Act.03:変化③


「結構買った買った~」

「うんそうだね……」


 どっと疲れが回ってくる。

 服のコーナーに行った時が俺としては一番の災難だった……真白に片っ端から服を試着させられ、着せ替え人形にされたのである。

 もう後半からは無心で居たと思う。でだ、俺のだけではなく真白も自分の物をいくつか購入していた。代金は俺が出すよって言ったのだが、それは真白により却下された。


 そして今の姿。

 長袖の白いワンピースに星の絵が小さく描かれている物の上から、厚手の灰色のコート、首元には真白とおそろいのマフラーが巻かれている。


「ふふ。こう見ると双子だね~」

「ん」


 まあ否定はしない。

 同じ銀髪で、髪も長いからな。目の色は違うが、それ以外は真面目に真白にそっくりである。ただし身長は負けているのが解せぬ……男の時なら勝ってるのに。


 グゥ~


「っ!?」

「ふふ、真白、お腹減った?」


 真白にちょっと弄られていたら、真白の方からそんなお腹の音が聞こえた。ついつい笑ってしまったが、そこは許して欲しい。さっきまでは弄られっ放しだったのだから。


「(こくこく)」


 顔を赤くして頷く真白。お腹が減るのは生理現象なのだから、何も可笑しくない。それに俺も少しお腹減ってきてるしな。


「何処行く?」

「運転するのは私だけどね。うーん今14時かー結構時間かかっちゃったね」

「ん。真白が着せ替え人形にしたのがいけない」

「うっ、それを言われるとちょっと痛いな。でもその姿可愛いよ」

「……そう」

「あれ、それだけ?」


 ……可愛いと言われれば元の俺なら否定するだろうが、何故か今回ばかりは思わず否定が出来なかった。と言うより、ちょっとこう何か高ぶる感じになったのは気のせいだろうか。


「嬉しく……ない」

「顔赤くしちゃって、司姉は可愛いね」

「……」


 まただ。この感情は一体……。


「それで、何処に行くの?」


 取り敢えず半ば無理矢理ではあるが、話題を変える。この時間帯だと何処も空いていそうではあるが……同じ所に行くのは流石に真白も飽きるよなあ。


「久し振りにハンバーガーが食べたい」

「ハンバーガー……わたしもしばらく食べてない」

「司姉も? よし、今日のお昼はこれで決まり!」

「ん」


 ハンバーガーか……最後に食べたのはいつだろうか。最近は全く食べてないなって思う。色んな種類が期間限定で登場したり、常設もリニューアルされたり……CMでも良く見るな。

 うん。久し振りにハンバーガーが食べたいって思ったし、真白もそうみたいなので俺たちのお昼はそれで決まり、再び車に乗って移動するのだった。




□□□□□□□□□□




「うへえ……司姉、また辛いの食べてるね」

「ん。味覚は変わってないみたい」


 幸い、と言うべきなのか味覚自体に変化は起きてなかった。今まで通り辛いもの普通に食べれるからな。ただ甘い物も食べたくなるって思う事はしばしば。


 今回俺が頼んだのは期間限定の、旨辛バーガーである。中にある辛味のあるソースが絶妙で、チーズもちょっと赤くなってるな。

 で、スパイシーナゲット……要するに辛いナゲットに辛いソースも選んで、見事に辛いもの祭りである。


「幸せ~」

「ぷ! 司姉、その表情可愛すぎるよ!」

「え?」

「ええそうね、私もちょっとドキッとしたわ」

「ええ?」


 好きな物を食べる時はこんな感じじゃないか普通。好きな物を食べてる時と、やっぱり寝ている時が一番幸せを感じていると思う。


 因みにだが、俺たちは国道沿いにある某有名なチェーン店で、持ち帰りを頼んで車の中で食べている。真白は無難にダブルチーズバーガーを頼んだようだ。飲み物はファンタグレープだったかな? 俺はコーラである。

 ラビはそもそも食べれるのかって話だが、食べないでも良いけど食べる事も出来るらしい。そう言えば、今までラビが何か食べてた所は見てないな。


 食べれるって事なので、ハンバーガーをラビの分も買ってきていた。因みに支払ったのは俺ではなく真白だ。今度こそ払うよって言ったらまた却下された。解せぬ。


 ……改めて自分を見る。

 さっき買った服を着ていて、下はスカートである。まさか着る羽目になるとは思わなかったが……リュネール・エトワールの時だってワンピーススタイルだったのに、何故こっちだとこうも落ち着かないんだろうな。


「どうしたの司姉、急にぼうっと黙り込んじゃって」

「ん。何でこうなったかを考えてた。でも何も分からない」

「司姉、ううん、お兄……大丈夫、私が居るんだから」

「ん。ありがとう」


 不安そうには見えないだろうが、これでもかなり不安になっているのは確かだ。だってそうだろ? 元の姿がこうなってるんだぜ? 理解が未だに追いつけていない。

 真白は優しくそう言ってくれる。ちょっとだけ、不安が減ったかもしれないがそれでもやっぱり……。それに真白は一時的に今帰ってきているだけで、冬休みが終わったら戻るだろう。


 そうなると、俺とラビしか居なくなる。いや、ラビが居るだけでも安心できるけどな。


『◣◥◣◥◣◥WARNING!!◣◥◣◥◣◥』

「っ!?」


 そんな時だった。

 変身デバイスからけたたましい警報が鳴ったのは。


「これは……魔物?」

「ええ……捉えたわ。推定脅威度はAA」

「AA……」


 AAの魔物と言えば、12月の初めに出現したっきりだったよな? それがまた出現したという事か。


「近くに魔法少女は?」

「今の所は居ないわ……行くの?」

「ん」

「お兄……大丈夫?」

「大丈夫……ありがとう真白。行ってくる」

「うん……気を付けてね」

「ん」


 デバイスを手に取り、俺は変身のキーワードを紡ぐ。


「――ラ・リュヌ・エ・レトワル!」

『SYSTEM CALL "CHANGE" KEYWORD,OK――LA LUNE ET L'ETOILE――』


 視界が白く染められ、浮遊感に襲われる。魔力が集まってくる感覚と同時に、俺は一瞬にして魔法少女リュネール・エトワールへと変身する。


『SYSTEM CALL "CHANGE" SUCCESS!!――GO!』


 変身完了の音が流れ、ラビの案内のもと、魔物の出現した場所へと向かうのだった。






「あれは……また蝶?」

「のようね。形状とかそういうのも大体同じ感じがするわ」


 駆け付けた先では既に避難活動が行われている。まだ一般人のいる場所からは離れているのだが、あいつは空を飛んできている。すぐにでもこっちに着いてしまうだろう。

 そしてその蝶の魔物は12月初めに出現した、あの魔物とほぼ同一個体である事がラビによって分かる。周りに魔法少女の気配はない。ならば……行くしか無いだろう。


「スターシュート!」


 おなじみの攻撃魔法を魔物に向けて放つ。ホーミング機能がついているので、魔物が回避しても追尾する。案の定、追尾によって蝶の魔物は避けきれず、爆発する。


「あぶない!」

「!?」


 そのラビの叫びで嫌な予感がしたので素早く回避する。

 さっきまで俺の居た場所に何か毒々しいビームのようなものが通過する。危なかった……俺は魔物の方を見る。


「あまり効いてない?」

「ええそうね……あの魔物、AAというだけあって装甲も硬そうよ」


 無傷……と言う訳ではないが打撃を与えたようには見えなかった。空も飛べて攻撃も結構エグくて、更に硬いって流石はAAだな。

 でも、茨城地域の魔法少女だけで対応は出来てたんだよな。まあ、向こうは一人ではなく何人も居るわけだけどな。


「スターライトキャノン」


 それならもっと強い攻撃魔法を使うのみ……ただこの魔法は追尾しないのでちゃんと狙わないといけない。今までの魔物は陸上だったし、空中の魔物は実際これが初めての戦いになるのか?


「ん。効いてる」


 それでも飛んでいく速度が早いので、そう簡単には避けきれないはず。見事に着弾して、爆発を起こし、魔物に打撃を与えたように見える。


「#!#$#$」


 相変わらず分からない叫びだ……。


「でも……ダメージは与えられたけど決定打にはならない」

「まあ、あの魔物はAAだからね……それなりには強いはずよ」

「ん」


 ステッキを魔物に向ける。


「――サンフレアキャノン」 


 数千万度を超える極太の熱線が放たれる。以前、使ったあの太陽を元にした攻撃魔法だ。宙を駆け抜け、避けようとしている蝶の魔物を容赦なく貫いた。

 一瞬にして火が回り始め、魔物が燃える……いや燃える所ではない。熱によって溶け、灰すら残らずに茨城地域上空より姿を消したのだった。


「うん。やっぱりこれ強い」

「はあ……規格外なのは変わりないわねえ」


 他に魔物とかが居ないかどうかを確認した後、俺はその場を後にするのだった。途中、魔法少女の反応をラビが感知したが既に俺はもう居ない。


 真白の元へ帰るのだった。





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