1-9. 捕食された少女
「うわ――――っ! エステル――――!」
俺が駆け寄ろうとすると、いきなり足を取られた。スライムの粘液が周りにまかれていたのだ。
「おわぁ!」
俺は派手にすっ転んで殺虫剤がふっ飛んでいく。
カランッ、カラカラ……
さらにスライムは俺に向けて刺激臭のする粘液をピュッピュと浴びせかけてくる。何という嫌な奴だろうか。
「ぐわっ! ペッペ!」
この間にもエステルは消化されて行ってしまう。一刻を争う。急げ! 急げ!
俺は後ろを向いて予備の殺虫剤を取り出すと、急いでロックを外し、プシューっと吹きかけた。
効果はてきめん。
グモモモ……。
異様な音がして、スライムは溶けて崩れていく……。
そして、エステルがドサッと落ちてきて地面に転がった。
駆け寄ってみると、力なく横たわり、微動だにしない。服はもうボロボロで、美しい透き通った素肌があちこちからのぞいていた。
「おい! エステル! 大丈夫か!?」
俺は抱き起して
俺は急いでみぞおちの上に両手を重ねると、エイエイエイっと胸骨圧迫をおこなってみた。綺麗な形に膨らんだ白い胸が丸見えだが、今はそんなことにこだわっている場合ではない。
「エステル――――! エステル!」
叫びながら何度も何度も必死に押す。
ドジっ子だが可愛いこの少女を失う訳にはいかない。
「おい! 戻ってこい!」
俺は必死に胸を押し続けた。
俺が不注意だった、全部俺のせいだ……。
「エステルぅ……」
涙がポトポトたれてくる。
するとエステルは、
「うぅ……」
と言って、苦しそうな顔をした。
「あっ! エステル!」
俺が叫ぶと、エステルはボコボコっと水を吐いて、
ケホッケホッっと咳をした。
俺は急いでエステルを横向きにして背中を撫でる。
「うぅーん……」
と、声を出し、エステルは目を開ける。
「おぉ! エステル! 大丈夫か!?」
エステルは軽くうなずくとまた、ケホッケホッっと咳をした。
俺は鏡を取り出すと急いでエステルを抱き上げて部屋へと運ぶ。
そしてバスタオルで全身を拭いて毛布でくるみ、ベッドに寝かせた。
弱ってベッドで眠るエステル……。
俺はその横顔を見つめながら、手を握って回復を祈った。
やはりダンジョンは一筋縄ではいかないのだ。
魔物だってバカじゃない、あの手この手で我々を狙ってくるのだ。俺は自らの浅はかさを恥じた。
しばらくすると、エステルは目を開き、こっちを向いた。
「ソータ様、申し訳ございません……」
泣きそうな目でそういうエステル。
俺は首を振って、
「俺が不注意だった。ごめんね」
と、謝り、そっと美しい金髪をなでた。
その後、治癒魔法をかけたいということで一旦ダンジョンへと移動する事になった。どうも日本では魔法が使えないらしい。しかし、服はボロボロ、実質全裸である。俺はTシャツとスエットパンツを棚から掘り出して、エステルに渡した。
フラフラとしながら着替えるエステル。
「うふふ、ソータ様の匂いがしますぅ」
と、力なく笑う。
少しは余裕が出てきたようでホッとした。
エステルはブカブカのスエットパンツのすそを折りたたむと、鏡の向こうをじっくりと偵察する。そして杖を持ってヨロヨロとダンジョンへと入って行った。
しばらくすると、鏡から顔を出して
「もう大丈夫です! 先を行きましょう!」
と、元気に笑った。
俺はホッと胸をなでおろした。
だが……、俺はちょっと疲れてしまって、いったん休憩を入れることにする。
◇
コンビニに行って、おにぎりやジュースなどを買い込む。異世界人は何を喜ぶのか良く分からなかったので、種類多めにして買ってみた。
「エステル、戻ったよー!」
部屋のドアを開けると……、いない……。
「おい! エステル!」
声をかけるが返事がない。トイレにもベランダにもいない。
見ると靴もない。もしかして一人でダンジョンへ行ってしまったのでは?
折角生き返ったのに、一体何をやってるんだあいつは! 俺はまたエステルを失うかもしれない恐怖に真っ青になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます