第8話

「…なるほどね。野崎さんが百目鬼の部屋を出た時まだ真宮って人はお皿を持っていた…。もし今もそうなら彼を引き抜けば勝てるってことね…」

「ウチもっかいチームのフリしてあっちに近づいてみたろか?」

「いいえ、野崎さんがチームから抜けたことは流石にバレてるわ。それにできれば真宮って人とだけコンタクトを取りたいところね…」

話をしていると二階から加藤が駆け降りてきて叫ぶ。

「おい、二階が燃えてる!消火を手伝え!」

神楽と野崎が不審がって顔を見合わせていると加藤がまた叫ぶ。

「何やってんだ!ペンションが燃えちまったらゲームどころじゃねえぞ!」

「仕方ないわね。あなたはここにいて」

神楽はそう言うと成瀬を食堂に残して野崎と二階へ向かった。

二階はうっすら煙が広がっていたが特にどこか燃えている様子はない。

「ねえ、火元はどこ?」神楽が尋ねた時どこかで何かが割れる音がした。

二人が血相を変えて食堂へ戻ると割れた皿を抱え座り込む成瀬と震えながら箒を持つ真宮がいた。

「アンタ何してんねん!」野崎が怒鳴る。

「只今真宮様によって成瀬様のお皿が破壊されました。よって真宮様は退場となります」ディオルバの声でペンション内にアナウンスが流れると真宮は黒スーツの男たちに抱えられ外へ連れ出された。

「なおゲームが中断されましたので終了時刻は6時10分となります」再びアナウンスが流れる。

「いちいち延長しなくていいのよっ…」

「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ」謝る成瀬に神楽が駆け寄る。

「あなたは悪くないわ。それより怪我はない?」

コツ…コツ…。二階からゆっくりと降りてきたのは百目鬼だった。

「くっくっく。いやぁ愉快、愉快。こんなにも上手くいくとはな…。これで君たちの皿はもうない。つまり私の優勝が決定したということだ」

神楽が百目鬼を睨みつける。

「どうして…。確かに相手チームのお皿を破壊すれば勝てる…それくらいは私も考えていたわ。けど壊した人は借金が確定するのよ。あなたのチームにそこまでの信頼関係があったとは思えないわ」

「簡単なことだよ。これさ」百目鬼は赤い石を見せた。

「レッドダイヤモンドだ。価値は1億を超える。彼は目が利くようで本物だとすぐに理解したよ。つまり私を信じたのではなく自分の目を信じたということだ」

「それも納得がいかないわ。先にダイヤを渡してしまえば彼に退場する動機がなくなってしまう…かと言って退場後に渡すのではやはり信頼が必要よ」

「その通りだ。だから私は二階の窓からダイヤの入った箱を外に投げたのさ。私が優勝すれば鍵を受け取れるって寸法でね。信頼などいらん、ココを使うんだ」

百目鬼は自分の頭を指差した。

「そんな…」神楽は下を向いて悔しがる。

「大体なんでアンタそんな高価なもん持ってんねん!金あるんやったらこんなゲーム参加する必要ないやろ!」野崎が睨む。

「私はこのゲームが7戦目なものでね。確かに最初は金が欲しかったさ。だがそれ以上の快楽がこのゲームにはある。人を欺き貶めても何ら問われないんだ。こんな素晴らしいゲームが他にあるかね?」

そう言うと百目鬼は高笑いをして消えていった。

「あー胸糞悪いわ!わざわざ勝利宣言しにくるやなんて根性ババ色やな!」

野崎は消えた百目鬼に中指を立てた。

「今度こそダメかもしれないわね…」神楽が呟く。

「ちょっと諦めるん!?やられっぱなしでええのん?」

「彼が退場してしまった今、勝つ方法はもう百目鬼から直接奪うしかない…。でもそんな方法あるかしら」

落胆する神楽のもとに成瀬が歩み寄る。

「あの…これ」成瀬は割れた皿を神楽に見せた。

「一番下のお皿だけは割れてなくて…」

「ほ、ホンマや…。傷ひとつない…」

神楽はその皿を手に取ると胸に抱きしめた。

「ありがとう成瀬さん、守ってくれて」

「どや?1枚あったら何とかならへん?」

ぐうう…。神楽が考えていると誰かの腹の鳴る音がした。

「ウチやないで」野崎がすぐさま反応する。

「あの私、部屋に食べるものあるので良かったら…」成瀬が言う。

「ホンマ!?食べる!!」

「ちょっと、食べてる場合じゃないでしょ」

「まあまあ、武士も食わねば高揚枝って言うやろ?」

「…それどういう意味よ。あと漢字間違ってるわよ」

「はあ?なんでそんなん分かんねん!脳内見えたんか!」

二人が言い合いをしていると神楽の腹も鳴った。

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