Act.16:吸魔の短剣②


「なるほどね……」


 私はホワイトリリーの報告に耳を傾けながら、そう返す。

 短剣のようなもので刺されるという事件が、また発生したのである。しかも、今回の被害者は件の星月の魔法少女リュネール・エトワールだという。


 野良だから私が気にかけるなんて可笑しいけど、彼女は何度も言う通りこの地域の魔法少女を何度も助けてくれてたし、魔物の討伐も行っていた。先にこちらが辿り着いていれば、危ない時以外は特に乱入する事も無いのだ。


 本当に謎の多い魔法少女ね。


「すみません、茜さん。短剣については……」

「まあ、確かにそれを渡したのはあれね。しかも、あなたの独断……一回連絡してくれても良かったのよ」

「すみません。何となく、リュネール・エトワールの方が分かる気がして……」


 ホワイトリリーが独断で動くのは初めてかもしれないわね。

 何をしたのかと言えば、短剣をリュネール・エトワールに渡してしまったという事。怪我とかそういう実害はないものの、あの武器は事件の重要参考物である。


 と言っても、全然私たちには分からないんだけどね。でも、わからないなら調べれば良いのよ……一応、そういう事を担当する部署もある訳だし。


 まあでも……魔法省は確かに政府機関ではあるけど、地域ごとに独立しているのよね。言わば、自分の地域は自分で対処しなさい、と言う感じだ。

 ぶっちゃけ、国は支援はするけど魔法関係については魔法省に一任している。いえ……押し付けられてると言えば良いのかしらね。

 本当これで良く組織として動いてるなとは思うけど、確かに魔物なんて謎の生命体。他の省庁じゃ役に立たないわね。あるとすれば防衛省くらいじゃないかしら。


 自衛隊の兵器とかは全く魔物には効かないのはもう分かっていることなので、防衛省もちょっと怪しいわね。でも、防衛省と魔法省は現状協力関係にあるけどね。

 だから自衛隊の戦車とかに、魔力の兵器? を載せるとかそういう試行錯誤がされている状態だ。進展はないけれどね……。


 魔法についても分からないことが多いわ。


「まあ、魔法省は地域ごとに独立しているしね……重要参考物が何よって話よね」


 この茨城地域の支部長は私だし、上は居ない訳だ。正確には東京の魔法省が一応上ってなるのかな? とはいえ、さっきも言った通り、地域ごとに独立してるので、他の地域が関与することはあまりないけれど。

 それに東京も東京で魔物数が一番多い地域だし、こっちまで見る余裕なんて無いわね。


「でも、リュネール・エトワールは返してくれると思います」

「へえ……随分と信用してるのね」

「はい」


 素直に驚いた。

 あのホワイトリリーこと雪菜ちゃんがここまで信頼しているなんて。いえ、もう私もここ最近の雪菜ちゃんを見て確信はしているのよね。


「余程、彼女の事が好きなのね」

「え!? いえ……いえでもないですね、はい……好きなんだと思います」


 リュネール・エトワールの事を話す時はとても楽しそうになるし、時々顔も赤くする。流石にこれは分かるわ……雪菜はリュネール・エトワールが好きなんだろうってね。それは友達としてではなく、本当に好きな人……Loveの方ね。


「やっぱり可笑しいでしょうか?」

「何言ってるのよ。恋っていうのはいつ落ちるか分からないものよ。その対象が同性であれ異性であれ、好きなんだから仕方ないのよ。私は別に同性愛と言うのに嫌悪とかを覚えてる訳じゃないからね」


 そう、恋なんて、突然に落ちるもの。私もそうだったし。

 ……まあ、残念ながら私の初恋は成就しなかったんだけどね。振られた時はちょっとショックだったけど、それでもまあ、その後関係が崩壊するなんて事はなく、友達として交流は出来てたから良い方かしらね。


 久しぶりに会えたのは予想外だったけれども。 


「私は雪菜ちゃんの恋を応援するわよ。と言っても、ライバルが居るみたいだけれど」

「それは……いえ、負けません」


 思い浮かぶのはブルーサファイアこと、蒼ちゃんだ。彼女も、どうも最近リュネール・エトワールの事を話す時に顔を赤くするし、雪菜ちゃんと同じように何処か楽しそうなのよね。


 ……二人も惚れさせるなんて、リュネール・エトワールちゃんは天然たらしなのかしら?


