Act.04:ブルーサファイアとリュネール・エトワール①


「え? ブルーサファイアが?」


 俺こと如月司こと、リュネール・エトワールはもういつものようにホワイトリリーと話をしていた。

 そして前に起きた魔法少女が短剣に刺されると事件がまた発生したようで、しかもその被害者はブルーサファイアだという。


 昨日のお昼ごろに、魔物が出現して近くに居たブルーサファイアが駆け付けて対応したそうだ。 魔物の脅威度はCが一体。Bクラスの魔法少女であるブルーサファイアとしては、余裕な魔物だ。

 出現した場所はそこそこ人が居た場所で、逃げていた人の中に逆走していた男を見ては戻るように言おうと近付いた際に、刺されたようだ。


 油断した……という訳ではない。

 一般人を装ってる以上、誰がこの一連の犯人なのかを特定するのは難しい。魔法少女は逃げ遅れた一般人を誘導するのも一つの仕事だ。ブルーサファイアはそれに則って行動したのだ。


 やはり一般人に紛れているのは厄介すぎるな。

 その後、近くに居た魔法少女も駆け付け、倒れていたブルーサファイアを発見。魔法省へ戻ったようだ。


「今日はもう目が覚めてまして、やっぱり他の魔法少女と同じで普通に動けるようになってましたね」


 この事件は総じて外傷がない。それもあって、あまり重要度と言うか、そう言うのは低めなのだ。

 でも、既に何件かの同じような事件が起きているのもあって、上がることはあっても下がることは無い。


「刺されたらたちまち力が抜けていく、と口々に言うんですよね。ブルーサファイアも同じです」


 力が抜ける。

 ふむ……


「ラビ、魔力を急激に消費した場合はどうなる?」

「何度か経験してるんじゃない?」


 魔力は自身を守っている力でもあり、魔法と呼ばれる魔法少女の力にも使われる物だ。当然、強力なものを使うと消費量も大きくなる。


 では、魔力が無くなった場合はどうなるのか?

 変身状態の魔力というのは、体内にもあるが装甲の役割も果たしているため、外側にも巡らされている。

 なので変身を維持している魔力自体には外側なので何の影響もないが、体内の方は魔法や、装甲の補填とかに使われる。

 攻撃を受けたらまず装甲の役割をしている魔力がダメージを吸収する。魔力の装甲も無限ではないため、ダメージを受け続ければ削られていく。で、その削られた分の魔力を体内からまた吐き出していると言えば良いかな?


 でだ。魔力を消費すると当然ながら疲れる。その疲れるというのは魔力がもう少しで無くなるという合図だ。


 その状態で使い切った場合……力が抜けてその場にへたり込んでしまう。


「……ラビ」

「ええ、あり得るわね」


「どうかしたんですか?」

「ん。ちょっと気になったことがあっただけ」

「この事件にですか?」

「うん」


 もし、その短剣が魔力を奪っているのだとしたら。

 刺されても何も跡が残らないって言うのも謎だが、魔力を奪っているのであれば、倒れるという事もあり得る。


 何故そんな事してるかは分からないが、それは直接聞くしかないだろう。でもって、黒い短剣についても、だ。

 もし魔力を奪える短剣なのだとしたら? 刺されたら俺も奪われる可能性が高い。更に言えば、一般人に紛れ込んでるって言うのも本当に厄介。


 どういう物かは分からんが、短剣は一瞬にして魔力を奪える道具だという事だ。


「なるほど、魔力を奪ってるという事ですか?」

「ん。でもまだ分からない」


 そういう可能性があるというだけでまだ確証は出来ない。しかも過去に複数の場所でも目撃されてる事から、その短剣は複数あると見て良いだろう。


「そうですか……あの、この事を報告しても良いですか?」

「別に良いけど……確証はない」

「はい分かってます。ただ、そういう事を伝えたいだけなので」


 まだ予想にしか過ぎないから、報告してもあまり意味ない気はするけどな。


「それでは私はこれで……」


 若干名残惜しそうに、こちらを見るホワイトリリー。最近のホワイトリリーはちょっと分からない。


「ん」


 最後にもう一回こっちを見て、そして飛び去って行くのだった。


「貴女、懐かれてるわね」


 ホワイトリリーの姿は見えなくなると、とんがり帽子からラビが姿を現してそんな事を言ってくる。


「何かした?」

「あなたに向けてる感情、あれは……恋ね」

「え」


 恋ぃ!?

 ちょっと待ってくれ……俺魔法少女ではこんなナリだが元は27歳のおっさんだぞ!?


「熱い視線やら、顔を赤くするやら、どう見ても脈があるじゃないの。罪な男……いえ、女ね」

「おい」


 つい素が出てしまった。

 しかし、恋ってなんだ。俺との年齢差も考えたら完全に犯罪じゃん! 俺別にロリコンとかそういうのじゃないぞ。


「まあ、恋なんていつの間にか突然落ちる物よ」

「どうしよ」

「向こうが告白してきた際に、ちゃんと答えてあげないとね」

「……うん」


 恋に落ちた原因が分からないな……俺何かしたっけ? カタツムリの魔物の時に助けたくらいだぜ? あれが原因か……いや、別に悪い気はしないが年齢差が駄目だ。

 それに、俺は俺でもあれはリュネール・エトワールの方が好きなのだろう。外見だけ見ると……同性か。


 取り合えず、俺は今は考えないことにしてその場を去るのだった。




□□□□□□□□□□




「あれ、司じゃない!」

「ん? 茜じゃん」


 某有名なファミレスで、ドリンクバーから飲み物を持って来ようとした所で、聞き覚えのある声がした。


 声の主の方を見れば、私服姿の女性……俺の高校の同級生だった北条茜ほうじょうあかねが立っていた。


「偶然ねー」

「本当になー、確かお前就職して東京行ってなかったか?」


 確か東京の方で就職したと聞いてる。実家はこっちにあるらしいが、帰省と言う奴だろうか。


「うーん、何て言うのかな。本社は東京だけど配属されたのはこっちって感じよ」

「なるほど……良いじゃん、実家から行けるんじゃねえの?」

「うん、まあそうなんだけどねー」


 何の仕事かは聞いていないが。東京に行ったと思ったらこっちに配属って、運が良いのか悪いのか分からんな。


「何の仕事してるんだ?」

「守秘義務があるから詳しくは言えないけど、魔法省って言えば分かる?」

「魔法省!?」

「ど、どうしたの、そんな大きな声を出して」

「いや、すまん。ちょっと驚いた」


 マジかよ。

 魔法省……でこの地域に居るって事は、茨城地域支部って事だよな。つまりはホワイトリリーやブルーサファイアが所属している所だ。


「いや、まさか魔法省とは思わなかったよ」

「最近はこの地域の魔物が増えてきてるし……仕事が増えたわね。でも、定時では帰れてるわよ」

「ほう、それは良かったな」

「と言うより、茨城地域は比較的少ないからってのもあるんだけどね」


 魔法省茨城地域支部といえば、確か水戸にあったかな。今はそこに就職してるらしい。何の職業かまでは分からんが。

 確かに増加はしたが、他の地域と比べると少ないと言うのも事実だ。


「内容については流石に教えられないわね」

「だろうな……一応政府機関だもんな」

「ええ」


 しかし、高校の同級生が魔法省って。俺がリュネール・エトワールだって事絶対ばらしたらいけないな。


「最近はちょっとした事件も起きてるしね」

「確か魔法少女が襲撃されたって奴だっけ?」

「ええ、まあ知ってるわよね。その対応もあってね……」

「まあ、何だ……がんばれ」

「ところでそっちはどうなのよ」


 そう聞かれ、一瞬だけどもってしまう。


「まあ、ぼちぼちかな」


 野良の魔法少女、リュネール・エトワールをしてます、何て口が裂けても言えない。ニートっていうのも取り敢えず隠しておく為に、適当にはぐらかす。


「ふーん。そう言えば妹さんも居たよね」

「おう。まあ真白は大学生活楽しんでるっぽいよ」


 時々CONNECTとかで近況報告してくれるのだ。ただ俺はスマホは解約してるから、そういうやり取りはPCでやってるんだがな。

 CONNECTはスマホが主流だが、PC版もあるしな。ただ……割と妹の真白にはスマホ契約してよ、電話できないじゃん! とか言われるんだけどな。


 いやいや、家に電話かければ良いだろって思うのだが……今は変身デバイスというスマホがあるが、当然これを言うつもりはない。


「妹さん……真白ちゃんだっけ? 帰ってくるとかあるの?」

「さあな……でも、長期休暇の時はもしかすると戻ってくるかもしれんな」


 大学の春休みは長い。

 まだ冬だけど、その時期が来たら多分帰ってきそうなんだよな。帰ってくるのは良いのだが、俺魔法少女してるし、どうするかな。


 ……まあ、今考えても仕方がないか。でも考えておく必要はあるな。


 そんなこんな考えながら、俺は茜と談笑を続けるのだった。



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