三十二日目③

※残酷描写注意※


[side:シン]




 甘い蜜の香りには似つかわしくない光景だった。部屋には青い血飛沫が散り、ベッドには首の無い彼女の姿。首はザッと見た感じ無いらしく、部屋には男が二人いる。一人は彼女の側近……だと思うが容姿が微妙に違い、手が刃物の様なモノで尖っている。もう一人は今日招いた客人の一人だ。此方は大きな剣を持っている分、彼女の首を刎ねやすいだろう。


「……彼女を殺したのは、どちらだ? 共犯……という雰囲気でも無いようだが」


 意外と冷静な自分の声が、ヤケに遠く聞こえた。




ーーーーーーーーーーーーー




[side:主人公]




「此方が犯人です。この人がエテルニテ…様を殺しました」


 予想通り、ローイ……いや、ロイコの先制攻撃だ。


「コイツの言ってる事は嘘だぜシンさん。俺らをシンさんに殺させてコイツだけ逃げる気なんだ」


 無駄だとわかっていても言わずにはいられない。きっとこの状況的に俺が死ぬだろう。シンさんは見定めるような表情で俺とロイコを見た後、エテルニテのベッドへとゆっくりと近寄った。視界の端でロイコがピクリと動いたのが見える。


「エテルニテ、君は……ううん、君もこの姿をコイツらに見せたく無いだろう? 頭は無いけど、これで隠してあげるから」


 シンさんは壊れ物を扱うような手つきでエテルニテの遺体を布団で隠すと、腰に携えていた細身の剣を抜いた。


「お前がエテルニテを殺してないのは一目で分かった」


 事務的に言葉を発しつつ、ローイの喉仏辺りから腹部まで、ラインを引くように切るとシンさんは細身の剣を鞘に戻した。


「ま"、ぼく、に"いさ、」


 ロイコは信じられない、という表情を浮かべながら後ろに倒れ、そのまま声を発しなくなった。死んだのか。


「……ふぅ。それで、エテルニテの頭部は何処だい?」


 先程までの冷酷な部分がまるで無かったかのように、シンさんは柔和な微笑みを浮かべて俺を見つめた。正直怖い。


「シンさんが来る前までローイが蹴ってたから……ベッドの下だと思う。距離的に其処が隠し易いし」


「そう。もう君は行って良いよ……少し、エテルニテと二人にして欲しいんだ。あぁ、あの獣人親子は無事だよ。少し手荒に寝かせてしまったけど、それだけ。さ、もう行きな」


 安心する間も無く追い出されてしまった。

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