Act.05:青い魔法少女
「失礼しました。これは貴女が?」
そう問いかけてくるのは、青いドレスのような衣装を着た子だった。どうみても魔法少女です、ありがとうございました。
「ん」
まさか初実戦で別の魔法少女に会ってしまうとは……と言うかこの子見た事あるぞ。確かこの地域の担当をしてる魔法少女だったよな?
「そうですか……。私は魔法省所属の魔法少女、ブルーサファイアです。あなたの所属と担当をお聞きしても?」
「所属してない。だから担当も無い」
そうだそうだ。ブルーサファイアって名前だった。
魔法少女の名前って良く分からん。花だったり色だったり、物だったりするし。大抵は魔法少女本人が決めるものって言うのは聞いてるが、数が多かったら名前のネタが切れそうだな。
「なるほど、野良ですか。……取り合えず、ご同行願えますか?」
「断る」
「ええ……」
さっきまでの大人っぽさはどこ行ったし。
「わたしは帰る」
「あ、ちょっと!!」
いやね? 同行した先で変身解除してくれって言われたら困る。あの状態なら大丈夫だが……どうせ同行先って魔法省だろ。
という訳で、その場からせっせと立ち去る。姿を見えなくする魔法をも使って念入りにするのだ。
「あー行っちゃった……」
もう姿が見えなくなってしまった野良の魔法少女を見て呟く。ここ数か月、魔物の出現が確認されてなかった地域に脅威度Aの魔物が出現した時は驚いた。
他の地域では良く出現するのに、今回に限ってはこの地域で、それもあって出動が遅れてしまった。
正確には他の地域の支援をしていたからなのだが……。
「ブルーサファイア! 魔物は何処だ?!」
「遅れてごめん!!」
そんな事を考えてると、他の二人が追いついてくる。急ぎ過ぎた……とはいえ、もう魔物は居なくなってたのだが。
「あれ。何もいない?」
「もう倒されましたよ」
「ええ?! ブルーサファイアが倒したの?」
「いやいや、それは無いでしょ」
今回現れたのは脅威度Aの魔物だ。Bクラスの私が一人で敵うような相手じゃない。
本来ならAクラスの魔法少女が来るべきなのだが、やはり都合とタイミングが合わず、何とか間に合いそうな私たちが出向いてきた。
私たちの役割は、応援の魔法少女が駆け付けるまでの時間稼ぎ、足止めと言った所だった。そして危ないときはすぐ逃げろ、と言われてる。
「それじゃあ、誰が……」
「知らない魔法少女だったよ。所属を聞いたらしてないって」
「つまり、野良の魔法少女がやったってことか」
「うん。野良の魔法少女は何人かは顔を知ってるけど、さっきの子は知らないかな」
きれいな銀髪をしていて、いかにも魔女っ娘って感じのスタイルの魔法少女だった。とんがり帽子が特徴だった。
「新しく誕生した、とか?」
「分からないわ。でも、同行を願ってみたけど綺麗にお断りされたよ」
別に同行させる必要は無いのだが、野良の魔法少女も出来れば連れてきて欲しいっていう話だから言ってみただけだ。
別に魔法少女は魔法省に所属するって言う決まりはないから、強制はできない。けど、野良の魔法少女も魔法少女……保護したいって言う考え何だろうと思う。
それにあの子は野良でありながら魔物と戦ってた訳だし。
野良の魔法少女が魔物と戦う事例は無くはない……けど、国からの支援も何もない上に命がかかってる。普通なら戦わないか、魔法省に所属するんだけど……。
「うーん……取り合えあず、報告しないとね」
「だな」
「うん」
あ、あの魔法少女の名前聞いてなかった。まあ、教えてくれそうな雰囲気は無かったけど……。
とにかく私たちは魔物が倒されたという事を報告する為、魔法省に戻るのだった。
-------
「初討伐お疲れ様」
家に戻ると、ラビが労りの言葉をくれる。
変身を解除し、元の姿に戻れば俺は意識をわたしから俺へと切り替える。
「何かあっけなかったが……」
「まあ、あなたが規格外なだけよ」
