生徒会1


「私は生徒会長を務めるアレックス。三年生だ。気軽に会長と呼んでくれて構わないよ」


「僕はルーク。副会長を務める同じく三年生だ」


「私はアマリアと申します。私も三年生で、会長補佐と書記に携わっていますわ」


「会計のリンダです。特待生としてこの学園に入りました。平民ですが、アトワール商会の後継でして、卒業後に男爵をいただくことになっています。現在二年生です」


「僕は広報のソロモン。ソルと呼んでくれ。リンダと同じく二年生だよ」


 生徒会の面々からの挨拶を受け、アンナルチアも母から学んだ淑女の礼をとる。


 学園長から入学式前日に呼び出され、アンナルチアは生徒会室へと連れて行かれた。首席入学したことで、自動的に生徒会役員へと推薦されるらしい。入会するかしないかを選ぶのは本人だが、生徒会役員になれば奨学金制度の監査にもプラスになると聞いた。アンナルチアに入会しないという選択肢はない。


「アンナルチアと申します。ご指導の程よろしくお願いいたします」


「へえ。まだ13歳でしょ、ずいぶん礼儀ができてるんだね」


「ありがとうございます」


「アレックス、失礼だわ。女性は生まれた時から淑女レディなのよ」


「これは失敬。レディ・アマリアはもう少し崩してもいいと思うけど」


「まあ、私が堅苦しいとおっしゃるのかしら」


 アマリアが怒ったように腕を組むと、アレックスが慌てて謝罪をする。そんな様子を見ていると、ルークが苦笑してアンナルチアに話かけた。


「アレックスとアマリアは婚約者同士なんだ。いつもこんな調子だから気にすることはない」


「まあ。では、やはりアレックス第二王子殿下とアマリア・ランドール侯爵令嬢様でしたのね」


 アンナルチアが感嘆しながらそう言うと、おや、と言うようにみんなが顔を向けた。


「アンナルチア嬢はまだデビュー前なのに、よく知っていたね」


「はい。事前に学園の主要な人物は覚えておきましたので」


「へえ。それはすごい。今年の新人は出来がいいぞ。みんな気を緩めるなよ」


 アレックスの言葉にアンナルチアは首を傾げた。それを補うようにルークが付け足す。


「生徒会は実力主義なんだ。成績が落ちれば生徒会からは外されるし、できる人間は重要な地位を任される。貴女にはひとまず庶務から始めてもらうけど、適材適所で変動するから全員で全ての役割を把握しなければいけないんだよ。勉強と合わせて大変だけど大丈夫かな?」


「は、はい。尽力致します」


 つまり生徒会はエリート中のエリートということか。学園での覚えがめでたければ、将来王宮での仕事も有利に働くかもしれない。アンナルチアはグッと拳を握りしめた。


「ねえ貴女、奨学金制度を使ったと聞いたのだけど」


 リンダが興味深そうに声をかけた。王都でも有名なアトワール商会の娘だ。アンナルチアの伯爵領でも衣料品や嗜好品が出回っていて、街でも人気があった。卒業後は男爵をもらうと言っていたが、この王国で女性なのに男爵位を叙爵されるなんて、学生でありながらどれほどすごいことをしたのだろうか。


「私も奨学金制度を使っているのよ。女生徒では貴女が二人目だと聞いたわ」


「そうなのですか?」


 つまりリンダが初めの一人で、アンナルチアが二人目ということだ。なぜ皆利用しないのだろうとアンナルチアは首を傾げた。


「ええ。奨学金制度はほんの数年前にドイル公爵夫人が推奨して導入された新しい制度なのだけど、嘆かわしいことに、貴族の令息令嬢はどうにもプライドが高くて使う方は居ないらしいのよ。私のような平民の特待生か、爵位の低い次男三男の令息が箔付のために使われるだけなのですって。知名度は低いとはいえ、貴族令嬢である貴女はどうして奨学金制度を使うことにしたの?」


 リンダがそう言って目を細める。


 これは、喧嘩を売られているのだろうか。


 アンナルチアはリンダを見つめた。生徒会に入るくらいなのだから、馬鹿ではないはずだ。平民でありながら特待生として貴族学園に入学し、奨学金制度を使っているということは相当の努力をしているはず。だとしたら、試されているのか。プライドが傷つけられたと喚くとでも思っているのかもしれない。


 二度、三度と瞬きをした後、アンナルチアはにこりと微笑んだ。


「私は端くれとはいえヴィトン伯爵家の長女で、下に弟が二人いますの。お恥ずかしながら、我が家はそれほど裕福ではなく、私が贅沢をして学園に入学してしまうと両親にも、下の二人にも負担がかかりますでしょう。でしたら長女として、姉として見本を見せるべきだと思いましたの。勉学は誰もに与えられたものではなく、自ら学ぶ姿勢を見せ、掴んで行かなければならないと。ですから私は奨学金制度を選び、常に上昇志向で励み、自分の進みたい道をこの手で掴みたいと思っていますわ」


 その言葉にリンダはキョトンと目を丸くし、一拍置いてアメリアが拍手をした。


「素晴らしいわ。私、アンナルチア嬢に感服ですわ!リンダもそう思いませんこと?」


「まったくです。本当に13歳とは思えないくらいだわ。アンナルチア様、試すようなことを言って御免なさいね。私、貴女の性格を見せていただきたかったんです。これでヒステリックに怒り出すのか、侮辱されたと泣き出すのか。それによっては生徒会としては違った対処も考えていたものですから」


 ああ、やはり。


 リンダに発言を任せたのも彼女が平民だからだ。生徒会役員の方々は、アレクサンダー第二王子殿下に、アマリア侯爵令嬢、記憶が正しければ、ルーク様はエドモントン伯爵家の御子息、ソル様はゲイツ子爵家の御子息だ。


 貴族の中には家系が上だからといって、自分の方が上だと勘違いをし、下位貴族に対し横柄に振る舞う子息令嬢もいる。生徒会は実力主義だと言ったし、家名を使わず、個人として言動には責任を持つことが多いようだと自己紹介の時に気がついた。


 にもかかわらず、リンダだけは家名を出し、商会の娘だと告げた後、男爵の地位も叙爵すると仄めかした。つまり、自己紹介の地点ですでに煽りを入れていたわけだ。


 恐るべし生徒会。新入生にも容赦なしだ。


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