1-13. 双頭のワイバーン
夕方になり、本日最後のダンジョン・エントリーを行った。
さすがに慣れてきて、俺たちはオークやゴブリンたちを難なくこなしていく。
そろそろ階段が見つかってもいいのに、と思いながら洞窟を歩いて行くと、地面に怪しい筋を見つけた。
「エステルこれって……」
俺が指をさすと、
「あっ! ワナですよ! ワナ! このタイプは落とし穴ですよ」
と、エステルが説明してくれる。
「どれどれ……」
俺は物干しざおでガンガンと、あちこちを叩いてみる。すると、カチッ! という音を立てて床が下へと開いた。
「おぉぉぉ……」
おっかなビックリ穴をのぞいたが、真っ暗で何も見えない。ヒュオォォォ……と風が吹きあがってくる。生暖かく、カビくさい臭いがする。
「どこに繋がってるのかな?」
「うーん、分からないですぅ。でももっと強い魔物が出るところです、きっと」
すると、穴の奥から
「ウォォォ!」
と、かすかに声がして、ガーン! という衝撃音が伝わってきた。誰かが戦っているようだ。
「誰かいるぞ!」
俺は聞き耳を立てた。
(ホーリーシールド……)
かすかに人の声がする。
それを聞いたエステルは驚いたように言う。
「あっ、クラウディアさんです!」
「え? 知り合い?」
「私の先輩のプリーストです。怖いですが、腕は立つです」
「ふーん、じゃ、行ってみようか?」
「え!? 安全第一じゃないんですか?」
「凄腕の知り合いが戦ってるんだろ? 見てみようよ。危なかったら鏡に逃げればいいし」
「うーん、そうですが……」
「で、どうやって降りるの?」
「ホーリークッションという魔法があるです。ゆっくり落ちれるです」
「じゃぁそれで!」
「……。本当に行くんです?」
エステルは乗り気じゃないようだ。
「え? 不安?」
「クラウディアさん、ちょっと苦手なんですぅ」
と、うつむいて言うエステル。
なるほど、ソリのあわない先輩ということだろう。どうしようかな……。
悩んでいると、
(キャ――――!)
という悲鳴が聞こえてきた。どうやらピンチらしい。
「どうやら助けに行かないとならないらしいぞ」
「うーん、じゃぁ、行くです!」
エステルは杖を掲げると、
「ホーリークッション!」
と叫ぶ。するとエステルの身体がぼわっと淡い光に包まれた。
「ソータ様、つかまるです!」
そう言って手を出すエステル。
俺がエステルの手をガッシリとつかむと、エステルは、
「せーの、で飛ぶです!」
と、俺の顔を見る。
俺はうなずき、一緒に
「せーのっ!」「せーのっ!」
と言って落とし穴に飛び込んだ。
魔法のおかげで落ちる速度は緩やかだった。
ふわふわとゆっくり真っ暗な落とし穴の中を落ちて行く……。
ソイヤ――――! カン! カン! グオォォォ!
戦闘音が徐々に大きくなってくる。
すると、急に視界が開けた。そこは大きな広間になっていて、観光バスくらいのサイズの巨大な恐竜に似た魔物が暴れている。二本の長い首をブンブンと巧みに振り回し、翼を大きく羽ばたかせ、挑んでいる四人の冒険者を翻弄していた。魔物はトカゲのような
どうやったらあんなのを人間が倒せるのか、俺には想像もつかなかった。
「双頭のワイバーン!?」
エステルが驚いて声を上げる。
「強いの?」
「珍しいAランクの魔物です! ただのワイバーンならBランクなんですが……。クラウディアさんのパーティだと厳しいかもです……」
と、その時、ワイバーンの二つの頭がそれぞれ大きな口をパカッと開けた。
「来るよー!」
クラウディアが叫ぶと同時にワイバーンがファイヤーブレスを放つ。二つの頭が前衛と後衛にそれぞれ火炎放射を浴びせ、辺りは火の海となった。
「キャ――――!」「ぐおぉぉぉ!」
叫び声が上がる。
火が収まると黒いローブをまとった女性が倒れていて、白い法衣をまとったクラウディアが走って治癒魔法を発動していた。
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