Act.14:ホワイトリリーとリュネール・エトワール③
「司さん」
「ん」
ショッピングモール内に鳴り響くその警報は、魔物が近くに現れたという物を知らせるものです。折角、司さんと一緒に過ごせていたのに、邪魔するなんて許せません。
警報によってお客さんたちは避難誘導に従い離れていきます。私たちはその流れに溶け込み、そそくさに外へと向かっていきます。
以前もこのショッピングモールの近くで魔物が出ましたよね。最新に調べによると、魔物は人の多い所の近くに出現する傾向が見られているそうです。
それは確かに納得できます。この茨城地域の中心である県央では、他と比べて多くの魔物が観測されていますしね。
そして日本の首都である東京では毎回トップの数の魔物が出現しているそうです。とは言え、東京地域の魔法少女たちは少なくとも100人以上居ますけどね。
『出現した魔物は脅威度Bよ! あなたなら大丈夫だと思うけれど、気を付けてね』
『はい、分かりました、茜さん』
魔法省の茜さんからの連絡で、出現した魔物は脅威度Bという事が分かりました。隣に一緒に走っている司さんを見ます。
「司さん、今回は私が行きますね! Bらしいので」
「ん。分かった。……気を付けてね」
「! ありがとうございます」
やっぱり司さんは良い子です。
いえ、私のほうが年下なのに何を言ってるんでしょうか……でも司さんって15歳と聞きましたが、時折凄く大人っぽくなるんですよね。
両親が居ないからっていうのもあるんでしょうけど……。
そんなこんなでショッピングモールから外へと出た所で、私は首にかけているペンダントを取り出し握ります。わたしの魔力に反応したペンダントがキラリと少し光りました。
「――ラ・リス・ブロンシュ・フルール!」
変身のキーワード……それを唱えれば、私の視界が光りに包まれます。ふわっと浮遊感に襲われますが、別に嫌な感じではありません。何度も経験している感覚ですし、今更ですよ。
しばらくして、私の姿は魔法少女ホワイトリリーとなりました。側に居る司さんを見ます。目が合うと、司さんは頷き、私も頷き返しました。
「行ってきます」
「うん。行ってらっしゃい」
その言葉に私は嬉しくなりますが、今はこの気持は抑えましょう。思いっきり飛び上がり、一瞬にしてショッピングモールの屋上へと辿り着きます。
「あれですか……絶対に許しません!」
出現した魔物を見て、私は睨みつけました。少しお腹が空いているというのもありますが、ちょっと……いえ、かなり今の私の機嫌は悪いですよ、覚悟しなさい。
屋上から加速して魔物の近くに飛んでいきます。今回出現した魔物は馬みたいな魔物で、新種ではありませんね。ここ最近、新種も結構見られてきてますが……カタツムリの魔物は最悪でしたね。
思い出しただけでも身体に悪寒が走ります。いえ、魔物自体はカタツムリですけど、触手がちょっとトラウマになってます。別にフラッシュバックして混乱とかはないですけどね。
「リリーキャノンッ!!」
私の楽しい時間を奪った罪は重いですよ! 喰らいなさい。
私の目の前に現れた白百合の描かれた魔法陣より、桜色のビームが放たれます。一瞬にして魔物に着弾しますが、大ダメージ……とは行きませんでしたね。
まあ、リュネール・エトワールの攻撃魔法が異常なだけです。脅威度Aの魔物はワンパンって何の冗談ですか。いえ、実際この目で見てるので信じざるを得ないのですけどね。
「リリーショット!」
私の一番の得意な魔法を放ちます。白百合の花弁が飛んでいき、そして魔物に当たります。それだけではないですよ! この花弁は私のこのステッキと繋がっているのです。
「そーれっ!!」
手前にステッキを大きく引くと、飛んでいった花弁が戻ってきますが、そのままもう一度今度は反対側に振ります。すると、再び花弁は魔物へと飛んでいきます。
「リリーボム!」
そして二回当てた所で、別のキワードを紡ぐとさっきまでの白百合の花が花びらを吹き上げて、爆発を起こします。すると、魔物は消えていき、その場には魔石だけが残りました。
「一丁上がりです」
全く、私の邪魔をするのは許しません。
魔石を回収して私は、司さんの待っているであろう場所へと戻っていくのでした。
□□□□□□□□□□
「お帰り」
暫く待っていると、雪菜が戻ってきたのでお帰りの言葉をかけてあげる。思ったより早かったな……まあ、Sクラスの魔法少女だし、脅威度B程度じゃ相手にはならんか。
「はい、ただいまです」
何か凄くすっきりした笑顔を見せてる。何かあったのだろうか? 取り敢えず、軽くその頭をなででやると、くすぐったそうに目を細める。
なんか俺、撫でてばっかだな……変質者って思われて嫌だわ。でも、今のこの見た目ならただのじゃれ合いにしか見えないから問題ないか。
ただ嫌がらない所……いやむしろ喜んでる……所を見ると、やっぱりリュネール・エトワールが好きなんだなと思う。雪菜は今13歳で、俺の今の見た目よりは年下だ。まあ、俺の実際年齢は27歳なので、かなりの年の差があるけどな。
しかし、こんな子に俺が抱き締められるとは思わなかった。両親について聞かれたので、別に隠す必要もなく答えたらそうなった。もしかして、勘違いされてしまったか?
いやまあ、両親が他界した時は俺も真白も泣いたけどな。お父さんもお母さんも優しかったし……突然死んだって聞いた時は本当に驚いて、そして泣いたのだ。
「友達、か」
ぼそりと俺は呟く。
雪菜は告白ではなく、まずは友達から始めたいと言っていた。友達……高校の頃を思い出す。俺はどっちかと言うと陰キャラ? に分類される方だと思うが、まあ、そこそこの友達は居たと思う。
27歳の俺が13歳の女の子と友達っていうのも何か変だが、見た目は15歳だし可笑しくはないのかな? でも尚更、これだと本当の正体を見せられないな。
「あの……お腹すきました」
「ふふ。それもそうだね」
そうこう考えてると、雪菜がそう言ってきた。そう言えば、お昼食べようとした所で魔物が出たんだったな。そりゃあ、お腹空くよな。
「魔物は倒されたから店も再開してると思う。戻る?」
魔物を倒したので、ショッピングモール内のお店も多分再開し始めてるはずだ。出たばっかりで戻る人って結構居ないと思われてるけど、居るんだよな。
まあ、実際問題、大きな被害って出てない訳だから平和ボケ? っていうのも無理はないんだけどな。
「そうですね……」
「ん」
人が多い所に魔物は出やすいから、あれではあるが……取り敢えず、お腹が空いてるので何か口に入れたいよな。俺の場合はハーフモードだけども。
はぐれないように雪菜の手を握る。すると、雪菜は雪菜で予想外だったのか驚いた顔をする。いきなり手を繋げばそりゃそうなるか。
既にもうお客さんとかも戻ってきてて、人が多くなってる。はぐれる可能性も考慮して、こうした方が良いだろうと思っただけだが……。
「(やっぱり無自覚ね)」
ラビは毎回そんな事言ってくる。何が無自覚だ……確かに雪菜が俺のことを好きだって言うことには気付けなかったけど……。
「ごめん。嫌だった?」
「いえ、そんな事はありません。むしろ嬉しいと言うか……」
「そう?」
照れたように返す雪菜は年相応で可愛いと素直に思ってしまった。いかんいかん……俺は27歳だ、こんなの犯罪以外の何でも無い。
でもなあ、雪菜はリュネール・エトワールの事が好きなんだよな。告白……はまだされてない、というか友達からって事になってるけど、されたらどうするべきか。
いや……答えは決まってるか。
「じゃあ行こうか」
「はい!」
今考えても仕方がない。でも考える必要もあるだろうけど、今はその時じゃない。
俺と雪菜はそんなこんなで、フードコートの方へ戻っていくのだった。
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