4.閑話 マリアの困惑と奮起
なにこれ! なにこれっ!? どういうこと!!
天空神の聖女ってなによ! 聖女は聖女でしょ!?
なんで私以外に聖女がいるのよっ!
聖女に認められる過程も、想像していたのと違ったし!
称号なんて知らないわよ! 聖者の書ってなによ!
そもそも勇者? 賢者? 魔王? なんでそんな和製RPGみたいな存在がいるのよっ!
いや、勇者も賢者もイケメンなのはいいんだけど。
それになんでセントリアス神聖帝国とカーライル魔導国以外の二国以外の超重要人物やその子供な感じの生徒がクラスにいるの!?
その二国以外の国の名前なんて出てもこなかったと思うんだけど!
わたしはなんちゃって中世ファンタジー系学園モノ乙女ゲー『セントリアスの聖女』のヒロインに転生したんじゃなかったの!?
あの広告に騙されて買っちゃった死ぬ直前にプレイした中身スカスカの駄作乙女ゲー。ゲームとしては駄作だけど、ヒロインとして生きるなら、あのシンプルで容量少ないスカスカのシナリオは再現簡単だって喜んでたのに!
ちょろい攻略対象とあっさり結ばれて、ヒロインへの嫉妬で呪われた血に目覚めて魔女になった魔導国の王女を倒してハッピーエンド。その後の幸せな生活も二、三行のテキストで保証済。
ほんとスカスカの駄シナリオだけど、簡単にイケメンと結ばれて、お金持ちになれて、みんなに愛されて、幸せになれるとか、現実ならサイコーっ! って思ってたのにぃ!
あわよくばちょろい攻略対象達を同時攻略で逆ハーレムも、って!
そりゃあ、ちょっとは変だと思ってたわよ。
子供の頃に、前世の記憶を思い出して、死ぬ数日前にプレイして酷評レビューしまくった乙女ゲーといろいろ重なる名称とか、自分の周囲とかいろいろ把握した後。あのプレイヤーとしては最悪、でも現実ならサイコーのお手軽乙女ゲーヒロインに転生したと確信して、「やったー!」って喜んで。
……そういえば、あのスカスカ乙女ゲー。今思えば、ヒロインの生まれとか、両親の名前とか、ただでさえ少ない容量を無駄に使って、その辺は要らないくらい描写してたわね。
それはともかく、なんか、親の話とか、学校で教えられることとか聞いてると、あの駄作乙女ゲーには出てこなかった、それにやたらとイメージが違い過ぎる単語とか沢山出てくるなー、って。
でもでも、わたし自身に関しては、あの駄ゲーのヒロインで間違いなさそうだし。
もー、ほんとにどうなってるのよー!
「どうかしたのかい? マリア」
「え……。ううん、なんでもないわトーレス」
いけない、いけない。
いろいろと衝撃的過ぎて、ついつい考えこんじゃってた。
せっかくとりあえず手軽な自国攻略者との印象的な出会いを済ませて、一緒に行動しているんだから、ちゃんと攻略対象者たちの好感度稼ぎしないと。……まあ、こいつらちょろいから、そこまで気にしなくてもいいんだけど。
「そうかい? カイン……イデアル王国の勇者殿と話した後から、少し様子がおかしかったようだが」
「ふふ、気のせいよ。勇者が同級生というのはちょっと驚いたけど」
「……まあ、勇者と言っても、カインは、召喚された勇者ではなく、イデアル王国の勇者だけどね」
この、わたしの反応に、ちょっと勇者に対する嫉妬を滲ませた声を出すキラキラしたイケメンは、メイン攻略対象のトーレス第三皇子。
基本的にはいいやつだし、差別意識とかもなく、皇子でありながら親しみやすい性格なんだけど。
何気にコンプレックス気質なのよねー。
まあ、第三皇子ってことで、生まれた時から、帝位継承者とそのスペアとして何の不足もない優秀な兄二人が居て、姉と妹も優秀で。
トーレス自身も優秀ではあるんだけど、秀才タイプで、天才タイプの兄弟に引け目を感じちゃって。
追い打ちで、婚約者のアンジェラが貴族の中の貴族、って感じで、特に優秀で、あの押しの強さに似合わないことに、何気に慈愛深い性格で、既に慈善活動でも成果を上げて、人望も厚いっていう。
規律を重視しあの性格のキツさなのに、何気に理解もあって、トーレスルートではあっさり身を引いて、それどころかフォローまでしてくれるし。
ただ他のルートだと普通にトーレスとくっつくのよね。
わたしはワンチャンゲームでルートの無い逆ハー狙っているから、アンジェラは敵なのよね。
どうやって対抗しようかしら。
ともかく、そんなわけでトーレスは心の奥底に、自分でも気づかずに卑屈な性質を秘めていて、だからちょろいのよねー。
イケメンだし、基本的に性格はいいし、秀才だろうとちゃんと優秀なんだし、皇子なんて良い生まれでお金もあるんだし、コンプレックスなんて抱く必要ないのに、とわたしは思うんだけど。
持つ者の悩み、ってやつ?
まあ、攻略が簡単なのはわたしにとっては良いことなんだけどね!
「マリアさんも天空神教の聖女です。その格は決して勇者にも劣りません。勇者が同級生だからと特別に感じる必要はありませんよ」
「ふんっ、勇者などと言っても、どれほどのものだか」
「やれやれ、グレイ。あなたがどのように思おうと勝手ですが、決して本人にそのような態度は取らないでくださいね。勇者とは友好的な関係を築いた方が、色々な意味で利益は大きいでしょう」
ボーマンとグレイは勇者に対して思うところがありそうで、スナトは計算高いことを言っているわね。
ボーマンはダウナー系の敬語キャラなんだけど、ちょっと天空神教を特別視し過ぎている感じの、何気に狂信的な男?
ゲームでは描写がスカスカだから、狂信的なヤバイ感じの行動は無かったけどね! それに天空神教とか、宗教の名前も書かれてなかったし。
聖女であるヒロインをひたすら特別視しているから、落とすのは簡単。というか最初っから落ちてるのかしら?
恋愛的な意識は最初持ってないけど、ちょっと切っ掛けがあればすぐに意識するようになるし。
攻略対象だから見た目は普通にいいんだけど、ちょっと印象が薄い見た目なのよね。
グレイは分かりやすい脳筋キャラね。高身長細マッチョで、その整った筋肉は、本気のマッチョは暑苦しくて嫌なわたしでも、見ていて楽しいと思えるわね!
野性的なイケメンって感じなんだけど、シナリオを見ていて、ちょっと考えが足りないなー、ってキャラだったわね。
だからヒロインが手を貸せる場面が多くて、そこから簡単に攻略できるんだけど。
一応家柄的に、鍛えているから剣は得意、なんてフレーバーテキスト的な説明はあったけど、具体的にどの程度の腕前なのかは分からないわ。
スナトは涼やかな顔立ちの眼鏡イケメン。計算高くて冷淡なんだけど、ヒロインの優しさにあっさりと心を動かされてデレる偽クールキャラよ。
この四人は、もう懐に入り込んでいるから、攻略は時間の問題。
残る攻略対象は三人。
まずは魔導国の王子カイル・ウィ・カーライル。艶やかな黒髪とミステリアスな紫の瞳のセクシーなイケメン。ヒロインによってすぐに真実の愛に目覚めちゃう遊び人(笑)。
そもそもシナリオ上口説くのに成功するのがモブ女キャラだけっていうね。まあ、ゲーム的な都合なんだけど。
ゲームのラスボスな魔女になるアラディア・ウィ・カーライル王女の兄でもあるわ。
アラディア王女といえば、殆ど描写も無いキャラなのに、最後いきなり呪われた血の封印だかが解けて魔女になって暴れ出すとか、まさに駄作要素の一部よね。前振りなさすぎ。
そもそも特にヒロインに興味も無さげだったのに、魔女として目覚めたとたん、ヒロインに異常な敵意向けてくるし。なんなのかしら、あれ。
次に三年生でクラスは五組の、平民の特待生ジーク。性格は野心的で皮肉屋だけど、栄養が足りてないから先輩なのに見た目は灰髪のショタ。ヒロインの前ではすぐに皮肉屋どころか照れ屋さんになるわ!
最後に教師のティーチ・ハミルトン。神聖帝国のハミルトン侯爵家三男。常に微笑を浮かべた温厚な性格の青髪で糸目の紳士。大人の包容力があるキャラとして描写されているけど、一回り以上年齢差のあるヒロインにあっさり落ちちゃうのよね。担当しているクラスは二年生ね。
とりあえず三人とも、まずはきっちりゲーム通りの出会いイベントをこなさないとね!
なんだか同級生には勇者をはじめ、他にもすっごいイケメンが何人か居るんだけど、駄作乙女ゲーのちょろ攻略対象達と違って、攻略できるかどうか分からないから、まずは様子見ね。
チャンスがあれば狙っていくけど、下手に手を出したら大変なことになっちゃうかもしれないしね。
ちょろい攻略対象達は逃さず確実に攻略しないとね!
よーし、がんばるぞー!
それじゃあ、ひとまずは、四人としっかりと親睦を深めましょうか。
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