Act.10:エピローグ



「リュネール・エトワール……」

「はい。彼女はそう名乗ってくれました」


 私こと北条茜ほうじょうあかねは雪菜こと、魔法少女ホワイトリリーの報告を聞いていた。

 水戸市にある某有名なショッピングモールの近くで魔物が出現を感知し、偶々一番近くを見回っていたホワイトリリーが向かったのだ。


「やっぱりあったわね……切り札」

「そうですね。あれは……強力で綺麗でもありました。ただあれが彼女の切り札かは分かりませんが」

「そうねぇ……」


 魔法少女リュネール・エトワール。

 巷では星月の魔法少女と呼ばれている、謎が多い野良の魔法少女。そんな彼女の名前が今判明したのである。

 そして、今回出現した魔物……大きなカタツムリのようなものだったが、脅威度はB判定。しかし、殻の硬さは常軌を逸する物だった。

 ホワイトリリーの攻撃も全く通らず、傷も付けられなかったそうだ。


 これにはホワイトリリーも苦戦し、最終的にはピンチに陥ったところ、件の魔法少女リュネール・エトワールがやって来て。助けてくれたそうだ。


 そんな彼女の星を撃つ魔法ですら、ひびを入れられる程度だったみたいね。

 脅威度は魔物が出現した場合に発生する、瘴気のエネルギーや魔力からコンピューターが演算し、過去のパターンを探り、推測される物なので、ぶっちゃけ絶対とは言えないのだ。


 今回のカタツムリの魔物は演算上では脅威度B判定だった、と言う事。一度出現して倒された魔物ならデータが残っているが、今回のは新手のようだった。


「星を降らす魔法……」


 今回の件で特に気になったのはリュネール・エトワールの新たな魔法だ。報告を聞いた限りでは、空から無数の星を降り注がせるという戦略魔法と言わざる得ないものだった。

 範囲は広く、更に全ての星が意思を持ってると言わんばかりに魔物目がけてホーミングしていたそうだ。


 ――もし、一つ一つの星をリュネール・エトワールが操れていたら?


