第18話 レパルドという男
『それより、フィルさん! 片足がなくなっちゃいましたけど、その……大丈夫なんですか?』
『そ、そうだ! 見るからに余裕っぽく振る舞ってるけど、移動とかどうするんだ?』
『何、問題ない。我にはこの翼がある』
フィルは翼を羽ばたかせ、俺達の周りをグルっと飛んでから再び着地した。
『いや、飛べるのは分かるけどさ。流石にずっとは飛んでいられないだろ?』
『まあ、そうだな。二十時間程度なら問題なく飛び続けていられるが、それ以上となると少しばかりの休息が必要になる』
『二十時間……』
それなら全く問題ないな。だから戸惑うこともなく足を切り落としたのか。
あ、そういえば、
『お前がさっき繰り出した攻撃って魔法だよな? 一体、どんな魔法なんだ?』
『あれは凝縮した風を飛ばしているのだ。言うなれば風の刃ってところだな』
へえ、風の刃かぁ。
確かにまるで剣で斬っているみたいだったもんな。
『我からも一つ尋ねたい』
『ん、どうした? もう仲間なんだから、遠慮せずに聞いてくれ』
『そうさせてもらおう。それでカイルについてだが、もしや契約の魔法とやらは使えないのか? 話では普通テイムされる時に、契約の内容を記した魔法陣が浮かび上がると聞いたんだが、そんなものは現れなかったぞ』
そういや、カイルも俺もそのことを伝えてなかったな。
あれ、これってもしやまずいんじゃ……。
『はい、カイルさんは契約の魔法を使えないみたいですよ。ね、アイズさん』
『えっと……、そ、そうなんだ。実はカイルは魔力量が少ないみたいでさ……。もしかして、それを知っていたらテイムされていなかったりする……?』
『案ずるな、ただ気になっただけだ。それよりも貴様らは契約を結んでいないのにも関わらず、ここまでの信頼を置いていたとはな』
ほっ……。良かったぁ。
『ええ、カイルさんは私達を捨てたりなんて絶対にしませんから!』
『そうだな。カイルに限って、そんなことは間違ってもあり得ない。俺が保証する』
『貴様らがそこまで言うからには、カイルはさぞ信頼のおける人間だということなのだろう。我もそれを信じてみるとしよう』
『はい、そうしてください! それと一つだけ言っておきますけど、その貴様らっていうの辞めてもらえます? 私はエリノア、アイズさんはアイズさんという、カイルさんに付けてもらった立派な名前があるんですから!』
『そ、そうだな、すまなかった。これからは控えよう』
鋭い目つきをしながら言ったエリノアに対し、フィルはばつが悪そうにそう返した。
うん、この調子なら仲良くやっていけそうだな。
これで三匹になったことだし、今回の旅は大成功だ。
エリノアもフィルも強いし、これならトーナメントでの優勝も夢じゃないかも。
「三匹とも話は済んだみたいだね。それじゃあ、フィルにも僕達のことを話しとくね。えっと、僕達は――」
俺達の会話がひと段落したのを見て、カイルはフィルに俺達がしていることやこれからの目標について説明してくれた。
『諸々承知した。そういうことなら我も協力させてもらおう』
こうしてフィルを迎え入れた俺達はリリの依頼を果たすため、別の洞窟に向かうことに。
その道中、俺は頭上を飛んでいるフィルに気になっていたことを尋ねてみた。
『なあ、カイルがレパルドのことを様付けで呼んでたけど、偉い奴なのか?』
『あっ、それ私も気になってました!』
『レパルドは大臣の息子、つまりはリバラルティア王の甥に当たる。故に人間からすると偉いのだろうな』
王族ってことか……。
それなら様付けで呼ぶのも納得だ。
『そんな偉い人が強制テイムをしているなんて……。王様にはガッカリです』
『リバラルティア王は比較的まともらしいがな。問題なのはその弟である大臣と息子のレパルドだ。大臣は権力を行使して悪事に手を染め、レパルドはその多額の金を用いて闇魔物商から魔物と強制テイム用のリングを購入する。クズ揃いの人間の中でも、とびっきりのクズ親子だ』
それなら王が注意すりゃ済みそうなもんだけど、そう簡単な話ではないんだろうな。
きっと弟に逆らえない事情とかがあるんだろう。
『そうだったんですね。それなら王様が強制テイムを禁止しちゃえばいいのに!』
『何でも強制的にでもテイムしなければ危険な魔物がいるという理由から、禁止は出来ないそうだ。レパルドの家に居る時、メイド同士が話しているのを聞いただけだから本当かどうかは知らんがな』
なるほど、強制テイムは本来やむを得ない時にするもので、レパルドはそれを悪用しているってことだ。
どこの世界にも悪党って居るんだな……。
その後も話を続けながら歩き続け、別の洞窟に辿り着いた俺達はそこで十分な数の鉱石を入手。
無事に目的を達成出来たことにより、休息を取るためマイラル村へと戻った。
そうして魔物同伴可の宿屋に入り、ふかふかのベッドでひとしきりはしゃいだ後、明日に備えて俺達は休むことに。
『――ゴフォ! な、何だ!?』
痛みを覚えた俺が飛び起きると、腹部に白い足が乗っかっていた。
エリノアめ……。
前から思ってたけど寝相悪すぎだろ……。
『もう……ほれ以上は食べられまへんよー……』
『あ? 何だって?』
『だはら……もうお腹ひっぱいです……』
また何か食べている夢を見ているのか。
相変わらずの食いしん坊具合だな。
よし、ちょっと意地悪してやるか。
『そうか。なら、俺が食べてやるよ』
『そ、それはダメです! もっと食べるんです……』
エリノアは一度ガバッと起き上がり、そう口にしたかと思うとバタっと倒れて再び寝息を立てた。
この位でさっきのパンチは許してやろう。
って、あれ? フィルはどこに……おっ、居た居た。
外なんか眺めてどうしたんだろう。
『まだ起きてたのか。どうした、眠れないのか?』
『うむ。カイルに傷を治してもらったお陰で体力があり余っていてな。意識が覚醒してしまっていて、目を閉じても全く寝付けないのだ』
『え、あれだけ長い時間飛び続けていたのに、少しも疲れていないのか?』
『ああ。お前達が来るまでは、生き長らえるのがやっとの状態だったからな。それに比べれば、健康な状態で数時間飛び続けていることなど他愛もない』
確かに、最初にフィルを見つけた時は瀕死の状態だったな。
でも、どうしてあんな状態で。
フィルほどの強さがあれば、そこら辺の魔物なんて相手にもならないはずなのに。
『そういえば、どうしてあんなところに傷だらけで居たんだ? まさか、あの近隣にとてつもなく強い魔物でもいるのか?』
『いや、あの傷はレパルドが新しくテイムした魔物に付けられた傷だ。実力を測るための道具としてな。そこから逃げ、命からがら辿り着いたのがあの洞窟って訳だ』
それって虐待じゃないか!
ただ捨てるだけじゃなく、痛めつけるなんて……。
『そうだったのか……。すまん、嫌なことを聞いちゃったな』
『気にするな。むしろ今では、そうされて良かったとすら思っている。それによってあのクズから解放され、こうしてお前達と出会えたのだから』
『フィル……』
『さあ、話はここまでとしよう。明日からは城下町に向け、長い道のりを戻るのだろう? 我はともかく、お前はしっかりと寝ておいたほうが良かろう』
『そうだな。じゃあ、俺はもうひと眠りするよ。フィルも眠れそうだったら少しは寝ておけよ』
『ああ、分かった』
俺はベッドに戻り、エリノアから十分離れていることを確認してから、意識を手放した。
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