2-4. 最強のパーカー
俺がウンウンと思案に暮れていると、
「今日はどうするですか?」
ニコニコしながらエステルが聞いてくる。
ハムエッグホットサンドを両手で持って、頬張る様子はまるで子リスである。
俺はその様子に癒されて、つい笑みがこぼれる。
くだらないことを必死に考えるのがバカらしくなった。
この子と一緒に世界を救ってやればいいんだろ? 女神様。いいじゃないか、やってやるよ。俺は異世界で英雄となって、たっぷり報酬ももらっちゃうぞ!
俺はこぶしにギュッと力を込めて気合を入れた。
◇
「レベルを上げたいと思うんだ」
俺はエステルを見て言った。
「レベルですか?」
「俺もエステルもレベル低いから、殺虫剤が上手く決まらなかった時に命の危険があるじゃないか。レベル高かったら回避できたりするんだろ?」
「うーん、そうですね。防御力や回避力が上がれば危険は減りますね」
「なら、当面はレベル上げを頑張ってみようと思うんだ」
「わかりました!」
ニッコリと笑うエステル。
「じゃあ、今日はダンジョン攻略の準備をしっかりして、それから潜ってみよう。地図とかも買わないとね」
「はい! 頑張るです!」
両手のこぶしを握ってブンブンと振るエステル。やる気満々である。
「まずは、服どうしようか?」
「服?」
首をかしげるエステル。
「ダンジョン潜るのに俺のパーカーじゃマズいだろ」
「えー、これでいいですぅ」
「ダメダメ! 防御力高いのにしなきゃ!」
「え? この服、今までで一番防御力高いですよ?」
「は?」
俺は驚いた。なぜユニクロで買った3,980円のパーカーの防御力がそんなに高いのか?
「ソータ様のエキスがしみついているからですよ!」
そう言ってエステルは、そでの匂いをクンクンと嗅いだ。
「いや、ちょっと、そういうの困るな……」
一体異世界の神は何を考えているのか? 先輩、頼みますよ。俺は天を仰いだ。
◇
自宅に戻ると、家の前に段ボールが積み上げてあった。昨日Amezonで発注しておいた殺虫剤が届いたようだ。くん煙式殺虫剤『バルザン』と最強の殺虫剤『ハチ・アブ・マグナムZ』を百個ずつ。でも、十万匹の魔物が襲来したらこれじゃ全然足りないのだ。千個ずつくらい用意しないとならないが、そんなの家に入りきらない。異世界に拠点を借りないとまずそうだ。
◇
装備を整えて鏡に潜ると、教会の倉庫に出た。
「えっ!? なんで教会に!?」
驚くエステル。
「エステルは昨日ここで上機嫌だったんだよ」
「あぁ……、なんて罰当たりな事を……」
エステルはしょげるが、美奈先輩がそんなこと気にするとはとても思えない。
「大丈夫、女神様にはちゃんとフォローしておくから」
俺はそう言って元気づける。
「ソータ様……、すごいです……」
エステルは手を合わせてキラキラとした目で俺を見る。
俺は尊敬させたままでいいのか、ちょっと悩んだ。
俺はサークルの先輩によって送り込まれた就活生であり、同時に女神によって選ばれたこの世界を救う救世主である。
尊敬のまなざしは自尊心をくすぐるが……、ちょっと後ろめたい。いつか時が来たらエステルに全部話そうと思った。そして、どんなに持ち上げられても、ただの就活生であることは常に忘れないようにしよう。
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