「規格外って……」
「多分だけど、実力と言うか強さだけならリュネール・エトワールは最低でもSクラス以上ね」
「まじか……」
何でも脅威度Aの魔物をあんなあっさりと単体で倒すのは、現役Aクラスでも難しいとの事。
前にも言った通り、脅威度Aの魔物は普通はAクラスの魔法少女が二人以上で取り掛かる魔物だ。Aといっても個体差もあるが。
「それにしても、あの時に駆け付けてた青い魔法少女は、Bクラスくらいかしらね」
「分かるのか」
「ええ。何となく、だけどね。あと結構後ろの方にもう二人ほど居たかしら」
「居たのか……ってことは、Bクラスの魔法少女三人が駆け付けたってことか。でも、脅威度Aの魔物だろ?」
「恐らく応援の魔法少女が来るまでの一時的な対応ね」
「なるほど」
それにしても、やっぱり対応が遅れてるな。
もし俺が行ってなかったらどうなってたことやら……初実戦だけど、相手は脅威度Aとかいう結構高いやつだったのはびびったが。
「あれ、何してるのかしら?」
「ん? 良くあるPCのMMORPGだよ。これが結構面白くてな……まあ、だからといってそこまで課金はしてないが」
少しはしているけどな。主にアバターに。
「ゲーム内では女の子使ってるのね」
「こういうゲームって、女性アバターの方が種類があって良いんだよ。それに操作するなら可愛いキャラが良いだろ」
画面に映るのはこのゲームで俺が使っているアバターだ。プレイヤーネームはルナ……まあ、在り来りな名前だと思うが。
サービス開始日からやってたから同じ名前は使えません、という事はなく問題なく使えた訳だ。
「あら、このキャラ……何処と無くリュネール・エトワールに似てるわね」
「ん? あーそう言えばそうだな。完全に俺の趣味で作ったアバターだが」
改めてゲーム内のルナを見ると確かにリュネール・エトワールに似てる。流石にグラーデションのかかった髪ではないけど、銀髪のロングの金色の瞳。
今着せてるアバターも魔女っ娘風で、色は違うけどリュネール・エトワールの衣装に似たデザインだ。
「もしかしてこれがリュネール・エトワールの容姿を作ったのかも知れないわね。ほら、自分の理想の姿に変身するって言ったじゃない?」
「そう言えばそんな事言ってたな」
「これがあなたの理想の姿なのかしら」
「どうだろうなー別にイケメンになりたいとは思ってないけど」
良い年したおっさんの理想の姿が少女っていうのも結構アウトな気もする。あくまでこのアバターは趣味で作ったものだしな。結構良く出来たとは思ってる。
「さて、日課も終わりっと。じゃあ今日も魔法の練習をするかな」
「良い心がけね」
「まあ、見ての通りニート生活満喫してるからな……時間ならいっぱいある」
仕事もせずに、好きな事が出来るのがニートの良い所だ。世間体では悪いイメージが強いみたいだが、本当にそうだろうか?
ぶっちゃけ働く必要はあるのか? 働かないとお金がなく、何も食べれないし買えないが、お金があるならどうだ?
今じゃ、Youtuberだとか、Vtuberだとか、仕事しなくても稼げるのはある。いや、正確には面白い動画を投稿するという仕事何だろうけど、好きな事やって稼げるって良いよな。
他には投資とかで稼ぐやつは稼ぐ。ニートだろうが、お金があるなら別に働く意味は無いと俺は思う。
全く、ニートの何が悪いんだって。
いやまあ、働かずに家族の乞食になってるってんなら話は別だが、自分で生活できているなら文句を言われる筋合いはないと思うぞ。
まあ、そんな理屈が通らないのがこの世の中だが。
「じゃあ、行くか。――ラ・リュヌ・エ・レトワル!」
『SYSTEM CALL "CHANGE" KEYWORD,OK――LA LUNE ET L'ETOILE――』
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