻繁に出現する可能性も考えられるが対策なんて無いし、出現したらそれを魔法少女が倒す……現状これくらいしか無い。

 だって魔物は突然出現する訳だし……こっちの都合なんて関係なく。しかも別世界から来てる訳じゃない? どう予防しろって話だ。地球が世界移動の技術を完成させでもしないと、無理だよ。


 大体、ほとんどの人が別の世界なんて言う存在を信じてない。

 そりゃそうだ。自分たちは自分たちのこの世界しか知らない。他に世界があるなんて言われても、ピンとも来ない。平行世界とかそういう諸説は多くあるとは言え、実際行ってみなきゃ、証明できない訳だしね。


「今日は一体も観測されてないんだっけ?」

「ん。茨城地域では今日は観測されてない」


 他の地域ではまあ、いつも通り観測されているみたいだけど、数は少ないみたい。


「魔物が居ないのは良い事だけどね」

「ん」


 それでもわたしは、癖になってしまってるし、習慣にもなっているから見回りしないと変な感じになる。職業病? ……野良の魔法少女って職業なのかな?


 そんなどうでも良い事を考えていると、少し先のビルの上に見覚えのある少女が見えた。向こうもこっちに気づいたみたいで、わたしの方を見てきている。


「また会ったわね。リュネール・エトワール」


 見覚えのある少女……そう、わたしと同じで野良の魔法少女をしているブラックリリーだ。彼女は空間操作という、結構とんでも魔法を扱うけど、魔力量が少ないらしくそんなホイホイとは使えないらしい。


「ブラックリリー?」

「見ての通りよ」


 反転世界から戻った時は、居なかったから残念だったし、心配だったけど調子は良さそうかな? 何ともなさそうなブラックリリーを見てちょっと安心する。


 と言うか、ブラックリリーはここで何をしてたんだろうか? 偶然かは分からないけど、このビルはわたしが見回りの際に、全体の様子を見るために良く使う場所だ。

 流石に全部見える訳ではないけど、魔物は良く見える。基本的に魔物の躰は大きいからね。小さい魔物も居るのかは分からないが、少なくともわたしは見たこと無い。


 ラビに聞けば分かるかも知れないが。


「こんな所でどうしたの? 結構時間遅いけど」


 実際見たことがないから何とも言えないが、ブラックリリーはホワイトリリーより少し上くらいだと思ってる。15歳~18歳くらいかな?

 18歳ならともかく、15~17歳だと普通に考えればこんな時間には出歩かないよね? 個人的な意見だけど。そんな事言ったら今のわたしは16歳で、その範囲に入ってるが……ほら、わたしの場合は特殊だしそもそも仕事もしてないし、仕方ない。


「私の事は気にしないで良いわよ。今日ここに居たのは貴女に謝りたいから」

「?」


 そんな事言われると気になる。

 まあ、聞くつもりはないけど……でももし悩んでいるなら、相談して欲しいなとは思ってる。今は16歳ではあるがこれでも中身は28年間生きているのだから。


 生年月日とか変わっていたので今、そんな事言っても身分詐欺とか言われるだろうが。


 それは置いとくとして、わたしに謝りたいことって何だろうか? わたし、ブラックリリーに何かされたっけ? むしろ、助けられてばかりだったような気がする。


「反転世界の事よ。帰ってきた所は、実は少し離れた場所で見ていたのよ。行きはあんな事言ったのに帰りは居なくてごめんなさい」


 なるほど。

 確かにブラックリリーは行きの時は、声をかけてくれたけど帰りは居なかった事を謝っているのか。でもそれは別に、謝るほどのことじゃないよね?

 彼女だって野良の魔法少女だ。やるべき事があるはずだろうし……仕方がないと思ってたけど。


「気にしないで」

「!?」

「ブラックリリーも野良の魔法少女だから、やるべき事があっただけ。謝る必要ない」


 ブラックリリーの頭を帽子の上から優しく撫でる。

 確かに少し残念だとは思ったけど、仕方がないと思っていた。それに、わたしとブラックリリーは一時的な共闘関係だっただけで、そこまでする義理もないはずだ。


 だから、彼女が気にする必要はない。

 むしろ、付き合わせてしまったわたしの方が謝るべきだろう。


「それに謝るのはわたしの方。付き合わせてしまってごめんなさい」


 反転世界の戦闘にはブラックリリーは参加してないけど、わたしの油断で魔物の攻撃を受けてしまいそうになった時にテレポートで助けてくれた上に、魔物の討伐にすら協力してくれた。更に言えば、そのまま魔法省の方へ一緒に向かったし、何かわたしの方が迷惑かけてる。

 ブラックリリーからすると、魔法省なんて行きたくなかっただろう。でも一緒について来てくれた訳で。実際、魔法省の一部の人からは怪訝そうな視線を向けられていたし。


 まあ、あの襲撃事件の時の男の証言に似た見た目をしているのだから、仕方がないんだろうけど……いやまあ、実際彼女が犯人なのは事実だけど。ただ、魔物を呼び出したという事についてはブラックリリーは否定している。

