Act.15:妖精書庫②


妖精アルシーヴ書庫フェリーク……」

「ええ。さっき私が言った場所よ」


 俺は再び周りを見る。

 書庫とは思えない、自然豊かな空間だ。何というか、静かで……気持ちも落ち着くようなそんな空間。居心地も良く、ずっとここに居たいとも思う程だ。


「ここにはね、妖精世界のありとあらゆる歴史とかが残されているわ。最も……この空間に来れるのは、今は恐らく私だけでしょうね」

「お兄! 何話してるの! ねね、こっち来てよ!」

「ふふ。ちょっと息抜きしても良いわね。しながら説明するわ」

「ん。分かった」


 真白が物凄く楽しそうにしていたので、ラビも笑い俺も笑う。


「これ、本物?」

「触った感じだと本物そのものだったよ。冷たい」

「本当だ……」

「この空間にある全てのものは本物よ。ただ、全てに魔力が混ざっているけれどね」


 目の前にあった小川に手を入れてみると、かなり冷たかった。しかも、実際に濡れる事から本物だっていうのはもう分かるよな。


 更に近くにあった、キラキラ光っている木も触ってみるが……うん、特に何のあれもない普通な木だった。しかし、光っているのはどういう原理なんだ?


「言ったでしょ。全てのものが魔力を宿してるって」

「ん。この空間自体も魔力が強く感じられる……」


 伊達に魔法少女として、魔法を使ってない。魔力くらいは感じることは出来るぞ。真白はどうか分からないが……。


「うん、確かにここの感じ結構心が落ち着くねー!」


 どうやら、真白も俺と同じような事を感じているようだ。そこはやはり兄妹だからなのだろうか? まあ、それはさておき……。


「ここにあるもの全部、本であってる?」

「ええ。全て本よ。ありとあらゆる事が記述された本たち……他にも魔法とか、過去の天気だとか幅広い情報が詰まっているわ」


 すげーな、真面目に。

 天高くまでそびえ立つこの本棚もそうだが、それぞれに入っている物が全て妖精世界の事が書かれた本っていうのもな。全部が本物で偽物など無い。

 階段もあって、上にも行けるようになってる。まあ、行けなきゃ上にある本が見れないし当たり前だろうけど。


 一番気になるのは、その上に登ったとしてもそのラウンジ? っていうのか分からないが、そこにも木が生えているっていうのが何とも、現実離れしてるなと思いつつ。


 湧き水のように流れている物は、一番高くて天井のガラスから。え、それどこから水出てんの? これも全部魔力とか魔法の影響なのかね。


「それで、ここに連れてきた理由なんだけど、さっき全く無い訳じゃないって言ったじゃない? あれについてなのよ」

「それってつまり、お兄について何か少し分かったってこと?」

「一応ね。ただ関係があるかはわからないわ」

「それってどういう」


 ラビにしては今まで以上に自信が無さげだな、と思いつつ見る。この書庫の本に俺に起きたこの現象について何か見つかったって事か?

 でもそれは、関係があるかはわからない……でもまあ、何か手掛かりのようなものが見つかったならそれを知っておきたい。例え関係がなかったとしても。


「まず、この木を見て欲しいわ」

「木?」

「このキラキラしてる?」


 少しラビと歩くと、目の前にあるのはさっきも見たきらきらと光りを放つ神秘的な木だ。木の周りには丸い光? がいっぱいふわふわと浮いている。


「ええ」

「この木が何かあるの?」


 木は分かったが、この木が俺に起きた変化とどういう関わりがあるのだろうか? うーん……良く見てみるが、当然何もわからない。


「これは妖精世界に生えている、願いの木スエ・アルブル

願いの木スエ・アルブル……?」

「そうよ。妖精世界の特に魔力の多い場所にしか生えない。しかも、生えたとしても一本のみ。その近くに同じ木が生えることはないわ」


 願いの木スエ・アルブル……もう一度良く見てみる。無数の光の玉がふわりと、木の周りに浮かびあっち行ったりこっち行ったり、まるで意思を持っているかのように動いている。


「最も、ここにあるのはレプリカのようなものだけれどね」

「この木がお兄の変化に?」

「関係があるとは言い切れないけれどね」

「この木は一体何なの?」


 ただの木ではない、というのは確かだ。日本というか地球にこんな木はないだろうし……少なくとも俺は見たことないのだが……。


「それで、この願いの木……名前でわかると思うけど、この木の下で願い事をすると叶うと言われているわ」

「願い事が叶う……」

「ええ。実際叶った妖精も居るくらいね」


 願いの木……また何処かファンタジックな物が出てきたもんだ。でも待てよ……見たことないってさっき言ったのだが、よくよく見ると何かデジャヴと言うか、見た事あるような……?