 いや、下手するとこれからも増えるかもしれないわね。仮にそうなったとして、彼女は誰を選ぶのかはちょっと気になるわね。


「大分話が逸れちゃったわね。短剣についてはまあ、雪菜ちゃんを信じるわ。でも、仮に……仮に彼女がその短剣を使って暴れた時とかは、雪菜ちゃんにも責任が行ってしまうわよ?」

「それは承知の上です。仮に……考えたくはないですけど、その時は私は必ず止めてみせます」


 強い意志のこもった目でこちらを見てそう言い放つ雪菜ちゃんは、とても輝いて見えるわね。想い人が間違った道を歩んだ時、それを止めるその勇気……。


 何が彼女をここまで変えたのかしらね。リュネール・エトワールが原因なのは分かるけど……恋の力は予想外に働くという事かしら。


「そう……そこまで言うならもう何も言わないわ」

「はい! ありがとうございます」


 ここは信じましょう。

 仮に何かあったとしても、どうせ報告した所で自分たちで何とかしろとか言ってくるんだろうしね……ぶっちゃけあまり気にしてなかったりする。


 とは言え、重要参考物を野良の魔法少女に預けたとか言うのが広がれば、面倒な事になるだろうしこれは伏せおくべきね。後はリュネール・エトワールが本当に返してくれるか、よね。


「……私も一応信じては居るんだけどね」


 何せ彼女は悪い噂と言うか、悪い事をしたなんてことは一切ない。もしかしたら、してて隠してるっていうのも考えられるけど、仮にそんな事をしたら噂になるはずよね。

 いえ、見えない所でやってたらもうどうしようもないけど、少なくとも調べてみた結果ではほとんどがプラスな行動だけだ。魔法少女を助けたり、間に合わなかった魔物を倒してくれたり。


 にしても、彼女はどうやって魔物を感知してるのかしら?

 いえ、警報は確かになるけど、あまりにも駆け付けが早すぎるわ。移動できる魔法が使えるのか……それともまだ何かあるのか。


「はあ……実際会うしか無いのよね」


 私はこの目で実際見た事は今まで一回もない。と言うより、彼女は魔法省に来るのを非常に嫌がってる傾向にある。つい最近、これまでの犯行を行っていた一人であろう男が拘束された時、ホワイトリリーとブルーサファイアを除いた数名の魔法少女がお礼を言えたらしい。

 それ自体は良かったと言うべきか……でもやっぱり、私も直接会ってお礼を言いたいし、聞きたい事もある。勿論、無理矢理聞こうとはしないつもりだ。


 リュネール・エトワールが良く見られる場所は、県北なんだけど、県南や県西、県央そして鹿行でも見られてる。茨城地域全体を活動範囲をしてるのは分かるのよね。

 彼女を探そうにもその近くに居る魔法少女くらいしか会えない。範囲が広すぎるし、こっちから会おうとしても難しいのよね。


 でもこんなに色んな場所で目撃されてるけど、彼女は学校とかどうしてるのかしら。15歳って本人が言ってたらしいんだけど、15歳といえばまだ中学生よね。


 しかも、受験とかで忙しい中学3年生だ。


「……」


 一体、どうしてるのかしら。

 気にはなるけど、調べようもないわよね……この地域の学校とか何十個あると思ってるのよ。目撃される範囲も県域全体よ? お手上げだわ。


 県北に住んでるという可能性は少し高めだけどね。県北での目撃が一番多いってだけだけど……。


「はあ……難しいわねえ」


 雪菜ちゃんは既に退出しており、この場にいるのは私のみとなってる。そんな静かになった執務室の中に、私の声だけが静かに響くのだった。




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