 そうなると、何故そんな事を男が言ったのかって所だが……見間違えた? でも実際、魔物は二体出現していたし……。


 出来る事なら、魔物を召喚してないっていうのを証明してあげたいが……現状無理か。数ヶ月前の事だから、もしかするとわたしの魔力ならギリギリ「パッセ」で過去を見れるかも知れないけど、あの魔法をわたしが使える保証はないし。


「べ、別に良いわよ。それこそ謝る必要ないわ。付き合ったのは私が決めたことなんだから」


 何処か恥ずかしそうに言い放つブラックリリー。

 まあ、それもそうか……わたしだって、本人が嫌だったら付き合わせるつもりはなかったし、一緒に来てくれたのは彼女の意思ということなのだろう。


「それよりいつまで撫でてるのよ……別に嫌じゃないけど」

「あ、ごめん」


 どうも最近、こうやって撫でてしまう癖が出てしまってるらしい。結構やばいやつなのではないだろうか……ま、魔法少女の時だから問題ない……か?


 いや、あるだろ。


 まあ、真白には今日撫で返されたが……。


 閑話休題。


 ブラックリリーを撫でている手を離すと、彼女は何処か物足りなさそうな表情を見せる。もっと撫でてほしかったのだろうか? うーん……。


「もしかして本当はもっと撫でて欲しい?」


 なんてね。この発言……変態だろうか。


「そ、それは……」


 え?

 真面目にもっと撫でてほしかったの? ブラックリリーの反応はまさに、それだったので正直驚く。普通年頃の女の子ってこういうの、嫌がるんじゃないかって思ってたけど。


「……」

「うぅ……」


 ブラックリリーをじっと見る。

 わたしと同じような黒いとんがり帽子を被っていて、黒いマントの下には黒っぽいドレスのようなものを着てる。黒髪黒目……一般的に日本人に多く見られる色だけど、変身した姿だよね? 


 それ言ったら今のわたしだって、そこまで変化がないっていう。

 何故か元の姿は銀髪碧眼になってるけど……魔法少女リュネール・エトワールの時は銀髪金眼になる。しかも、目の中に星みたいなのが見える。後は変身後は髪に青いグラデーションが掛かってるけど。


 因みにブラックリリーも良く見ないと分からないくらいだが、白いグラデーションが黒髪にかかってる。魔法少女って髪にグラデーションとかかるのがお約束なのだろうか?

 ブラックリリーのリアルの姿が気になるっちゃ気になるけど、彼女はそんなのは望んでないだろうし、心の中に留めておこう。それに、リアルの姿がバレるのは宜しくない。


「ふふ」

「あっ……」


 そんなのは今はどうでも良いか。

 撫でて欲しいとは、ブラックリリーも子供っぽいな。話し方とかからして大人っぽさを感じさせていたけど……やっぱり女の子なんだなと。


 何言ってんだおっさんとか言われてそう。


 それは置いといて、わたしは期待に答えるべく、もう一度ブラックリリーの頭に手を載せてゆっくりと撫で始める。すると、気持ちよさそうに目を細めるのが見える。


「お二人さん、仲が宜しいのは良い事だけど、ブラックリリー、本題忘れてない?」

「! ララ」


 ララの声が聞こえ、ブラックリリーは一瞬にして顔を赤くする。


「あなたも大概よねえ」

「あ、ラビ」


 それに続いて今度は帽子の中から顔を出したラビが言ってくる。大概って何が? わたしは疑問を浮かべる。とりあえず撫でるのを辞め、わたしとラビはブラックリリーとララに向き合う。


「それで本題っていうのは?」


 てっきり、今のが本題かと思ったけどどうやら違うみたいだ。


「……。私の目的についてかしらね」

「え?」


 覚悟を決めたように言うブラックリリー。

 彼女の目的……いや、何かしら目的があるのは分かってたし、こっちとしても無理矢理聞くつもりもなかった。気になっていたのは事実だけど。


 その目的? 今から話すって事だろうか?


「ボクたち二人が魔力を集めていたのは知ってると思う」

「ん」


 魔力を奪う短剣すら出してきた訳だし、目的が魔力だったのは分かってたが……それを何に使うかまではわからない。ろくな事ではないと、予想はしてたけど。


「私たちの目的を達成するには膨大な魔力が必要だったから。それこそ、世界中から一回魔力をとってもまだ足りないくらいね」

「……そんな魔力を集めてる理由は?」


 世界中から魔力をとっても足りないってどんな目的だ……まさか世界を滅ぼすつもりとかか? その場合はわたしも全力で止めるけど……。


「別に世界をどうするって訳じゃないわよ。私たちの目的は……」


 ブラックリリーは静かに口を動かしたのだった。







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