「あれ?」

「真白?」


 願いの木をじっと見ていた真白が、突然そんな声を出す。俺とラビはそんな真白へと視線を向ける。


「どうしたのかしら?」

「うん。何かこの木、何処かで見たことあるような気がして……」

「え?」

「真白も? わたしも、何かあるような気がした」


 この木の形……いやまあ、形なんて木によって違うけども。そうではなく、昔見たこと有るような気がしてるんだ。いつだったかは流石に思い出せないが……。


 どうやら、真白も同じ感じっぽいんだ。俺と真白が見たことがある木……俺と真白が一緒に居た時だろうか?


 しかし、真白と一緒に居た時とか、今を除くと結構前だよな。

 あ、でも言うほどそんな昔で無いか。一番近くて一年前だ。真白は毎年、春休みとか、年末とか夏季休暇とかの休みの日とかに帰ってきてたしな。因みに今年は何か色々忙しかったみたいで春も夏も帰ってきてない。

 

 となると、俺と真白が一緒に居た時期というのは一番近くだと去年の年末だな。その時に見たことがある? いや待て。さっきも言った通り毎年帰ってきているから去年ではなく一昨年だったりの場合もある。


 まあ……俺と真白が別々の場所で見たっていう可能性もあるけどな。


 とにかく、見たこと無いはずなんだけど何でか、見たことあるような気もしている。自分でも何言ってるかわからないけど。


「でもこれは妖精世界の、しかも限られた条件下でしか生えない木よ? あなたたち二人が見たことあるって……」

「うん、そうなんだけどね。……何処だったかな」


 そっと木に触れてみる。

 刹那――俺の頭に一瞬だけフラッシュバックが起きる。その光景は今からかなり前、俺がまだ学生の頃の光景。目の前には真白が立っていて涙を流していた。


 いや、それだけではない。

 その近くに生えている一本の木……これは俺が真白に告白された、あの高台だ。一瞬だけだけど、それで俺ははっと思い出す。


「真白」

「お兄?」

「高台の一本木」

「!!」


 俺はそう言うと、真白もはっとする。


「どうしたのよ、二人揃って」

「ラビ。もしかすると、わたしたちの世界にも生えてるかも知れない」

「え? それってどういう」


 見たことがある。

 今思い出した。あの時、真白に告白されたあの高台に生えている一本木。確かにあの木は他と違って不思議な感じがしていたのを覚えてる。


 そしてあの木の言い伝え……結ばれる。幸せが続く……それは、告白したものたちの願いなのではないか? 誰だって好きな人と付き合えたら幸せになりたいだろう。

 俺は残念ながら恋愛をしたことがないが、少なくとも俺ももし付き合うならば幸せな方が良いに決まっている。


 その人々の願い……それが願いの木が叶えていたのかも知れない。だが、あの木と俺の変化と何が……? 俺がこの姿になりたいと願った?


 そんなはずはない……というか、あの時以来あの高台に行ったことが無い。今もあるかすら分かってない……でも、あそこのあったあの木が願いの木だとすると……。


「真白がわたしに告白をしたあの高台」

「うん。あの木に似ている気がする」

「まさか……妖精世界じゃないのに。分かったわ、とにかく行ってみましょ」

「ん」


 あの木が原因で俺がこうなったという事は、誰かがあそこで願った? でも誰が? 真白? 俺自身? 分からない。だが、もし本当に願いを叶える力があるなら……。

 まだその願いの木が原因かはわからないが、確かにそんな力があるなら……それの影響でなったということも考えられなくもない。


 いや、そもそもラビは何でこの木の事を? それは、後で聞くとしよう。本当に関係があるか分かってないってラビは言ってたしな。


 まずは……高台の一本木に行ってみるとするか。








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