 魔法の特性で追尾するのならまだしも、仮に全ての星を彼女が操作していたら、真面目に規格外……それこそもうLクラスの魔法少女級ではないだろうか。


 それを考えるとぞっとする。Lクラスとなれば、国一つを単体で壊せてしまう。今回彼女の使用した魔法……あれがもっと範囲を広げられるなら――


「末恐ろしいわね」

「何か言いましたか、茜さん」

「いえ、何でもないわ」


 この星を降らす魔法が彼女の切り札なのかしら? いえ……何となくではあるけど、他にも魔法を使ってないだけで使える強力な魔法がありそうな、そんな気がする。


 とにかく、魔法少女リュネール・エトワール。

 彼女は頼もしくもあるが、その反面要注意人物でもあるだろう。これはもっと慎重になった方が良いかも知れないわね。




□□□□□□□□□□




「はあ……」


 何故でしょう。ため息が出てしまいました。


「どったの雪菜」

冬菜ふゆなですか。……いえ、ちょっと」


 そんな私に声をかけてくるのは、双子の妹の冬菜でした。私にも分からないんですよね……何故か出てしまいました。


「雪菜がそんな深いため息するなんて珍しいね。何かあった? 相談に乗るよ!」

「ありがとうございます。良く分からなのですが……」


 話をしながら冬菜を見ます。

 私たちは一卵性双生児である為、見た目が非常にそっくりです。と言っても、性格は何というか、反対っぽくなりましたが。

 ただ、冬菜の方は魔法少女としては覚醒していません。10代前半が多いみたいですが、全員が全員覚醒をする訳ではないのです。

 私と冬菜は今年で13歳を迎えます。今は中学生ですが魔法少女である以上、魔物が出た時は対応しないといけません。


「ふむふむ。雪菜はそのリュネール・エトワールと言う魔法少女の事を考えると、そうなると」

「何でしょうかこれ。なんかこう、変な気分になるんですよね」


 魔法少女リュネール・エトワール。

 この前、ショッピングモール近くに魔物が出現した時、助けてくれた少女です。いえ、話だけなら前から聞いていました。それに、遠目ですがこの目でも見た事ありますしね。


 カタツムリの魔物の触手に捕まり、何も出来ない状態は今でもちょっと怖かったですね。大分、落ち着いてきましたが。


「吊り橋効果かー」

「え?」

「何でもなーい。とにかく、雪菜はその子に助けられて撫でられて……ドキドキしたと」

「ドキドキ、はしてませんが……」

「似たような物よー。だって、その子のこと思い浮かべるとため息が出る。そして気付いて無いかもだけど、話してる間……雪菜さ顔がちょっと赤かったよ」

「ふえ!?」


 あの時、助けてくれたのは本当に感謝しています。あのままだったら……と考えると、ぞっとしますね。


「まー何となく分かった」

「それはどういう……」

「ふっふっふ! 雪菜、ずばり君はその子に恋をしている!」

「っ!?」


 カァっと顔が赤くなるのを感じます。

 あれおかしいですね……さっきまでは何とも感じなかったのですが、急に恥ずかしく……。


「で、でも彼女は同性ですよ!?」

「恋に性別なんて関係ないよ、雪菜」

「……」


 恋、ですか。

 まさか私の初恋が同じ魔法少女って何ですかね。でも確かに、そう考えると何だか納得してしまいました。


 ただ助けてもらっただけなのに……私って単純だったりするんですかね。Sクラスの魔法少女として、恥じないようにしてたつもりですが……。


「まあ、恋っていきなり始まる物だしねー」

「ふ、冬菜は居るんですか、好きな人」


 これ以上話すと、おかしくなりそうだったので話を変えます。多少強引ですが致し方ありません!


「居るよ」

「えっ?」

「誰だと思う?」


 誰でしょうか。

 冬菜の性格なら色んな人とコミュニケーション取れてますので、候補が多いですね。学級委員長とかですかね?


「えっと、分かりません」

「もう、雪菜ったら! こんなにも見てるのに!」


 そんな冬菜は私の事を見て言ってきます。え?


「私は雪菜が好きなのです」

「ええ!?」

「勿論、魔法少女ホワイトリリーとしてもね。だから雪菜が恋してしまったから妬けてる」


 ええ……冬菜が私を、ですか。冗談かと思ったのですが、一瞬だけした表情がちょっと引っ掛かります。


「冬菜……」

「冗談だよ、冗談。私は雪菜の恋を応援するよ」


 その後は、何事も無かったかのように元通りになった冬菜でした。

 

 本当に冗談だったのでしょうか?




□□□□□□□□□□




「はあ、疲れた」

「お疲れ様~」


 カタツムリの魔物を倒してからホワイトリリーと少し会話した後、家に戻ってきていた。

 魔物の出現で電車は一時的に止まってしまってたので、魔法少女としての力を使って屋根とかを移動して帰ってきた感じだ。

 魔法少女の身体能力はやっぱり強くて、結構距離があったのにも関わらず30分もかからずに家に着いてしまった。因みに姿は見えないようにしてた。


「ショッピングモールに行った意味……」

「魔物が出てきたから仕方ないわね。それに、何か買うつもりだったの?」

「特に買う物はなかったけどな。強いて言えばゲーセン行きたかった」

「また今度行ければ良いわね。勿論、リュネール・エトワールのハーフモードでね!」

「ええ……」


 実際、今日はハーフモードで電車乗ってショッピングモールまで足を伸ばしたが、割とどうにでもなるもんだなって思ったわ。


「そう言えば魔石は回収しなくて良かったの?」

「ん? まあ、あれはホワイトリリーが最初戦ってたんだから、良いかなって。それに俺は既にいくつか持ってる訳だしな」

「それもそうね……」


 最初から最後まで相手した魔物の魔石だけ貰うようにしている。横取りって言われても困るし、魔石には困ってない。


「にしても、俺がショッピングモールに居た時に魔物が現れたよな……やっぱり俺のせいか?」

「うーん……それに関しては今の所何とも言えないわ。今日の魔物出現は偶然っていう可能性もある訳だしね」


 それなら良いのだが……仮に俺が原因であるならば、どうするべきだろうか。

 魔物を倒すというのはもう確定だが、この場合だと俺のいる場所には魔物が出るって事になる。

 要するに何処へ行こうとも、魔物が出現する。どうしようもない状態だ。あまり考えたくはないが……。


「イマイチ、魔物はよく分からんな。……これ言ったの何度目だろ」

「それは誰にも分かってないわ。一説では世界中の負の感情が魔物を生み出している原因っていうのもあるわ」

「負の感情、か」


 負の感情は表に出してないだけで、誰もが心に持っていると俺は思う。それが原因ならば、この戦いに実質終わりがないと言える。


「それだと、実質終わりがない戦いになるな」

「ええそうね……」


 俺も……今は何も思ってないが、もしかすると心の何処かにはあるかもしれないな。

 その点についても、気をつけよう。気づけ無いかも知れないが、そう思っておくこと自体に意味があると思いたい。



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