二十九日目
道中では何も無く、怖いくらい順調にエルフの里へ辿り着いた。が、ライムさんが予想していたような人間にとっての楽園は其処になく、ピリピリとした重い空気を纏ったエルフ達に素っ気ない対応をとられ続け、今俺たちは宿屋なうだ。
「……これ、本当にエルフの里か?」
ライムさんとロンくんはベッドにドーンと座り、俺とモードとリクは床に座っていた。俺らの想像してたエルフの里と違う。
「アー……もしかしたら、逃亡者の所為かもな~~。逃したの俺様だしな、うんうん」
さも今思い出しました、というポーズを取り、サラッと重要そうな事言いやがった。
「理由絶対それじゃねえかぶっ潰すぞバカモード!」
「ごめんなさいィー!! 俺様もエルフの里来るまでにわーすーれーてーたーのォー!! ごめんソーリー!!!!!!」
「勢いがあればなんでも許されると思わないでくださぁい。もうこの黒エルフさん、薬の実験台に使ってやりましょ」
俺は土下座をする勢いで謝ってきたモードを一発ぶん殴り、ライムさんはモードの頭を踏んだ。これぐらいでも足りないがもういいか。
「俺様の幼なじみを連れて来てやる。そいつなら子天使の場所知ってる……筈だ」
「マジか! じゃあ行ってこいサッサと行ってこい逃げないよう金と商品は貰っておくぜ」
モードの返答を待つ事もせず部屋から蹴り出した。
数分後、扉がぶっ壊れる勢いでドアが開いた。相当疲れたらしく肩で息をしているモードと、それに担がれているセクシーな衣装に身を包み手足を拘束されているエルフの女の子が現れ、モードは女の子をベッドにぶん投げて扉を閉めるとやり切った表情で座った。
「……と、言うわけで連れて来てやったぞ。まぁ、お前らの要望ガン無視だったからな、特別だ」
「んーっ! んーっ!!」
女の子はモードや俺たちを射殺す勢いで睨みつけ、拘束を解こうと暴れている。ライムさんはロンをぎゅっと抱きしめベッドの端で怖がり、リクはエルフの女の子の胸を見て「アリだな」と呟いた。
「とりあえず口輪だけでも取るか……」
女の子をこのままにもしておけないし、と立ち上がり、拘束はそのままにして口輪だけを外して壁に寄りかからせた。叫ばれても面倒だし、いつでも口を押さえられるよう隣に座らせて頂く。
「……なんのつもりだゴミ共。なんだ? アタシに乱暴でもするつもりか? ま、好きにすりゃいいけど、アタシはお前らが喜ぶ様な……そういうアレに屈しないからな」
「絶望的に色気が無いお前に発情する方が凄えなって俺様は思いますゥ」
「俺は興奮した。殴ってエルフちゃん」
思ったよりも静かな女の子に安心しつつ、煽るモードとよく分からん趣向を持っているらしいリクは無視しよう。とりあえず女の子は安心させなきゃな。
「えっと、えっと! ちょっと、いいか?」
ここでライムさんの胸の中に収まっているロンが珍しく声を発した。
「え、ああ……どうしたロン、珍しいな。お兄ちゃんに言ってみ?」
「あの、えっと、拘束見てると落ち着かない……し、ダメなの分かってる、けど、その子の拘束、取ってほしいんだ!」
言いにくそうにたどたどしく頼むロンを見て、ふと故郷の事を思い出した。
「……同情する気持ちは分からんでもねぇが、そいつは女の皮を被ったゴリラ。ソースは俺様何様モード様な。とにかく今はやめとけ。悪いがコイツが落ち着くまで拘束させて貰う」
思わず拘束を解こうとした俺を無言で制し、モードがため息混じりに言った。ライムさんも珍しくモードの意見に賛成らしく、ロンの目元を優しく隠した。せめて見ないように、という配慮だろう。
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