Act.07:真白襲来!③


「ふふ、その姿だとお兄、私の妹みたいだね。髪色は違うけど、そこは一緒だけどね」


 ハーフモードになり、真白と向き合う形で布団の中へ入っている。凄く不本意ではあるが、真白自体は全然気にしてない様子だった。少しは気にしようぜ……。


 でだ。俺のこのハーフモードは髪色は黒だが容姿自体はリュネール・エトワールである為、確かに兄ではなく妹だろう。そもそも、性別違うしな。


「この姿で寝たこと無い、から、変身が解除されるかも?」

「ふふ、それもそれで良いよ。今だけこうやって居られれば」

「……抱きつかないで」

「えー良いじゃん!」


 真白のスキンシップが何か激しい気がする。

 いやまあ、俺の事好きだった訳で、しかも家族だから納得できない訳ではないけど、やっぱり何というか……うん、やっぱりちょっと照れくさい。


「お兄ってその姿だと、その口調で徹底してるよね。かなり慣れてるみたいで驚いちゃった」

「ん。長いことやってないから」


 長いと言っても、まだ数ヶ月なんだけどな。慣れっていうのは恐ろしいもので、気が付くと最初感じてた違和感なんて無くなるんだよな。


 バレないようにしてる訳だから割と本気でやってたらこうなった。何ていうのかな、変身するとこう意識が切り替わる感じ。あくまで外面的な感じだけども。


「そっちも、かなり絵とか上達してて驚いた」

「ふふ、ありがとう。結構本気でやってるんだよこれでも。講師にも何度か褒められてるよ! アドバイスもしてくれるし、良いところ」

「ん。それは良かった」


 何処か嬉しそうに話す真白は可愛かった。まるで子供の時に時間が戻ったようなそんな感じだ。


「お兄は、再就職とかはしないの?」

「今の所は考えてない」


 働かなくても十分暮らせるしな。無駄遣いをしても、それなりには持つと思う。無駄遣いするつもりもないけどな。真白は真白で大学行きつつ、今でもツブヤイッターでイラストの仕事やってるみたいだ。結構稼いでるみたい。


