第4話 従魔同士の交流
バスケかな。それともサッカーか?
この世界にはどんなスポーツがあるんだろう。
『はぁはぁ……。全くリリったら困ったもんだよ!』
『本当に! 自分があたし達を置いて走り出したくせにね』
『でも……そこがまた……リリっぽい』
『あははは、確かにそうね』
二人がどんなスポーツをしているのか想像していたら、後ろから女性達の会話が聞こえてきた。
その声に反応して振り向くも近くに人の姿はなく、居るのはリリのペット達だけ。
これってもしかして……。
『あら、そういえばあなたは?』
俺と目が合ったウサギが口を開くと、それと同時に人間の女性の声が聞こえてくる。
やっぱり……。
これもリングのお陰なのか?
『無視……』
『ちょっと、あんた! 無視はいけないよ無視は!』
『す、すみません。ちょっと驚いてしまって』
『一体、どうしたってのさ?』
『いや、動物と会話が出来るだなんて思ってなくて』
『あー、そういうことだったのかい。テイムされて間もないのなら驚くのも仕方ないね。これはこのリングのお陰さ。アタシ達の中に流れている魔力を利用して、言葉が分かるように変換してくれるって寸法さ』
『リングを付けている魔物同士なら、こうして会話が出来るのよ』
なるほどな――って、魔力って何だ?
俺の中にそんなの流れてるのか?
よし、せっかくだし、この機会に色々教えてもらおう。
『あの……、魔力って何ですか?』
『そんなことも知らないの!? ……いや、見たところまだ生まれたてっぽいし、知らないのも仕方ないよね。ごめんなさい』
『魔力は……生きとし生ける全ての生物に流れている魔法の力……あなたやポポ達はもちろん……リリやカイルにも流れている……』
『ただ、人間の持つ魔力とアタシ達みたいな魔物が持つ魔力は別物だから、アタシ達の言葉は理解してもらえないのよ。アタシ達は理解出来るんだけどねぇ』
魔法の力か……。そんな物が俺の中にも流れているんだな。
感じた試しは一度もないけど。
それとこの世界では動物は魔物っていう括りなのか。
それとも動物と魔物はまた別なのかな。
まあ、それはいいか。
『そうなんですね。ご丁寧にありがとうございます』
『それで、あなたは一体何者なの?』
あっ、自己紹介をしていなかったな。
『僕はアイズ。カイルのペットのドラゴンです』
『ペットって……何……?』
そうだった。
この世界ではペットのことをジュウマって言うんだっけな。
『ジュウマです』
『カイルの側に居たから、もしかしてとは思ってたけど本当にカイルの従魔だったのね。あっ、あたしはピピ!』
『アタシはモモさ! カイルの従魔ってんなら、そんな堅苦しい話し方はよしてくれ。マスター同士、仲が良いことだしアタシ達も仲良くしようじゃないか』
『ポポはポポ……よろしく……』
えっと、ウサギがピピ、熊がモモ、植物のゆるキャラがポポだな。
よし、覚えたぞ!
『よ、よろしく!』
『あいよ! それにしても、まさかカイルにテイムされるなんて、あんたは変わってるね。リングが銀色ってことは強制テイムでもないようだし、懐きテイムなんだろ?』
……何のことを言っているのかさっぱり分からん。
テイムって良く聞くけど何なんだ?
『あの……』
『ん、どうしたのさ?』
『テイムって一体どういう意味?』
そう尋ねた瞬間、三匹は口をぽかーんと開け、目を丸くした。
これ、明らかに悪い意味で驚かれているよな……。
『もしかしてテイムの意味も知らないのに、テイムされたってことかい?』
そのテイムっていうのが分からないけど、カイルがそう言っていたし多分そうなんだろうな。
『う、うん』
『なるほどね。これでカイルにテイムされるのも合点がいったよ』
『テイムは……人間の仲間になるってこと……お仕事を手伝ったり……人間のために戦ったりする……』
つまり単なるペットではなく、相棒という関係性になるってことか。
警察犬や盲導犬みたいなもんだと考えればいいんだな。
それなら俺はカイルの相棒に喜んでなるけど、どうしてカイルにテイムされることをそんなに珍しがるんだろう。
『テイムの意味は分かったけど、カイルにテイムされるって普通はおかしいことなの?』
『えっとね。テイムには三種類あって、普通は契約の魔法を結ぶことで魔物は人間にテイムされるの。そうすることで、この国の各地にある餌箱を自由に開けられるようになるわ』
『それと一度契約したら両方が合意しない限り解除出来ないから、アタシ達は契約に応じれば一生食べ物に困ることはないって訳さ』
なるほど、契約は魔物にとって大きなメリットがあるから応じて、その代わりに人間に協力するってことだな。
『でも……カイルは契約の魔法を……使えない……』
『えっ、そうなの?』
『ええ。生まれつき魔力がほんの少ししかないみたいで。契約の魔法を唱えられないとなれば、魔物側に利点がないから普通はカイルみたいな子にテイムされないのよ』
『契約がなければ……いつ捨てられるかも……分からない』
ふむふむ。
その契約の魔法とやらが使えないから、小太りの少年に落ちこぼれ呼ばわりされていたのか。
『それで後の二種類は?』
『契約の魔法なしで、心を通わせてテイムするのを人間達は懐きテイムって呼んでるよ。そんなのでテイムされる魔物なんて居ないと思ってたけど、あんたが居たわ』
『もう一つは強制テイム……黒いリングを付けられると……意思を無視してテイムされちゃって……後は命令に絶対服従……』
『強制テイムをするテイマーは本当にクズよ。カイルは魔力こそ少ないものの、強制テイムに手を出さなかったからあたしは好きなの。もちろん、一番好きなのはリリだけど!』
だんだん分かってきたぞ!
