四話 恐怖の三者面談
「あ、姉ちゃんオレオレ。実はちょっと困っててさ。いやオレオレ詐欺じゃないから。孝だって。声が変? それはまあ、ね」
「流れるように捲し立てるね。お姫ちん」
「こういうのは勢いが大事だからね。もう家の前に来てるから入るよー」
家族に事情を明かすと決意してから翌日。在宅ワークで比較的、好きな日に休暇を取れるタラコ唇さんを連れて実家に帰省しに九州くんだりまでやって来た。
行方不明だと警察に捜索されても困るからね。行方不明者届が出る前に行動すりゃ単に仕事をぶっちして自主退職したよくいるサラリーマンで終わる。
マンションと銀行口座の問題も家族さえ説得できれば解決するし。
届け出もない行方不明者の捜索なんて、警察もわざわざやるわけがないんだよなぁ。
「そ、それって実は怖い話?」
「怖いよー。行方不明者届が出ている人に限定しても、毎年8万人も日本で行方不明になってんだから」
「ひぃっ」
まあ行方不明者の8割は一週間以内に発見されてんだけどね。
日本の警察はマジで有能だから。なめちゃあかん。ここまで外見が変貌してても捜査上で関係者だと浮上するのは間違いない。
だから敵に回す前になんとしても問題を解決しなくちゃならない。指名手配されて隠れ潜むなんて論外だ。
「えっと、どちら様?」
「どもっす」
怪訝な顔をする姉の姿を見ながら密かに決意した。
「ハハハハッ。可愛くなっちゃってまぁ。ねえ、女になって目覚めた時、どんな気持ちだった? ねえねえ、どんな気持ちだった?」
「死ねばいいのに」
俺の姉だけあって話は早かった。リンクのチート能力が手に入る前は荒唐無稽すぎて現実バリアの前に説得すらも諦めたが、本物の変身魔法を習得したんなら話が違う。
まあ、ずっとガチトーンで女に生まれたかったのかとか、男が好きなのかとか質問され続ける羽目にはなったが。
いっそ殺せ。
グロッキーになりながらも諸々の説明が終わって酒盛りしてテンションがおかしくなってるのが今だ。
「それで真帆さんとはどういう関係なの?」
「嫁」
「ふひぇ?」
飲んでいた酒を吹き出して咳き込むタラコ唇さん。恋バナに免疫ねえなぁ。
「おねロリって奴じゃん。ヒャハハハッ」
酒の酔いも加わってモヒカンになる姉。混沌としてきたな。
タラコ唇さんが慌てて色々と言ってるが聞いちゃいねえ。
「そういやさ、タカ坊はチートを配れるらしいじゃんか。アタシにもちょうだいよ」
「いいよー。代金は死後の魂な」
「ええっ。身内からも取るのーぅ」
「死んでも生き返れるとか蘇生チートみたいなもんだろ」
「なるほど。その発想はなかった」
んん。こうして諸々の事情を暴露した後に下僕化チートを施そうと思ったら、隠し条件が達成されたのか前の時と違う仕様が現れたぞ。
ネトゲ越しに覚醒させたチートはタラコ唇さんだけじゃなく、ギルメン全員が同じリンクのチートだと思う。
作成キャラによって個体毎に能力は全く変わってくるがチートの内容は同じだ。俺もアリス姫以外のキャラに変身したきゃ別のキャラを育てたり別のネトゲを一から始める必要がある。軽く検証してみたが、アイテムボックスこそ使用できるがゲーム内のアイテムは持ち出せないし、現実のアイテムをゲーム内に持ち込むことも出来ない。装備として肉体と一緒に具現化した武器も見かけ倒しで今は包丁の方が強い。これはシンクロ率の向上で変化するかもしれんが。
だが、これから姉が覚醒するチートは全くの別物だ。
「なあ、姉ちゃんはどんなチートが欲しい?」
「選べんの?」
「望み通りのチートじゃないかもしれないけど、希望は反映されるっぽい」
俺が神様から貰った時みたいに。この仕様が判明して良かったな。スキルコピーのチートが仕事しないとこだった。
「それじゃ肌をピチピチにして。水をはじくような十代の肌に」
「フフフ、欲望ダダ漏れじゃんか」
「うるせーぞ、ネカマ野郎」
やめろ戦争になるぞ。
「美貌が欲しいの? それとも若さが欲しいの?」
「そこ別枠?」
「っぽいな」
「うーん、そうか別枠なのかー」
苦悩するように頭を抱える姉。まあ、そこそこの美人だから迷うのはわかる。
現状でも若けりゃクラスのマドンナくらいならなれる。でも芸能界で活躍できるかっていうと……って感じだからな。
「しゃ決めたぜ。若さだ。どんな美貌も年にゃ勝てない」
キメ顔で啖呵する姉をタラコ唇さんが羨ましそうに見ている。詐欺っぽく勧誘してごめんね。
まあ、死後の魂は年なんか取らないから、嫉妬しなくていいんだけどね。
姉には教えない。教えたら美貌を取ってしまう。俺が現状で最も欲しい若返りのチートを取らなくなる。
寿命差で先に俺が死んだら意味は全くないけれど、一人だけで延々と生きていくのは辛いだろうしエインヘリヤルに合流してくると思う。
ま、チート内容は俺にも操作できないし取らぬ狸の皮算用か。若く見えるだけのガッカリチートかもしれん。
全ては神の思し召しってね。
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