「そっか……」

「ん」


 そこで真白の声が聞こえなくなり、顔を少し上げてみるとそこには目を瞑っている顔が見えた。


「真白?」

「……すぅ」


 寝ちゃったみたいだ。

 今なら抜け出せる! と思うだろ? それは出来ないのだ。何故なら、真白が俺の事を抱き枕のようにがっちりホールドされてるからだ。


 慎ましやかな胸があたって俺は心臓がバクバクだよ。


「ふふ、随分仲が良いわね」

「ラビ」


 そんな状態の中、寝たのを見計らってかラビがそう言ってきた。ラビのことはまだ真白にはバレてないけど、そのうち簡単にバレそうだな。


「まあ……昔、俺の事好きだった訳だからな」

「なるほどね。でも見た感じ、今でもあなたの事好きそうよ」

「ん。分かってる」


 頼まれて振ったとは言え、真白は確かに涙を流してすっきりした顔を見せていたが、それでもやっぱり視線がこちらに良く来るのは分かっていた。

 俺だって真白を妹として好きだ。ただそこには恋愛的な感情はない。


「どうしたら良い?」

「さあ……そこはあなたが考える事よ。無関係な私が口だすのは変よ」

「だよね」

「ホワイトリリーやブルーサファイアの事も、ね」


 考えるべき事、か。

 俺は頭の中で、どうしたら良いかを考え続けたが、自然と眠気が襲って来た所で、俺の意識は夢の中へと落ちていったのだった。





□□□□□□□□□□





「お兄……私はお兄が好き。だから付き合って下さい!」


 それはもう結構昔の話になる。

 告白スポットとして有名な、高台にある一本木。その下で結ばれた者は、幸せな時間がずっと続くであろうと言われている場所で、俺は当時の真白に告白されていた。


 空は快晴、雲ひとつ無く、心地よい風が俺たちの間を通り抜け、桜の花びらが散りゆく。


 嗚呼、これは夢だ。昔の夢。

 真白に予め、告白するからと言われ、断って欲しいと言う頼みを受けたあの日の事だ。真白は可愛らしく、顔を赤くして目を瞑っていた。


「真白……」

「お兄、お願い」

「ああ」


 本気で好きだった、それはもう分かっていた。だからこそ、真白の頼みを引き受けたのだが、俺には酷く振る事はできない。


「真白、ごめん。その気持ちには答えられない」

「……うん」


 ゆっくりと真白に近寄る俺は、手を伸ばして頭の撫でる。


「でも、俺の事を好きになってくれてありがとう。気持ちには答えられないけど、妹としてはこれからも好きで居るよ」

「お兄……うん、ありがとう」


 恋人としては見れないけど、家族としては真白を好きでいる。そんな返答をしたのが俺だった。俺としても好きになってくれて嬉しかったのも事実だ。


「やっぱりお兄は優しすぎるよ」

「そうかな?」

「うん。そんな調子だと、これから先苦労するかもよ、ニシシ!」


 さっき流していた涙はもう無い。笑顔を見せる真白だけど、でも好きな人に振られたという気持ちは辛いのではないだろうか。俺とは言え。


「うーん、そんなつもり無いんだけどなー」

「無自覚すぎるのは良くないよ、お兄」


 でも確かに、誰に対しても優しくしてしまう傾向にある気はするんだ。それは俺の性分なのかもしれないけど……うーん。


「そう、だな……気をつけるよ」

「うんうん、それが良いよ」


 真白にそう言われてしまい、俺も考えるようになったのだが、結局優しくしてしまうんだよなあ……やっぱこういう性分なのかもしれない。


「そう言えばさお兄は知ってる? この木の伝説」

「確か、ここで結ばれると末永く幸せになれるって……」

「うん、それもあるんだけど、もう一つあるんだ。ふふ」

「もう一つ?」


 はて? 俺が知ってるのはそれだけなのだが、他にもあるのだろうか? 取り敢えず、真白を見てみる。


「うん。ここで告白して、断られたら、その人たちは新しい光を見つけられるっていうね」

「新しい光、か」

「うん。その光は色々あると思うけど、とにかく、ここでは結ばれても振られてもどちらにしろ、幸せになれるんだって」

「へえ」


 それは良い言い伝えだな、と思う。

 本当にそうなるかどうかは別として、それなら振られてもきっと大丈夫……実際、そういう人たちはどうなってるかは知らないが、幸せに暮らせているなら良いなって思う。


「私の初恋は叶わなかったけど……新しい光、見つけられると良いな」

「見つけられるさ、きっと……真白ならね」

「うん。お兄、本当ありがとう。やっぱり、お兄のことが好き」

「そうか……」


 もし……もし、俺たちが兄弟では無かったら。俺らが付き合う未来も何処かの世界であるのかもしれない。平行世界って良く言われる物があるしな。


 ……それは、もしの話だけどな。


「うん。帰ろっかお兄!」

「おう」


 気持ちを入れ替え、俺たちは高台を後にしたのだった。










「……懐かしい夢を見た気がする」


 私は目を覚ます。

 目から何かが出ている、そんな感覚を覚え手を触れてみる。


「私、泣いてたんだ」


 理由は……まあ、夢のせいだろうと思う。

 はっきりと覚えている、昔の出来事だ。私はお兄が好きだった……それは兄としてとか家族としてとかではなく、一人の異性として好きだった。


 お兄とゲームしたり、遊んだりしてる時は本当に楽しくて……いつの間にか私は恋していた。分かっては居るんだ……私たちは血の繋がっている家族。叶わない恋だって言うことは。


 でもさ? 好きなってしまったのは仕方ないじゃない?

 お兄と一緒に居る特は本当にドキドキもしてたし、暖かくて居心地が良かった。いつからだろう? 私がお兄を好きになったのは。

 気付いたら恋してたんだよね……今でも好きっていう感情は消えてないけど、諦めはついてる。


 仕送りもしてくれて、本当に優しくて大好きなお兄。きっとこれは忘れることは出来ない。


「ふふ。こんな可愛らしい姿になっちゃって」


 魔法少女なってるって言うのを知った時は物凄く驚いた、丁度、変身する所に私が入ってきてお兄も驚いてたなー。魔法少女状態だと私と同じ銀髪になるんだよね。

 それで今のお兄の姿は黒髪のロング……色が違うと思うけど、何でもハーフモード? っていうらしい。使用する魔力を抑えてるって言ってた。


 何より、衣装がイメージで変えられるっていうのが凄いよね。ついつい、私が描いた服の絵を見せて、着せ替え人形みたいにしちゃったけど。


 お兄は引かないのかって聞いてきた。

 確かに普通に考えれば、そういう人が多いと思う。男が魔法少女だもんね。でも、私にとってお兄はお兄、姿形が異なっていても引くなんてことはないよ。

 仮にそんな事言ってくる人が居たら私が許さないんだから。


「……お兄。本当にありがとね」


 眠っているお兄に向けて、心からお礼を言って私は起き上がるのだった。






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