カイルは契約の魔法を使えないことで中々魔物をテイムできない中、俺がテイムされたからあの時大喜びしてたんだ。
契約していない以上、俺には捨てられて路頭に迷ってしまうというリスクがあるみたいだけど、カイルに限ってその心配はいらないだろう。
『良くわかったよ、ありがとう!』
『どういたしまして。テイムされたのがカイルで良かったわね』
多分ピピは、俺が考えたのと同じことを考えたんだろうな。
――あっ、そういえばもう一つ聞きたいことがあった。ついでに聞いておこう。
『うん! それともう一つだけ聞いていいかな?』
『何でも……どうぞ……』
『トーナメントって何を競うの?』
『テイムした魔物同士を戦わせて、最強のテイマーを決めるのよ。さっき本人が言っていたけど、カイルもエントリーするんでしょ?』
『う、うん。そうらしいけど……』
『リリもエントリーするから、もしかしたらアタシ達と戦うことになるかもしれないね。その時はいくらカイルとあんたでも容赦しないよ!』
『ボコボコに……する』
開いた口が塞がらなかった。
ただカイルとリリがどんなスポーツをしているのか聞きたかっただけなのに、まさか俺が戦うことを知らされるなんて。
人間だった頃、一度たりとも喧嘩したことのない俺がどうやって戦えってんだ……。
『おっ、二人とも戻って来たみたいだね』
モモが指を差した方向に目をやると、カイルとリリが笑顔で会話しながら近づいてきていた。
何だか楽しそうだな……絶望に打ちひしがれている俺と違って……。
「お待たせ、みんな! 良い子に待ってた?」
「どう、アイズ? リリの従魔達と仲良くなれた?」
ああ、お陰様で。とんでもないことを聞かされたけど……。
「よし、じゃあ私達はもう行くね! お仕事の途中だし、早く帰らないと」
「うん、リリのお陰でスムーズにエントリー出来たよ、ありがとう! それじゃ、またね!」
『また何か分からないことがあったら聞いてちょうだいな。アタシ達はもう友達だから』
『またね、アイズ!』
『バイバイ……』
『おう! 今日は色々とありがとう!』
リリはカイルに、三匹は俺に別れを言うと、街の奥へと歩いていった。
「じゃあ、アイズ。僕達も行こうか」
カイルはそう言いながら再び俺を肩に乗せ、どこかに向かって歩き出した。
その間、カイルは色々なことを俺に話し掛けてきて、カイルとリリは幼馴染かつテイマー養成学院とかいう学校の同級生であったこと。
リリは早くに母親を亡くしていることの二つが分かった。
テイマー養成学院っていうのがよく分からないけど、名前から推測するに魔物をテイムする人間のことをテイマーと呼び、そのテイマーを育成する機関のことを指すのだろう。
そうしてしばらく話を聞いていると、カイルと俺は街の端にある門に辿り着き、そこで門番をしていた兵士に話し掛けられた。
「おっ、どこか行くのか?」
「はい、すぐ近くの森へ行こうかと」
そう言いながら、カイルはポケットから取り出したカードのような物を兵士に手渡した。
「ふむ。テイマーになってから二年目か。あの森なら魔物も弱いし、問題ないだろう。よし、通行を許可する! 暗くなる前には帰るんだぞ!」
「はい、ありがとうございます!」
兵士が門を開くと、西に大きな森が見える。
今からあそこに行くつもりなのか。
でも、魔物が出るって言ってたし危険なんじゃ……。
俺のそんな不安を知る由もなく、カイルは森に向かって歩みを進めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます