第22話 初メール


 連絡先を遂に交換した。

 その事実は嬉しいのだが、問題はその先だ。

 正直、連絡先を交換して、自分の夏休みが

色付くものだと思っていたのが恥ずかしい。


 その日の夜、自室のベッドの上で、あーでも無いこーでも無いと、メールを書いては消し、書いては消しを繰り返している。


 「……何も思い浮かばん」


 上手い言葉が思い浮かばない。どうやったら自然に、会話に繋げられるのか。

 彼女とのメールの履歴を見てみると、

 "よろしく"と"こちらこそ"の淡白なやり取りしか無い。

 彼女の返信の、"こちらこそ"をもう一度見ると、やはり彼女も女子高生なのだなと思わせる様な、可愛らしい絵文字が添付されていた。

 もっとあの場で色々とやり取りするべきだったと、後悔が押し寄せて来る。

 時間が経てば経つほど、メールが送りにくくなっていた。


 「あー…しんどい……」


 ケータイを閉じ、ベッドの上に大の字に寝転がる。

 自分はこうも女々しいものなのかと、自己嫌悪に陥る。

 康介が言っていた通り、東條さんは人気だ。しかしその人気が、僕に自信を無くさせている。

 

 

 ___ブーッ_____


 すると、ケータイを掴んでいた右手に振動が伝わる。

 脱兎よりも早く、ケータイを開いて確認するとメールが一件、届いていた。

 ニヤける表情を抑えきれずに確認する。

 

 「……なんじゃ、康介じゃんけ……」

 

 その一言は、まるで全く知らないテレビドラマを観た時に出す様な、興味の無いものだった。

 一応内容を確認したが、アイツの兄が川に落ちた時の瞬間を撮ったと言う、写真付きのもので、本当にどうでもいい内容だった。


 「………」


 無言。今自分がどうやってメールを送るか悩んでいるのに、この中身がセミの抜け殻の様に無いメールを送りつけられて、心底うんざりしていた。


 「………っぷ」


 しかし、メールで送られて来た画像を見ると、じわじわと笑えて来る。

 恐らく背中から水に落ちたであろう康介の兄は、着水の瞬間を捉えたのか、大きな水飛沫が上がっている。何かを叫んでいるのか、大きく口も空いていて、それがまた間抜けっぽさを醸し出していた。

 正に、奇跡の一枚というやつだろう。


 "なんじゃこれ、お前が落としたんか?バリウケるんやけど"


 短くそう返信をして、ケータイを閉じる。偶然ではあるが、少し落ち込んだ心を癒してくれた。今度何も言わずに、ジュースでも奢ってやろう。

 そんな事を考えていると、すぐさま、また右手に振動が来る。やけに早い返信だなと思いつつ、再びケータイを開いた。



 "こんばんは、もう寝てるかな?"



 送り主の欄には、東條京香と書かれていた。



 

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